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(2021/11/26 追記)

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3・11に勝つ日本経済
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政治・社会
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第4章 「ガラパゴス化」のどこが悪い?

『3・11に勝つ日本経済』
[著]増田悦佐 [発行]PHP研究所


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 日本の経済力が低下しているという根も葉もない議論が、大量宣伝の力によってあたかも事実であるかのようにまかり通っている。そして、その論拠としてひんぱんに持ち出されるのは、木を見て森を見ないたった一つの実例にすぎない。

性能がよすぎて世界に受け入れられない携帯で何か問題があるのか?


 すなわち、「日本の携帯電話は非常に要求の厳しい日本の消費者向きに高性能を追求しすぎて、もっと性能は単純だが見てくれがよかったり、操作性に新鮮味があるだけの世界標準携帯とは無縁の発展をしてしまった。まるで、ガラパゴス島で進化した動植物が、世界中ほかのところでは生きていけない小さな世界に閉じこもる種ばかりになったのと同じだ」というわけだ。

 見てくれや操作性の新奇さに大衆が飽きたころ、世界中の携帯電話メーカーは、日本の携帯電話が持つすばらしい基本性能についてこられるのだろうか。もしできなかったら、日本のメーカーが性能を下げたものもつくってやればいいだけのことだ。

 日本のメーカーが自国の消費者の高い要求水準に一生懸命応えつづけることを抑制しようなどというのは、論外だ。日本経済が持つ最大の強みをドブに流してしまうような愚行だからだ。

 二十年以上もアメリカでコンサルタントをしている海部美知という人が、しばらく前に『パラダイス鎖国』という本を書いて、ちょっとした話題になった。この本の論旨をわたしなりに要約すると、
「日本があまりにも豊かで、平和で、清潔で便利になったために、日本人は、海外に進出して一山当ててやろうといった野心を持たなくなった。だが、こんなに意欲に欠けた生活を続けていると、ぬるま湯から出られないまま茹でガエルになってしまう。日本人よ、目覚めよ。そして、世界に飛び出して活躍せよ」

 といったところだろうか。

 たしかに、サブプライムローン・バブルが崩壊してからも、金融収縮が日本人の日常生活に及ぼす影響は、世界一と言ってもいいほど小さいものだった。その意味では、日本人は間違いなくのどかなぬるま湯の中にいる。

 アメリカ暮らしが長かった人ならほとんどだれでも、海部が以下で指摘するような、日本の日常生活の快適さに同感するだろう。そして「日本人一般、とくに若い人たちの間で、外国に対する憧れがなくなりつつある」という観察にも、相槌を打つに違いない。


 バブルのころよりモノが安く手に入るようになった気がする。しかも種類が豊富で、どこに行ってもなんでも買える。地下鉄の新しい路線や相互乗り入れが増え、道路は整備され、交通は格段に便利になった。携帯電話が普及し、かなりの地方へ行っても電波が通じる。オフィスビルは立派になり、トイレはウォシュレットが普通になり、道路にはゴミひとつ落ちていない。むしろアメリカのほうが、不便な点、危険な場面、汚い場所がたくさんある。
(中略)「もう、日本人は海外に行きたくなくなったし、海外のことに興味がなくなったのかもしれない」と感じた。そして、その状態を「パラダイス鎖国」と名づけた。
海部美知『パラダイス鎖国』、一二〜一三ページ 


 日本人はたしかにぬるま湯の中にいる。だが、それは本当に「ぬるま湯の中の衰退」を意味しているのだろうか。私はそうは思わない。反対に「ぬるま湯の中のひとり勝ち」ではないかと考える。

暮らしやすくなった日本の経済は落ち目なのか?


 最近の若い人たちについても、一概に海外への興味を失ったとは思えない。彼らの思惑をやや丁寧に代弁すると、
「何もわざわざ自分が出張っていかなくても、昔から着実に海外に進出し、努力を積み重ねている人たちが、きっとうまくやってくれるにちがいない」

 といったものになるだろう。そう考える根拠は、日本企業の海外での好調ぶりである。とくに、今いちばん急速に成長していて、不況の中で輸出を伸ばしたい企業が世界中から押し寄せているアジア市場で、日本企業はますます収益性を高めている。

 二〇〇九年度の上半期(四〜九月)は、品質志向の高級な資本財・中間財に大きく傾斜した日本の輸出産業にとっては、おそらく最悪の半年だった。とにかく、リーマンショック直後からの金融市場の大混乱で、世界中の設備投資が激減した時期だったからだ。

 その二〇〇九年度の上半期に日本の上場企業が全体として、世界各地域でどの程度の営業利益を稼いだかという統計がある。そのデータによると、日本の上場企業のアジア・オセアニア地域の売上高は、直前の二〇〇八年度下半期(二〇〇八年十月〜〇九年三月)に対して二%減の一六兆二〇〇〇億円にとどまったが、営業利益はじつに四九%も伸びて七六三八億円となった。これは、日本の上場企業が自国を含め、世界中で稼ぎ出した営業利益の四六%にのぼる。

 世界各地域の売上構成比と営業損益率を表にすると、次に示す通りになっていた。



 世界中でいちばんしぶとく成長を維持していたアジア市場で、相当な競争激化にもかかわらず、日本企業は売上をほぼ横ばいに保ちながら、営業利益率を急改善している。また、『日本経済新聞』の記事から推計すると、日本の上場企業の二〇〇八年度下半期のアジア・オセアニア地域での営業利益率は、三・一三%だったはずだ。もし、この地域で約一・六%の営業利益率の改善がなかったら、〇九年度上半期の日本企業の収益性は惨憺たるものになっただろう。

 なお、日本国内での営業利益率〇・六%という数字については、多くの経済評論家やアナリストが、日本経済の弱さの象徴のように説明するだろう。何しろ、たった一%の金利でカネを借りていても足が出てしまうほどの低収益なのだ。

 しかし、わたしの見方は逆だ。この国内での利益率の低さこそ、日本経済全体の健全性、効率性の象徴だと考える。まあ、さすがに〇・六%というのは、世界大不況の影響がまだ癒えていない時期の一過性のもので、本来はもうちょっと高い数字が出てもいいはずだったが。
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