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アメリカの新・中国戦略を知らない日本人
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政治・社会
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第一部 オバマ政権は五〇パーセント政権になった

『アメリカの新・中国戦略を知らない日本人』
[著]日高義樹 [発行]PHP研究所


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 二〇一二年の大統領選挙の直前、私は共和党の上院議員総会会長代行のロイ・ブラント上院議員とテレビ番組のためにインタビューした。ブラント会長代行はミズーリ州の選出で、アメリカ上院のオフィスを訪れると、大先輩の政治家であるトルーマン大統領の写真や胸像が飾られていた。

 約束の時間ぴったりに姿を現したブラント会長代行はがっしりした体つきで、五十歳の若さながら、アメリカ共和党を取り仕切っているという、自信に溢れた強い表情をしていた。深いブルーの明るい目と活発なしゃべり方が印象的で、オバマ大統領の政策的な失敗を分かりやすく説明し、大統領選挙は共和党が勝つだろうと予言した。

 選挙の結果はオバマ大統領が再選され、共和党が敗れた。だがオバマ大統領の支持率は大きく下がり、ある意味で言えば国民に信任されていないことが明らかになった。この本では今度のアメリカ大統領選挙戦の結果、アメリカ、とくにアメリカの中国政策がどう動くかを明らかにしたいと思っているが、今度の選挙戦についてのアメリカ保守派の考え方をまず聞いてみよう。

 全米商工会議所のトム・ドナヒュー会長は長いあいだアメリカ政治と関わり合ってきたが、今回までは大統領選挙に正面から取り組み、候補者をはっきり支援したことはなかった。そのドナヒュー会長が二〇一一年の初め、私にはっきりとこう言った。
「オバマを落選させなければならない。オバマの企業に対する規制はアメリカ企業の収益率を悪くしている。オバマ政権になって企業の能率は落ちてしまった。そのうえオバマは増税をしようと考えている。このままではアメリカの中小企業は全滅する」

 ドナヒュー会長は全米三〇〇万の中小企業の代表として、これまで政治的には白黒をはっきりさせず、曖昧な姿勢を続けながら結果的には効果を上げてきた。しかしながら、オバマ大統領が社会主義的な政策をとり、規制を強化した結果、全米商工会議所傘下の中小企業に被害が及ぼうとしていた。

 この時のトム・ドナヒュー会長は、私が知り合ってから見たこともないほど厳しい表情をした。大きな目がより大きく見開かれ、鋭角的な口元がきわめて戦闘的に見えた。ドナヒュー会長が腹を立てていたのは、「オバマケア」と呼ばれるオバマ大統領の新しい健康保険制度が中小企業の経営者に重荷になるだけでなく、環境保護政策があまりにも厳しく、企業活動を損ねていたからだ。
「ワシントンでいま最も権威があり、力を持っているのはEPAだ」

 当時、ワシントンではこういわれていた。EPAとは環境保護局である。オバマ政権のもとでは、新しい仕事を始めるにも、あるいは法律をつくるにも、まずEPAの顔色を窺わなければならなくなっていた。
「ホワイトハウスでいま一番力を持っているのはEPAの職員で、いつも大統領の周りを取り囲んでいる」

 ハドソン研究所の友人がこう指摘したことがあるが、このEPAに次いで力を持っているのが中国関係のロビイストである。

 ワシントンのロビイストたちはその多くがかつての官僚や議員、その補佐官たちだが、彼らにとっていまや一番気前の良い雇い主は中国関連企業なのである。オバマ政権の外交政策の基本を決める際に最も強い影響力を持っているのはヘンリー・キッシンジャー博士だが、彼が中国政府にきわめて近いことはよく知られている。

 キッシンジャー博士はニューヨークのパーク・アベニューにキッシンジャー・アソシエイツと呼ぶコンサルタント会社を持っているが、そこからも多くの閣僚をオバマ第一次政権に送り込んだ。ティモシー・ガイトナー財務長官、ロバート・ゲイツ前国防長官をはじめ、対日本政策に強い影響を持つカート・キャンベル国務次官補など、キッシンジャー・アソシエイツに籍を置き、キッシンジャー博士の薫陶を受けてオバマ政権に入った高官がたくさんいた。

