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米中軍事同盟が始まる
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政治・社会
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第一部 中国はアメリカの敵ではない

『米中軍事同盟が始まる』
[著]日高義樹 [発行]PHP研究所


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 韓国の首都ソウルの中央部に厳然として存在しているのが在韓米軍司令部である。かつて日本帝国の威容を誇っていた朝鮮総督府をそのまま使った司令部は、広大な美しい林の中にある。

 この在韓米軍司令部は、韓国に駐留するアメリカ軍だけでなく、韓国軍を指揮統制してきたが、二〇一六年七月をもって解体され、アメリカは朝鮮半島における地上戦闘活動をいっさい停止する。そして以後、韓国軍はアメリカ軍の統制から外れ、独立国の軍隊として動き始める。

 二〇一六年七月、アメリカはアジア大陸における軍事活動に終止符を打つ。朝鮮戦争が終わって以来、休戦状態が続いてきた中国との軍事敵対関係が終わるのである。

 韓国におけるアメリカ軍の戦闘態勢が終焉すれば、中国はアメリカの敵ではなくなる。当然のことながら、中国を仮想敵国としてきた日米安保条約が終わることになる。

 こうしたアメリカと中国の軍事関係をすでに示しているのが、太平洋におけるアメリカ海軍と中国海軍の接近ぶりである。
∴ 中国の軍艦が一隻、水平線の彼方(かなた)を西へ向かって航行している。ハワイのオアフ島ホノルル郊外のパールハーバーから見る北太平洋は、()いで驚くほど静かだ。名物のにわか雨が通り過ぎて、太陽の光が海上に降り注ぎ、空に小さな虹ができている。中国の軍艦は、サンディエゴ沖で行われたアメリカ海軍との初めての本格的な合同訓練に参加したあと、パールハーバーに立ち寄り、中国本土へ帰る途中だった。
「中国と合同訓練を始めたのは、緊急事態に際してアメリカ海軍と中国海軍が協力し合うときに、相手のやり方、つまり軍事的な行動の手順などについて理解し合うためだ」

 北太平洋を見下ろすパールハーバーの太平洋艦隊司令部で、当時のラフヘッド太平洋艦隊司令官が私にこう言った。ラフヘッド太平洋艦隊司令官は、その後、ペンタゴンに戻り、アメリカ海軍の作戦をすべてとり仕切るアメリカ海軍作戦部長に就任した。

 そもそも軍事的には、アメリカと中国は対立していることになっている。アメリカが日本を守っている日米安保条約では、中国は仮想敵国とされている。この日米安保条約の規定が長いあいだ受け入れられてきたため、日本では、アメリカが中国を敵として日本を守っているものと考えられてきた。

 だが冷戦が終わってすでに二十年、世界の情勢は大きく変わり、アメリカと中国が敵であるという状態はいつの間にか、現実のものではなくなってしまった。アメリカ海軍と中国海軍が、海難事故の際の行動を円滑にするために合同訓練を行っている。非軍事的な目的とはいえ、アメリカと中国の海軍が協力し合う時代になったのである。

 ラフヘッド海軍作戦部長はワシントンのペンタゴンに戻ったあと、再び私のインタビューに応じてこう言った。
「中国はアメリカに対抗している。われわれは中国が急速に軍事力を強化していることに強い関心を持っている。中国が何を考えているかを知りたいと思う。だが中国を敵とは考えていない」

 ラフヘッド海軍作戦部長だけではなく、アメリカ陸海軍の首脳やアメリカの政治家たちが口をそろえて言うのは「中国は敵ではない」ということだ。
「中国は敵ではない。しかし日米安保条約の仮想敵国で、日本とアメリカはともに、中国とは軍事的に対立している」というのは、いかにも矛盾した言い方である。普通の人間には到底、理解できない。

 中国が軍事力を強化し、西太平洋・アジアで、これまで唯一の軍事大国として君臨してきたアメリカに対抗しようとしていることは明白である。

 中国は一九九六年から二〇〇八年までの十二年間、国防予算を毎年平均して一二・九パーセントずつ拡大してきている。中国のGDP(国内総生産)の年平均成長率九・六パーセントに比べて、国防費の拡大率が驚くほど大きい。

 しかも中国政府は国防費の額はもとより、その国防費を何に使っているか、その内容をまったくといっていいほど明らかにしていない。徹底して秘密主義を通している。拡大していることは明白であるが、中国軍の実態はきわめてわかりにくい。

 アメリカ国防総省の高官がこう言っている。
「年平均一二・九パーセントという中国の国防費の拡大は、世界各国と比べて格段に大きい。しかもこの国防費の中に、軍人に対する給料や、さらには兵器開発の費用をどれだけ組み入れているかを、いっさい明らかにしていない」

 中国があらゆるデータを正直に発表すれば、中国の国防費は年間二十数パーセントずつ拡大しているという見方もある。驚異的な増え方である。
「中国が国防費を拡大し、新しい兵器を多数つくっていることは、アメリカにとって軍事的脅威だ」

 アメリカの政治家や保守派の多くは、こう考えている。アメリカ議会の特別委員会は、中国の軍事力拡大に注目し、ここ数年、毎年のように報告書を出している。

 一方、アメリカのリベラル派のなかには、技術水準やその環境から見て、中国の軍事力はアメリカにとって脅威ではないと主張する人々もいる。

 アメリカの有力な安全保障問題の雑誌『ナショナル・インタレスト』が、「中国はアメリカにとって軍事的な脅威か」という特集を載せたが、その中でリベラル派を代表するマサチューセッツ工科大学のロバート・ロス教授はこう述べている。
「中国はアメリカの脅威になるほど強力な軍事力を持っていない。中国は現在も将来もアメリカの脅威にはなりえない」

