『10代の子どもが育つ魔法の言葉』
[著]ドロシー・ロー・ノルト
[著] レイチャル・ハリス
[訳]雨海弘美
[発行]PHP研究所
親の期待は、子どもの将来を形づくります。期待を言葉にして表現するか、心に秘めておくかは問題ではありません。言葉にしなくとも親の期待は子どもの心に無意識のうちにしみこみ、自分に対する見方の一部になります。わたしたちがわが子に対して抱く希望や夢は、失望やいらだちとともに、子どもの自分観、人生観、世界観に影響を与えるのです。
結局のところ、子どもは親の目を通して世界を見つめつつ成長し、やがて自分なりのまなざしを見つけてゆきます。わたしたちの考え方が楽天的だろうと悲観的だろうと、子どもはそれをお手本にします。可能性を狭めるのも広げるのも、親の世界観しだいなのです。
15歳のブルックは赤十字のために寄付金を募りたいと思い立ちました。そこで自家製のクッキーを焼き、それを売ったお金を寄付したらどうかしら、とお母さんに相談しました。
「どうかしらね」と、お母さんは言いました。「クッキーを売っても大したお金は集まらない。赤十字にしてみたら、とるに足らない金額よ」
「そうね」。ブルックは自家製クッキーの案をあきらめました。
お母さんは現実的な人柄でしたから、自家製クッキーの件も現実的に考えたのです。けれども娘がやる気をなくしてしまってはこまります。お母さんは翌日、もう一度寄付について話をしました。
「寄付金を集めるのに、ほかの方法はないかしら?」。お母さんはブルックに聞きました。
「いろいろ考えたけど、どうせたいしたお金は集まらないと思うの」
ブルックの答えは、お母さんの昨日の言葉をそのまま反映していました。お母さんはシニカルに考えるのをひとまずやめ、娘の明るく前向きな考え方を応援しようと決めました。
「どんなことを考えたの?」と、お母さんは尋ね、ブルックの話に黙って耳を傾けました。
「クッキーのアイデアは悪くないと思うの」。ブルックは話しはじめました。「洗車のサービスと組みあわせたら、どうかな。車を洗っているあいだ、クッキーをおやつに食べてもらうの。クッキーを気に入ったお客さんは、買って帰ってくれるんじゃないかしら」
「洗車代は高くしても大丈夫よ。赤十字なら、みんな寄付したいと思うでしょうからね」と、お母さんは現実派らしくアドバイスしました。
ブルックはさっそく友だちに電話をかけ、計画を練りました。洗車と自家製クッキーのチャリティーは三連休の週末に開催され、たくさんの収益を上げました。ブルックたちは一生懸命クッキーを焼いて車を洗い、お客は救援基金に寄付をしました。
10代の子どもは博愛主義にひかれる傾向にあります。みずみずしい心で若い理想に燃えるのです。そのとき、ブルックのケースのように成功に終わる場合もあれば、まったくうまくゆかない場合もあるでしょう。結果がどうであっても、子どもの善意を育むのは親の仕事です。自分の苦い体験を話したり、否定的な態度で意見したりして、子どものやる気をそぐのは避けましょう。子どもの理想や能力を信じてあげてください。
自分の将来はもちろん、世界の未来を切り開くのは、子どもたちなのです。
子どもを信じる
何があろうと、子どもに対する信頼感は保ちたいものです。子どもがどんな状況にあろうと、子どものよい面を見てあげられればと思います。