『子どもが育つ魔法の言葉』
[著]ドロシー・ロー・ノルト
[著] レイチャル・ハリス
[訳]石井千春
[発行]PHP研究所
正直であることの大切さを教えるのは、おそらく、一番難しいことの一つだと思います。わたしたち親は、わが子が正直な人間に育ってほしいと願っています。しかし、そんな親自身が日頃一〇〇パーセント正直であるかといったら、そんなことはないからです。
どのような状況でどこまで正直になれるかは、とても複雑で個別的な問題だと言えます。たとえば、わたしたちは、サンタクロースや虫歯の妖精の話など、罪のない物語を子どもに語って聞かせます。これも一種の嘘だと言われればそれまででしょう。子どもの年齢を偽って、飛行機や電車の料金を払わずにすませる親御さんもいらっしゃるかもしれません。これを嘘をつく行為だと言われれば、たしかにそのとおりです。
わたしたちは、めんどうなときや時間がないとき、あるいは他人の感情を傷つけたくないときなどに、程度の差こそあれ、軽い嘘をつくことがよくあります。けれど、それはしかたのないことだとも言えます。正直であることが、必ずしもいつもよいことであるとはかぎらないからです。
正直であることは、大人にとってもこんなに難しいことです。ですから、子どもにとってはなおさらです。子どもは、きっとこう思うことでしょう。親は、正直なのは大切なことだと言っている。なのに、そんな親がよく嘘をつくし、自分が正直に何か言うと困った顔をすることがある。どうしたらいいんだろう……。
では、わたしたち親は、どのようにして、子どもに正直であることの大切さを教えたらいいのでしょうか。
あったことをありのままに伝えさせる
正直であるということは、つまり誠実であるということだと、わたしは思っています。このことを、まず子どもに教えてください。正直な人は、見たこと、聞いたことをありのままに伝えることができます。自分の都合や願望で現実を歪めたり、否定したりはしないのです。つまり、正直な人は、自分の経験に対して誠実なのです。
しかし、子どもが大きくなってからは、本当のことを言わずにおく分別というものも教えてゆく必要があります。時と場合によっては、本当のことを言わずにおいたほうがいいこともあるものです。ですから、それを見極める分別というものを、子どもに教えてください。また、嘘をつくつもりではなくとも、人は、思い違いをして、事実とは異なったことを言ってしまう場合もあります。そのことも子どもに理解させたいものです。嘘がいけないのは、意図的に人を騙そうとするからです。しかし、騙そうという気持ちはなくとも、人は思い違いをして、事実ではないことを言ってしまうこともあるのです。
まず、子どもに教えてほしいことは、たとえ自分に都合の悪いことでも、事実をありのままに認識し、それから逃げない態度です。何が起こったのか、自分は何をしたのかを、ありのままに伝えさせるのです。事実と作り話との区別をはっきりさせなくてはなりません。相手の機嫌を取るために話を膨らませたり、自分の都合のいいことだけを話したり、勝手に話をでっちあげたりさせないように気を配りたいものです。
よく嘘をつく子がいるとします。なぜ正直に、本当のことが言えないのでしょうか。それは、たいていの場合、本当のことを言ったら叱られると思うからなのです。ですから、たとえ悪いことをしたとしても、子どもが正直にそれを伝えたのなら、親は、その正直さを誉めてあげなくてはなりません。もちろん、たとえどんなにひどいことをしても、正直に伝えさえすればそれですむというわけではありません。