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政治・社会
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第二章 イラクからの撤兵は難しい

『ブッシュのあとの世界』
[著]日高義樹 [発行]PHP研究所


読了目安時間:37分
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第一節 誰もイラク戦争をやめろとは言わなかった


 二〇〇六年のアメリカ中間選挙では上下両院で民主党が十二年ぶりに多数を占め、知事選挙でも大統領選挙に影響のある六つの大きな州で勝った。『ニューヨーク・タイムズ』などアメリカのマスコミは「アメリカの政治の流れが大きく変わった」と伝えた。十二年ぶりに少数野党の民主党が多数を占め、大きな州の州知事を獲得したことはたしかにアメリカ政治にとって大変化だと言ってもよい。友人のジャーナリスト、ロバート・ノバックは次のように私に言っている。
「アメリカ民主党が歴史的な勝利を収めたため、ブッシュ大統領は公式にレイムダックになった」

 レイムダックとはそのまま訳せば「傷ついたアヒル」、任期が終わりに近づいて職務がうまく果たせなくなった大統領や議会などに使われる言葉である。これからブッシュ大統領が何をやろうとしても議会が反対し、法案が通らないという事態が起きてくる。

 もっとも、中間選挙からしばらく()ち、ではアメリカ政治の何が変わったかと見れば、いまのところ現実にはあまり多くのことは変わっていない。その第一がイラク戦争である。

 イラク戦争については、アメリカのマスコミのほとんどが真正面から反対してきた。イラクで大量破壊兵器が見つからなかったときから「ブッシュ大統領は嘘をついて戦争を始めた」と批判しつづけてきたが、ブッシュ大統領が戦争を続ける態度を変えなかったため、ついには真正面から衝突というかたちになった。

 二〇〇六年の中間選挙でブッシュ大統領の与党共和党が敗れた原因の一つは、アメリカのマスコミが敵に回ったからである。普通なら下院議員の選挙は地元の利害に関わる、ごく狭い範囲の選挙になるが、二〇〇六年はマスコミが「イラクについて大統領の信任を問う選挙」だと大宣伝を続け、これに対抗してブッシュ大統領がアメリカ中を走り回ったために、まるで全国選挙のような格好になってしまった。

 だが詳しく分析してみれば、イラク戦争は今度の選挙の争点にはなっていなかったのである。すでに述べたように「イラク戦争をただちにやめて撤兵すべし」と言って選挙を戦った候補者たちはほとんどいなかった。イラク戦争について候補者たちは「このままではいけない」と言っていただけなのだ。
「戦争のやり方が悪い」「テロリストの扱いを人道的にするべきだ」「ラムズフェルド国防長官を辞めさせるべきだ」といった主張が、新聞のトップを連日飾ったが、選挙直前の世論調査でもアメリカ国民の多くはイラク戦争をただちにやめよとは言っていなかった。

 世論調査の結果というのは、聞き方で違ってくるのは確かだが、「サダム・フセインを倒したことは正しかったか」「中東の石油を守るべきか」といった質問については、ときには八〇パーセント以上の人々がブッシュ大統領のやり方を支持していた。

 したがって今度の選挙では、一九六〇年代の終わりや七〇年代の初めに湧き上がったベトナム戦争反対と同じような大きな動きはまったく見られなかった。ただ長引くイラク戦争について国民は苛立ち、兵力を撤退させる方法を考えるべきだという部分的な問題が取り上げられたにすぎなかった。つまりイラク戦争そのものではなく、戦争のやり方が争点だったのである。

 したがってイラク戦争という問題を取り上げてみても、今度のアメリカの中間選挙でアメリカの政治の流れが大きく変わったとは言えない。これはイラク戦争の戦略に手を貸したハドソン研究所の学者たちにも責任の一端があるが、当初はサダム・フセインを倒すことが目的で、それ以降のことは深く考えていなかった。イラク戦争の責任者の一人だった国防政策委員会のリチャード・パール博士が私にこう言ったことがある。
「サダム・フセインを倒せば、イラク中の人が星条旗を手に持って迎えに出てくるだろう」

 イラクの首都バグダッドが陥落した直後は、たしかにそのとおりになったが、すぐに反政府テロによる攻撃が始まり、二〇〇六年の夏には、アメリカのマスコミがそろって「内戦」と規定した、宗派の違うイスラム同士の殺し合いがひどくなった。

 この結果イラク人だけでなく、アメリカ兵士の死傷者が再び増えはじめ、マスコミや専門家は戦略を変えるべきだと批判したが、そのたびにブッシュ大統領は「ステイ・オン・コース」、つまりあくまで決めた路線を行くと主張してマスコミと対決した。

 イラク戦争が今度の中間選挙の争点でなかったことは、戦争をただちに中止せよという声がきわめて少なかったことに表れているが、軍事専門家から見ても実際に戦争をすぐにやめることは非常に難しい。戦争を始めたときに将来を見越した戦略がなかったのがたたって、どういうかたちで戦争を終わるべきかという戦略がまるでないのである。

 現在のイラクでアメリカ軍がやっている戦いというのは、最前線の兵士がテロリストと小銃や機関銃を撃ち合うというものである。十数メートル隔てたところから防御用の柵や鉄板を隔てて撃ち合っているが、こうした戦いはアメリカ軍が最も嫌っているものである。一部の海兵隊を除いては、そうした戦いの訓練を行なっていないからだ。

 だがテロリストたちは一般市民にまぎれて住んでいるため、戦車や戦闘爆撃機による攻撃はほとんど不可能である。このためイラク戦争については、現地に派遣されている新聞記者たちが、戦いの状態は報道するものの、どうやって戦争を終わらせるかといった問題は、中間選挙の間際まで、論争になっていなかった。

 だが選挙戦が激しくなるとともに、リベラル派のマスコミがイラク戦争をあたかも争点であるかのように連日報道したため、ブッシュ大統領の支持勢力まで分裂してしまった。二〇〇六年の中間選挙ほど票読みが難しかった選挙はないと友人のジャーナリストがこぼしたが、わずかな票の差で勝った候補者も多く、なかには当選確実とされながら、結果が逆転してしまった候補者もいたのである。

 したがってマスコミが派手に騒ぎ立てたわりには、いまのところ何も変わっていない。共和党の敗北で、「ブッシュ大統領に対して国民の意思が伝えられた」といったんは満足したアメリカのマスコミも、いまやイラクからの撤兵をめぐって意見が分かれ、侃々諤々(かんかんがくがく)の論争を続けている。

 結局のところ誰もが、基本的にはここでイラクを放り出すことができないのを承知しているのである。アメリカ軍がこのまま戦いを放り出してイラクを去れば、イラク、ひいては中東のメルトダウンが始まることを恐れている。石油を考えればベトナムのように戦いから逃げ出すわけにいかないことは誰の目にも明らかだ。
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