 キッシンジャー元国務長官はもともと共和党であったが、対中国強硬派のブッシュ前大統領とはそりが合わなかった。キッシンジャー博士は中国に対して同情的な政策を持っており、オバマ政権が発足してからは、外交政策の相談に乗ってきている。

 いまここでこうしたことを述べているのは、二〇一二年の大統領選挙戦の結果、オバマ大統領の人気が大きく下がり、政治力が後退するとともに、中国寄りの政策が後退し、環境保護局の影響力も弱くなる、つまり二〇〇八年以来オバマ大統領が取り続けてきた基本政策が大きく変わるためである。

 オバマ大統領は二〇一二年の大統領選挙戦に辛くも勝った。選挙前、アメリカの専門家の多くは、オバマ大統領が勝つのは難しいと見ていた。アメリカには選挙など政治を賭博の対象にしているブックメーカーがいるが、彼らによれば、オバマ落選に賭ける人が多かった。

 オバマ大統領は公平に見て、あらゆることに失敗していた。大統領としての指導力がないところから議会との話し合いがつかず、財政赤字を処理するための話し合いは膠着(こうちゃく)状態が続いて、ついに「財政の崖」問題を引き起こした。

 アメリカ経済はオバマが膨大な政府資金を投入したにもかかわらず、一向に回復せず、アメリカ企業の生産性は大きく下がっていた。とくに大統領選挙の帰趨を決めるといわれた二〇一二年の七月、八月の企業活動は停滞し続け、むしろ基本的には縮小を始めていた。

 アメリカ企業の活動を示す指数も七月、八月は五〇を割り込み、縮小する方向をはっきりと示していた。八月の資本支出は四七・一パーセントと、一年前に比べ〇・九パーセントも悪化した。建設業の活動を示す指数も民間と公共合わせて一年前に比べ七月には〇・九パーセントも縮小し、国の公共土木費は一・三パーセント、州の土木費も〇・三パーセント縮小していた。こうしたあらゆる経済データから見て、オバマ大統領が再選を果たせないと考えるのは当たり前のことであった。

 二〇一二年のアメリカ大統領選挙でオバマ大統領は辛くも勝ったと述べたが、数字で見ると、二〇〇八年の時に比べて得票数で五パーセント減り、多くの重要な州で五〇パーセントをほんのわずか上回る票を獲得しただけだった。

 今度の大統領選挙戦で結果を左右すると見られたのは、「スイングステーツ」と呼ばれ、その年によって民主、共和両党の得票が入れ替わる州で、コロラド、フロリダ、アイオワ、ネバダ、ニューハンプシャー、ノースカロライナ、オハイオ、バージニア、ウィスコンシンの九州だった。

 オバマ大統領はこの九つの州のうち、ノースカロライナ州を除く八つの州で勝つことには勝った。だが最も重要といわれるフロリダ、オハイオ、バージニアの各州では、わずかに五〇パーセントを上回る票を集めただけだった。ロムニー候補が勝てなかったのは、保守的な第三党の候補が立候補して共和党の票を削り取ってしまったせいである。

 保守派の票が分裂した結果、オバマ大統領がギリギリのところで勝ち、フロリダ二九、オハイオ一八、バージニア一三、合わせて六〇の選挙人を手にして勝利の地盤を築いたのだった。そのほかの州を見ると、コロラドでは五一パーセント、アイオワ、ニューハンプシャー、ウィスコンシンの各州では五二パーセント、ネバダ州では五三パーセントと、まさに紙一重の差で勝ったに過ぎない。専門家の多くは、選挙の技術による勝利で、実質的な勝利ではなかったと分析している。

 オバマ大統領は今度の大統領選挙で二〇〇八年に比べて五〇〇万票、得票数を減らした。大雑把に言えばアメリカ国民の五〇パーセント、投票率を勘案すればわずか二五パーセントの国民に支持されるだけの大統領になってしまった。

