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ブッシュのあとの世界
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政治・社会
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第四章 日本は中国に敗れた

『ブッシュのあとの世界』
[著]日高義樹 [発行]PHP研究所


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第一節 中国がアジアに外交上の覇権を確立した


 二〇〇六年十一月、ベトナムの首都ハノイでAPECの会議が行なわれた。ブッシュ大統領は初めてベトナムを訪問することになったが、出発に先立ってホワイトハウスで国家安全保障会議が開かれた。中間選挙でブッシュ陣営が大敗を喫した直後で、ホワイトハウスはまだ混乱していたが、北朝鮮問題についてアメリカの基本的な政策を打ち出しておかなければならなかった。中間選挙で示されたアメリカ国民の意思に基づいて、新たな北朝鮮政策を確立する必要に迫られていたのである。

 ブッシュ大統領は会議を好まない。ホワイトハウスに入ったあとも正式な国家安全保障会議を数えるほどしか開いていない。だが中間選挙の結果を見て、アメリカ国民のブッシュ政権に対する信頼が揺らいでいることを知って、外交上の新しい取り組み方を示すためにも正式な会議が必要だと考えたのである。ブッシュ政権はまた、経済問題が主体であるAPECを政治、軍事の問題にも関わらせようと考え、ハノイでの総会をまずその第一歩にしようとしていた。

 この会議に出席した私の友人によると、ブッシュ大統領とその側近は、中国がアジアにおいて外交上の覇権を確立したという前提で、専門スタッフによる対アジア戦略、特に北朝鮮政策の提案を求めたという。
「ブッシュ大統領の側近は安倍首相が就任早々北京を訪問したのは、靖国神社の参拝を取りやめることを暗に伝えるためだった。アメリカよりも先に中国と外交問題について協議を始めたことは、日本政府が中国の外交攻勢に屈してしまったのだと受け取っている」

 ホワイトハウスの友人がこう私に言ったが、この見方はアメリカのマスコミもしばしば指摘している。日本のマスコミや専門家は、安倍首相が靖国問題で膠着してしまった日中関係を打開するため、首相になるやいなや北京へ飛んだことを、外交上の業績、つまり成功と考えている。「靖国問題の棚上げ」という安倍政権のやり方を日本外交の成功であると伝えた。

 日本の専門家はまた、中国が経済的に多くの難問を抱え、経済成長も頭打ちになろうとしているときに、安倍首相が靖国参拝問題を棚上げにして北京へやってきたことを大歓迎したと伝えた。つまり中国側も国内事情から靖国参拝問題を棚上げした日中首脳会談を望んでいると解釈したのである。ワシントンにこうした見方がないわけではないが、保守派の人々は安倍首相や日本政府が「外交」というものを理解していないのではないかと懸念している。

 国際社会の常識から見れば、靖国参拝問題はどこの国にもある国内問題である。その国内問題に中国側がいわゆるいちゃもんをつけた。これは中国の日本に対する外交的な攻撃にほかならない。
「ベトナム戦争の死者を悼むベトナム・メモリアルに大統領がお参りしたらベトナム政府から文句が来たというようなものだな。中国政府がやっていることはまったくの言いがかりだ。なぜNOBと言ってやらないんだ」

 靖国問題がアメリカで聞かれるようになったとき、ジャーナリトの友人が私にこう言った。NOBとは「None of your business」つまり「あんたには関係ない」という台詞の略で、アメリカ人がよく使う表現である。要するに中国が日本の首相の靖国参拝について日本国内で対立があるのを利用し、日本の上に立つ機会をとらえたにすぎないということが、アメリカ人の目にはよく見えているのである。

 中国はアジア全域に中国外交の覇権を確立すべく努力してきている。中国の威信をアジア中に行き渡らせることによって中国流の政治経済をアジアに確立したいと考えているからである。究極の目的はむろん、中国のやり方でアジア全体を動かすことである。

 こうした中国のやり方は、国際的に見れば覇権主義そのものであり、中国の力によってアジアや世界を動かそうという権威主義でもある。
「中国がアジアで覇権を確立しようとするとき、真っ先に邪魔になるのは日本だ。その日本の影響を排除するために中国は外交的な攻勢を続けてきた」

 ハドソン研究所の専門家はこう見ている。靖国問題は中国にとって日本の力を削ぎ、影響力を失わせる、まことに手頃な道具なのである。中国は日本政府の第二次大戦中のやり方、つまり戦争を引き起こしたマイナスの遺産を攻撃することによってアジアに対する日本の影響力を弱めようとしてきている。

 アジア全体を見れば、日本がアメリカやヨーロッパ諸国と戦ったことについて、すべての国が非難攻撃しているわけではない。よく言われることだが、日本の戦いがきっかけになって、それぞれの国が欧米の植民地政策から逃れ独立することができたと考えている指導者たちも少なくない。

 だが中国、韓国それに北朝鮮は日本の起こした戦争を全面的に攻撃し、中国は日本の存在そのものまで非難している。歴史的な考察はどこにもない。つまり外交上の駆け引きに使っているだけなのだ。こうした外交上の対立関係を理解しないため、日本のマスコミや指導者は、なぜ中国が靖国問題を取り上げ、日本を攻撃したかという本当の理由について正しい理解をしないできた。
「中国が靖国問題を使って日本を攻撃したのは、かたちを変えた戦争とも言える。日本との対決を示すものだ」

 ワシントンの保守派の人々はこう考えている。小泉前首相の靖国参拝は、中国側の日本に対する外交攻勢に対抗するためであり、日本の独自性を国際的に示すためだった。靖国参拝問題の棚上げは、靖国神社参拝の中止であり、中国と日本の外交上の戦いは中国の勝利に終わった。

 安倍首相は国際社会の現実と厳しさを深く考えずに、国内政治の延長線上で日中首脳会談を行なってしまった。国際社会の常識で言えば、靖国問題の棚上げとはつまり参拝を取りやめることである。靖国神社の参拝の中止ではなく、明確にしないまま一時的に問題を凍結することだという日本側の解釈は通らないのだ。

 日本側は「棚上げ」によって、どうにもならなくなった日中の関係を話し合いの状態に戻したとして、政治的な成功だったと宣伝しているが、ワシントンでは受け入れられていない。
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