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アメリカの大変化を知らない日本人
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政治・社会
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第一章 アメリカと中国の通貨財政同盟が成立した

『アメリカの大変化を知らない日本人』
[著]日高義樹 [発行]PHP研究所


読了目安時間:42分
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第一部 誰がドル体制を守ったか


 二〇一二年冬、北京が最も冷え込んだ日にワシントンから二人の男が北京の中南海を訪れた。二人のうち、ブルーのストライプの背広を着た長身の痩せた男性はアメリカ財務省に新しく設置された情報分析局の敏腕の高官で、もう一人はアメリカ政府からSWIFT(国際銀行間通信協会)に出向しているホワイトハウスの国家安全保障担当補佐である。

 この二人の北京訪問は極秘で、マスコミはもとより北京のアメリカ大使館にも、金融機関にも知らされなかったが、任務の重要性からいうと、四十三年前、ニクソン大統領の密使として、パキスタンの首都イスラマバードから北京に入ったキッシンジャー博士の任務に匹敵するものだった。

 二人の仕事は、拡大を続ける中国経済の象徴とも言える通貨・人民元と、アメリカ通貨・ドルの共存体制を協議するための下準備を行うことだった。

 その半年後、カリフォルニア州のリゾート、ランチョミラージュでアメリカのオバマ大統領と中国の習近平主席が会談した。この会談は二時間あまり続いたが、異例なことに公式の記録が残っていない。

 両国政府は「米中の首脳がお互いをよく知り合うための個人的な話し合いだった」と発表したが、それが嘘であることは明らかだった。この会談の直後から、破綻しつつあったドルと、それまで国際通貨としてまったく力を認められていなかった中国人民元の、二つの通貨に変化が起きた。
「人民元を引き上げなければ、中国からの輸入品に対して数十パーセントの関税をかける」と脅していたアメリカ議会が、中国政府を非難することをやめてしまったのである。

 アメリカ経済を取り仕切っていたガイトナー前財務長官は、中国が政治的に人民元を操っている事実はないと弁護していたが、アメリカ議会は中国政府を疑い、非難し続けていた。その議会が沈黙し、マスコミも人民元を批判する報道をしなくなったのである。

 中国人民元は対ドルで六・一〇から六・二二元程度で安定し、他の通貨と同じように、市場での変動だけが目立つようになった。そしてワシントンでは次のような噂が流れた。
「オバマと習近平の間で通貨についての話し合いがつき、一ドル対六人民元程度の交換レートで安定させることになった」

 これはあくまでも噂だったが、人民元の動きを見れば、ほぼ固定された額で人民元がドルにペッグしたことを示していた。アメリカと中国の首脳が密かに話し合い、莫大な財政赤字のせいで安くなり続けるアメリカドルの崩壊を防ぐために、通貨同盟を結んだことは明らかだった。この同盟のもと、中国は、目減りを続けるアメリカのドル資産を買い続けることを約束したのである。
「中国は、ついにアメリカのドルの罠にはまってしまった」

 ワシントンではこう(ささや)かれたが、中国を罠にかける工作の仕上げに出かけたのが、冒頭に述べた男たちだったのである。アメリカはSWIFTを通じて、中国のあらゆる金融活動を調査分析し、中国全土に蔓延する汚職と政府首脳の不正行為を暴き出した。中国はアメリカの脅しに屈して通貨同盟を結ぶことを承諾させられたのである。

 SWIFTは二〇〇カ国以上の九〇〇〇に上る銀行や金融機関が参加している国際的な金融通信機関で、アルカイダをはじめとするテロリストの資金ネットワークを締めつけていることで知られている。

 SWIFTでは一日に、一五億に上る通信が行き交うといわれている。アメリカはこのSWIFTを使って、中国の金融活動を徹底的に洗い出したのである。SWIFTの情報は世界のあらゆる金融機関に及んでいる。アメリカの財務関係者は口を閉ざしているが、中国共産党の指導者や政治家たちが受け取る賄賂や不正所得の情報は、アメリカ財務省に筒抜けになっているのである。

