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子どもが育つ魔法の言葉
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はじめに――詩「子は親の鏡」の生い立ち

『子どもが育つ魔法の言葉』
[著]ドロシー・ロー・ノルト [著] レイチャル・ハリス [訳]石井千春 [発行]PHP研究所


読了目安時間:8分
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ドロシー・ロー・ノルト 



 詩「子は親の鏡」を書いたのは、一九五四年のことです。当時わたしは南カリフォルニアの新聞に、豊かな家庭生活についてのコラムを連載していました。わたしには、十二歳の娘と九歳の息子がいました。地域の公開講座で家庭生活に関する講義を行ない、保育園で子育て教室の主任を務めていました。後に、この詩が、世界中の人々に読まれることになるとは、まったく予想だにしていませんでした。


 わたしは、詩「子は親の鏡」で、当時の親御さんたちの悩みに答えたいと思っていました。どんな親になったらいいのか、その答えをこの詩に託したのです。五〇年代のアメリカでは、子どもを厳しく叱ることが親の役目だと思われていました。子育てで大切なのは、子どもを導くことなのだと考える人はあまりいなかったのです。


 子どもは親を手本として育ちます。毎日の生活での親の姿こそが、子どもに最も影響力を持つのです。わたしは、詩「子は親の鏡」で、それを表現したかったのです。


 この詩は、長い間、様々な形で人々に親しまれてきました。アボットラボラトリー支社ロスプロダクツによって、詩の短縮版が病院で配布されました。そして、新しく親になる何百万人というお母さん、お父さんに読まれてきました。この詩はまた、十カ国語に翻訳されて世界中で出版されました。そして、子育て教室や教員セミナーのカリキュラムの一部として、教会や教室で使われてきました。この詩が、親御さんたちのよき道案内となり、(はげ)ましとなってくれればとわたしは願ってきました。わたしたち親は、子育てという、人生で一番大切な仕事に取り組んでいるのです。


 一方で、詩「子は親の鏡」は、初めて出版されて以来、わたしの意志とは無関係に、独り歩きしてしまいました。意味を取り違えた書き替えや引用はもちろんのこと、商業的に利用されたこともありました。あるとき、本屋で、こんな文句を目にしたこともあります。

「本にかこまれて育てば、子どもは知恵を学ぶ」


 詩のタイトルも、いろいろとつけられました。たとえば、「子どもの信条」「親の信条」「子どもが学ぶこと」。日本では、「アメリカインディアンの教え」とされました(この詩はアメリカインディアンの子育ての知恵を説いたものだと誤解されてしまったのです)。それでも、詩「子は親の鏡」は、生きのびてきました。


 こんなふうに自分の詩が独り歩きしてしまっているのを、わたしはしかたのないことだと思ってはいました。でも、どうしても譲れないと思ったこともありました。たとえば、詩の最後の行をこう書き替えてあったのです。

「和気あいあいとした家庭で育てば、子どもは、この世に愛を見いだせるようになる」


 この世には愛がある、その愛を探し求めよ、というのはおかしいのではないかとわたしは思います。愛とは、わたしたち自身の心のなかにあるものです。心に愛のある人が愛を生み出すことができるのです。そして、その愛が、人から人へと伝わっていくのです。愛とは、財宝や富のように探し求めるものではありません。わたしのオリジナルでは、詩の最後は、

「和気あいあいとした家庭で育てば、子どもは、この世の中はいいところだと思えるようになる」と記してあります。


 わたしは、子どもたちが人生の荒波にもまれても(くじ)けず、希望を持って生きてほしいという願いをこめて、この最後の一行を書いたのです。


 詩「子は親の鏡」を、皆さんがこの先何かの雑誌で目にしたり、どこかの壁や誰かの家の冷蔵庫に貼りつけてあるのを見かけたりしたら、こんな詩の背景を思い出してください。たとえ「この詩は作者()(しよう)」と書いてあったとしても。



 この詩と時代の流れ


 時代の流れにしたがって、わたしもこの詩に手を加えてきました。以前は、英語の文法上の決まりにしたがって、「子ども(child)」という主語を、「彼(he)」という代名詞で受けていました。しかし、では、子どもには女の子は入らないのかというジェンダーをめぐる疑問が八〇年代に生まれてきました。そこで、わたしは、詩を書きなおしました。主語の「子ども」を複数形(children)にすることによって、女の子も男の子も含まれる代名詞(they=「子どもたち」)で受けるように訂正したのです。