 オバマ大統領が五〇パーセントの大統領に過ぎないという事実を、アメリカのマスコミはほとんど指摘していない。アメリカのマスコミは基本的にはリベラルで、保守的な共和党とロムニー候補を嫌っているからである。このため、オバマ大統領が勝ったということだけに焦点を当てている。この問題について、全米商工会議所のトム・ドナヒュー会長と話し合った。
「オバマ大統領が再選されたことは、オバマ大統領がこれまでの政策を今後も推し進める、つまり好き勝手にやってもよいということを意味しますか」

 私がまずこう聞いたのは、ハドソン研究所をはじめ保守的な政治研究所などで、再選後のオバマ大統領が、それまでの政治を続けてよいというお墨つきを国民から得たと考えて、恐ろしいことをしでかすのではないかと警戒していたからだ。
「二期目の大統領というのは、政治的に何でもできる。三期目のことを考えなくてもよいし、もはや選挙を心配する必要がないからだ」

 ハドソン研究所のデュースターバーグ前所長も私にこう言ったことがあった。大統領選挙戦が始まった時、アメリカの保守的な人々はオバマ大統領が再選されれば、社会主義的な経済政策や財政政策を遠慮会釈なく推し進めると心配していたのである。だがドナヒュー会長は、私の質問にこう答えた。
「オバマ大統領に勝手なことはさせない。オバマ大統領とその政権は、五〇パーセント政権だ。アメリカ国民の半分を代表しているだけだ」

 選挙に勝ちさえすれば好き放題ができるという日本の国会と大きく違っているのは、アメリカの政治の仕組みがはっきりと議会と大統領府の二つを区別し、明確な分権の思想が確立しているからだ。ドナヒュー会長はさらに、こうつけ加えた。
「オバマ大統領自身、アメリカ国民の五〇パーセントの支持しか受けていないことをはっきりと知っているはずだ。知らなければ我々が教えてやらなければならない」

 オバマ政権が五〇パーセント政権であることを、トム・ドナヒュー会長はくり返し強調したが、議会の状況を見てもアメリカ民主党とオバマ政権が半分の力しか持っていないことがよく分かる。
「我々には議会がある。議会の半分である下院はほとんどが共和党だ。我々のもの、と言ってよいだろう。上院のほうは大統領の民主党が多数党だが、それでもほぼ五分五分だ」

 ドナヒュー会長の言う通り、アメリカ上院は一〇〇の議席のうちオバマ大統領の民主党が五二、共和党が四八である。アメリカ議会では多数党が五四議席持っていなければ、少数党を完全に抑えつけ、与党が提出した法案に対抗して出される代案を廃案にすることができない。また与党が六〇議席を持っていなければ、野党側は「フィルバスター」と呼ばれる妨害活動を行うことができる。

 フィルバスターとは、無限に議事を引き延ばし、だらだらと演説を続けて多数党の提案を通さないようにする妨害工作で、多数党が六〇人の議員を擁していないかぎり、提案を通すことができない仕組みになっているのである。
「フィルバスターで法案の成立を阻止されるよりも、初めから野党の反対する提案は提出しないというのが議会の知恵だ」

 議会専門家がこう言っている。民主党はオバマ大統領が五〇パーセント政権であるという現実によって、効力を発揮する多数党になれなかったのである。日本的に言えば、アメリカ議会のねじれ現象である。日本ではこのねじれ現象を異常と考え、ねじれ解消、ないしはねじれをなくすための政治工作や選挙が考えられるが、アメリカの政治では、ねじれは少しも異常ではなく、むしろ政治の現実を示すという点で、正しいことなのである。
「オバマが五〇パーセント政権であることは、我々が議会の数でオバマ大統領を押し潰せることを意味している。五〇パーセントの政権に勝手なことをさせるわけにはいかない。オバマ大統領は、結局は何もできない」

 ドナヒュー会長がこう言っているが、アメリカの政治は厳然として民主主義のもとに行われており、単なる多数決や大統領の力だけでは全てが決まらないという原則が確立されているのである。

 オバマは二〇一二年の大統領選挙で、実質的には国民によって信任されなかったのである。すでに述べたように投票しなかった人々を勘案すると、国民の半分にしか認められていない半人前政権をつくることになった。その結果オバマ大統領は、これまで推し進めてきた環境保全政策や中国政策を大きく変えざるを得なくなる。
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