 アメリカは汚職まみれの中国の政治家を脅して、中国をドル体制にはめ込んだが、その代償を中国に与えることも忘れなかった。人民元を国際通貨として通用させるために手を貸すことになったのである。

 正式な発表はなかったが、中国はBRICSのブラジル、ロシア、インドをはじめ各国とスワップ協定を取り結び、人民元を貿易決済の通貨として使う体制をつくろうと動き始めた。

 中国はまずカザフスタンと一〇億ドルに上るスワップ協定を結び、アルゼンチン、ベラルーシ、インドネシア、マレーシア、韓国、アイルランドともスワップ協定を結んだ。それと前後して、ブラジルとロシア両国も貿易決済にドルではなく、人民元を使うことを検討し始めた。

 こうした人民元の国際化は、ドルとペッグしたことによって可能になったのである。人民元はドルによって国際通貨としての価値を保証され、逆にドルは人民元の持つ将来性によって保証されることになった。

 中国はまた、東南アジアの国々の債券を大量に買い入れ、東南アジア諸国の通貨の交換レートの切り上げに協力し、経済安定に寄与することになった。これについてもアメリカ財務当局が圧力をかけたことは明らかで、「中国はかなり抵抗した」と、関係者が漏らしている。アメリカは、人民元で東南アジア諸国の負債を買い上げれば人民元の国際性が定着する、と中国を説得したのである。

 中国はさらにアメリカ政府の承認のもとに、人民元でアフリカの国々の通貨と債券を買い入れる動きを強めている。中国はアフリカ経済安定の先兵としての機能を果たし始めているのである。

 アメリカはこれまで、中国がイランやイラクから石油を買い入れ、人民元で支払うことに難色を示していたが、ここでも譲歩し、中国が石油の購入代金として人民元を使うことを認めることになった。

 アメリカの株価や債券が上がり始めたのはこのころであった。アメリカ経済はオバマ大統領の経済政策が失敗に終わり、構造改革がまったく行われなかったこともあって失業者が増え続け、金融緩和政策が続くなかで、金利は安いままであった。

 経済の原則として、景気が良くなれば金利が上がり、インフレを相殺するとともに政府支出が減少する。失業者が減らないにもかかわらず、金融緩和政策がとられていることは、経済が基本的にうまくいっていない証拠である。だが株価をはじめ連邦債などウォール街の商品は、値上がりを続けた。
「経済が回復せず、政府支出が減らないなかで、ウォール街の商品だけが値上がりするのはおかしい」

 こうした声も聞かれたが、基本的に上がり続けるアメリカの株や債券類について「バブルだ」という声はまったく聞かれなかった。アメリカのドルが中国人民元と組むことによって体制崩壊の危機を免れて安定したと、多くの人々が安心していたからである。

 ウォール街の株価は、一般的な経済が回復しないなかで十週間にわたって上がり続けた。そして乱高下することもなく、二〇一三年末まで上昇を続けた。ウォール街でこのような現象が見られたのは、何十年ぶりかのことだった。

 株価の上昇は、日本でも同じだが、人々の資産を増やすことにつながる。FRB(連邦準備制度理事会)が二〇一三年十二月十日に発表したところでは、アメリカの個人資産は第3四半期の三カ月間に、二兆ドル近くも増えている。

 その結果、アメリカの個人資産の総額は七七兆ドルを超えたが、増加の最大の部分は株価の上昇によるもので、一兆ドル近くが増え、それに並んで不動産も五〇〇〇億ドル程度、拡大している。こうした状況が波及的な効果を及ぼして、アメリカ経済は失業率も七パーセントに下がり、工場生産高や、個人の消費も大きく伸び始めている。

 アメリカの景気の回復や、株価および債券の値上がりは、アメリカがドル体制と財政の確立に成功したことを示している。言葉を換えれば、アメリカが通貨戦争と財政戦争に勝ったからだと言うことができる。
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