 また、以前は一つの行であったものを、二つの行に書き分けました。

「親が正直で公平であれば、子どもは正直で正義感のある子に育つ」という一行を、

「親が正直であれば、子どもも正直になる」


 と、

「子どもに公平であれば、子どもは、正義感のある子に育つ」


 という二つに分けたのです。


 子どもは、正直であることと公平であることとは違うと考えています。また、このように二つに分けることによって、正直であることと正義とは異なった価値観であるということを明らかにすることができました。


 一九九〇年には、「やさしく、思いやりをもって育てれば、子どもは、やさしい子に育つ」という新しい一行を書き加えました。現代社会では、様々な文化的背景を持った、自分とは異なる人々が共存するようになっています。そんな複雑な現代社会に生きるには、人に対するやさしさがぜひとも必要です。そんな考えをもとに、わたしは、この一行を書き加えたのです。


 このたび、この本を書くにあたって、「親が正直であれば、子どもも正直になる」という行を、わたしはもう一度、考えなおしてみました。五〇年代半ばにこの詩を書いたときには、「正直であること」は難しいことではありませんでした。けれども、あれから四十年以上たった今、わたしたちの日常生活や人間関係はとても複雑化しています。正直であることが、ほかの人々にとって、またその状況にとって、必ずしもよいことだとはいえない状況がますます増えているのです。


 わたしは、最終的に、この行を「親が正直であれば、子どもは、正直であることの大切さを知る」と書きなおしました。今の世の中では、常に正直であることは不可能でしょう。しかし、正直であることの大切さだけは、子どもに伝えなくてはならないのです。


 この本の冒頭には、詩「子は親の鏡」が掲げてあります。これは、このような経緯を経て完成した、最新のものです。



 この詩と読者の皆さん


 この詩の読者の皆さんからは、今まで何度もあたたかい言葉をかけていただきました。あるお母さんに、「実は、この詩を、トイレに貼ってあるんです」と話しかけられたこともありました。このお母さんにとって、家の中で一人になれる場所はトイレだけだったのでしょう。トイレは逃避所、親としての自信を失ったとき頭を冷やすために逃げ込む場所だと言っていました。この詩を、ガレージの作業台の上に貼っていると話してくれたお父さんもいました。二人とも、この詩を読んで、親としての自分を考えなおし、元気を取り戻すことができたと言ってくれました。


 孫の、いいおばあちゃんになるために、この詩を読み返していると話してくれた方もいます。この方は、母親現役時代には、この詩を子育てのバイブルとして愛読していたそうです。また、あるお母さんは、この詩を読んで初めて子どもの育て方が分かったと手紙をくれました。ありがたいことに、このように詩「子は親の鏡」は多くの皆さんに愛読され、親のあり方の手本として読み継がれてきました。


 わたしがこの詩で伝えたいことは、とてもシンプルです。子どもは常に、親から学んでいるということです。子どもは、いつも親の姿を見ています。ああしなさい、こうしなさいという親の(しつけ)の言葉よりも、親のありのままの姿のほうを、子どもはよく覚えています。親は、子どもにとって、人生で最初に出会う、最も影響力のある「手本」なのです。子どもは、毎日の生活のなかでの親の姿や生き方から、よいことも悪いこともすべて吸収してしまいます。口で何かを教え込もうとしてもダメなのです。親がどんなふうに喜怒哀楽を表すか、どんなふうに人と接しているか。その親の姿が、手本として、子どもに生涯影響力を持ちつづけることになるのです。


 子どもは、皆個性豊かです。自分で何かを創り出し、自分でものを考える力を持っています。親としての真の喜びは、その子の個性を伸ばし、生き生きした毎日を送ることができるように見守ることではないでしょうか。


 子どもは、大切な家族の一員です。子どもは、自由で発想豊かです。そんな子どもの心を知れば、わたしたち親もまた、子どもと共に成長し、学ぶことができます。家族の(きずな)を深めることができるのです。


 皆さんは、わたしの詩を読まれて、「こういうことは、もう分かっている」と思われたかもしれません。たしかに、この詩は、皆さんが親としてすでに気づいておられることを言葉にしたものなのです。本書では、そんな詩「子は親の鏡」を一行ずつ取り上げ、詩の内容について、詳しい解説を試みました。子育てについて読者の皆さんと語り合っているような気持ちで、わたしはこの本を書きました。詩「子は親の鏡」が、子育てをしているお母さんやお父さんにとって、ますます身近な存在になってくれることを心から願っています。


 子どもは、本当に日々親から学んでいます。そして、大人になったとき、それを人生の(かて)として生きてゆくのです。


 最後に、日本における本シリーズの企画・編集を担当してくださった私の友人、PHPの西村映子さんに、文庫化にあたっては四井優規子さんに心より御礼申し上げます。

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