 ロバート・ロス教授はハーバード大学やボストン・カレッジでも教えており、安全保障問題に関する、アメリカ政府の重要なアドバイザーである。こうしたロス教授の主張やラフヘッド海軍作戦部長の考え方は、これまでのわれわれの常識とは大きく食い違っている。
「アメリカは日米安保条約によって日本を守っており、その安保条約が敵としているのは中国である。したがって中国が日本に敵対行動をとれば、アメリカが守ってくれる」

 日本の人々は、こう単純に信じている。ところが実際には、アメリカと中国の関係は、われわれが考えているような敵対的なものではない。アメリカは、海軍が中心になって中国と合同訓練を開始したが、これからは陸軍や空軍などが中国と合同訓練を実施することもありうる。

 これまでのところ、アメリカと中国の軍事対立の中心は台湾海峡と朝鮮半島である。そして歴代のアメリカ政府がもっとも力を入れてきたのが台湾海峡である。

 アメリカは第二次世界大戦以来、介石総統の率いる中国の国民党を強く支持し、軍事的にも支援してきた。その国民党が、毛沢東の率いる中国共産党との戦いに敗れ、台湾に逃げ込んでからは、アメリカの国家政策として台湾を守ってきた。

 アメリカは台湾に対して軍事援助を行うとともに、軍事顧問団を送り込み、中国が台湾を武力で攻撃することを阻止し続けてきた。これは共和党政権、民主党政権に共通する国家政策で、一九九六年に中国がミサイルを発射して台湾を脅したとき、当時のクリントン政権は二隻の空母を台湾海峡に送り込んで中国を牽制(けんせい)した。

 ところがオバマ政権が成立して以来、アメリカの台湾に対する軍事的な援助に(かげ)りが見え始めた。ブッシュ前政権は、経済的には中国との関係を強化したが、軍事的には中国を警戒する姿勢をとり続けた。だがオバマ政権は、そうした中国との軍事的な対立姿勢を急速に修正しつつある。

 二〇〇九年、オバマ政権は、それまでブッシュ政権が台湾に約束してきたF16戦闘機の売り渡しを中止してしまった。また、中国の新鋭戦闘機に対抗するためアメリカが開発してきたステルス性の高い「見えない戦闘機」F22の生産を突然中止してしまった。

 アメリカの軍事専門家は、こうした措置について、オバマ政権が中国に対する軍事的な姿勢を変え始めたからだと受けとっている。

 オバマ政権は朝鮮半島についても軍事的なコミットメントを減らそうと考えている。在韓米軍の戦闘部隊は韓国を離れて大部分が中東に移り、朝鮮半島におけるアメリカ軍の戦力は大幅に減少している。アメリカと中国が対立する朝鮮戦争は、休戦中に過ぎないはずだが、実際には終わってしまったも同然になっている。

 このようにアメリカと中国の関係が大きく変わってきたのは、中国の経済力が拡大し、アメリカにとって中国の存在がなくてはならないものになっているからだ。

 これまでアジアにおけるアメリカの唯一のパートナーは日本だった。中国は、日米安全保障条約にあるように、アメリカの仮想敵国だった。だが、いまやアメリカ政府の指導者は「仮想敵国」という言葉をいっさい使わなくなった。

 ブッシュ政権の外交はチェイニー副大統領が取り仕切っていたが、彼が私にこう言ったことがある。
「経済力をつけた国が軍事力を強化するのは当然のことで、驚くことではない。だが、中国は何のために軍事力を強化しているのか目的を明らかにしていない。中国は軍事力増強の意図を透明にするべきだ」

 チェイニー前副大統領の「透明にするべきだ」という言い方を、私はその後も何回となくアメリカの指導者の口から聞いた。アメリカは中国との経済的な協力関係が強くなってくるとともに、中国とは「対立したくない、無用な摩擦を起こしたくない」という考え方に急速に傾いていったのである。

 オバマ政権になってアメリカの指導者たちの姿勢は、「対立したくない」から「対立してはならない」というものに変わった。すでに述べたように、中国の協力なしにはアメリカが経済的に立ち行かないからである。日米安全保障条約に規定されていようがいまいが、いまや中国を仮想敵国などと呼ぶことはできない。

 中国は同じ共産主義のソビエト陣営の有力な国家として、アメリカと対立してきた。一九五〇年、朝鮮戦争に介入してアメリカ軍と戦った。

 日本では朝鮮戦争についての正確な情報が少ないが、アメリカ側の情報を分析すると、当時のソビエトの指導者スターリン首相の命令のもとで北朝鮮の指導者金日成が韓国に戦争を仕掛けたことが発端になっている。そこにアメリカ軍が介入し、中国・北朝鮮国境にまで兵を進めたため、中国軍が参戦した。

 こうした経緯から、日米安保条約の仮想上の敵が中国であるという考え方が多くの人々のあいだに受け入れられてきたわけだが、冷戦が終わった段階で、現実には中国はアメリカの軍事上の敵ではなくなったのである。

 アメリカは、民主主義を守り世界に広げなければならないという理念と、「得にならないことはやらない」という実際的な考え方を同時に持っている国である。敵でもない相手と無用に対立したり戦ったりするのは、愚かなことだと考えている。

 軍事的にも現実を重要視するアメリカにとって、敵でない中国と対立して戦わねばならない羽目に陥るのは、馬鹿げていると考えている。

 中国はもはやアメリカにとって、日米安保条約の仮想上の敵ではない。経済的にはとっくにアメリカの同盟国であり、軍事的にも仮想上の同盟国になりつつある。

 だがアメリカとの関係が日米安全保障条約を基盤としているため、日本ではアメリカと中国の関係が不透明なまま放置されている。
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