『子どもが育つ魔法の言葉』
[著]ドロシー・ロー・ノルト
[著] レイチャル・ハリス
[訳]石井千春
[発行]PHP研究所
子どもは、怖いことが大好きです。怖い話、怖い映画にわくわくドキドキ胸をときめかせます。お化けごっこも大好きです。
わたし自身思い出すのは、小学生のころのことです。毎週金曜の晩に、近所の家に集まって、部屋の灯りを消し、ラジオの怖い話を聴いたものでした。それは「魔女の物語」という番組で、題名からしてレトロですが、当時は本当に恐ろしいものでした。なんといっても一番怖かったのは(そして、一番楽しかったのは)、番組が終わって、みんなで家へ帰るときでした。暗い夜道を平気なふりをして歩いてゆくのです。暗がりから何が飛び出してくるかと思うと、死ぬほど怖かったものです。もちろんそれがこの上なく楽しかったのは言うまでもありません。でも、こんなふうに恐怖を楽しめたのは、明るい灯りの灯ったわが家に帰りつけるという安心感があったからこそなのです。
本物の恐怖は、これとはまったく違います。親から受ける暴力、虐待や無関心、生死にかかわる病、あるいは身近な人から受けるいじめなどは子どもにとっては実に恐ろしい体験です。くる日もくる日もそんな恐怖を感じていたら、子どもはおどおどし、いつも不安な気持ちでいることになります。安心できる環境が整っていなければ、子どもの健全な成長は望めません。このような子どもは、人ともうまく付き合えなくなり、何事においても消極的になってしまいます。
子どもは何を怖がるか
どうしてそんなことが怖いのかと、大人は子どもの気持ちを理解できないことがあります。大人にとっては何でもないことが、たとえば、隣の犬や楓の枯れ枝など、子どもには死ぬほど怖いことがあります。また、何でもない大人の一言に驚いてしまうこともあるでしょう。ある三歳の女の子が、お母さんにこう尋ねたそうです。
「ほんとに、ママは、骨が折れちゃったの? キャシーおばさんにそう言ったでしょう」
子どもは、言葉を文字どおりに受け取ってしまうことがあるものです。この女の子は、「骨が折れる」の本当の意味を教えてもらって、やっと安心しました。
子どもが怖いと言ったときには、親はばかばかしいと思わずに、真剣に耳を傾けたいものです。怖いと思っている子ども本人にとって、恐怖は現実そのものなのです。わたしたち大人は、子どもの目で物事を見るように心がけたいと思います。