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養老孟司の人生論
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生き方・教養
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第五章 変わらないもの

『養老孟司の人生論』
[著]養老孟司 [発行]PHP研究所


読了目安時間:20分
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 学問は真理を追究するものです。真理とは、普遍かつ不変のものです。つまり場所が変わっても成り立つし、時代が変わっても成り立つ、そういうものです。


 そんなものを、別にそのつもりもなく、私は追いかけたらしいんです。いま思えば、私の恩師、(なか)()(じゆん)()(すけ)先生もそうだったと思います。ことの本質を常に突く人でしたから。本質とはつまり真理の別名でしょうからね。


 自分は「変わらないもの」を追いかけてきた。それを本当に意識したのは、つい昨年、平成十五年のことなんです。じつは()(ぐま)(えい)()さんの『〈民主〉と〈愛国〉──戦後日本のナショナリズムと公共性』(新曜社)という本を読んだのがきっかけでした。ずいぶん分厚い本ですが、ともかくこれを読みました。題名でわかると思いますが、「民主」は戦後を象徴する言葉で、「愛国」は戦争中を象徴する言葉です。このふたつの言葉をめぐって、戦中戦後を生きた知識人、具体的には(まる)(やま)(まさ)()(よし)(もと)(たか)(あき)のような人たちですが、こうした人たちの「言説」を、ていねいに追究した本です。


「敗軍の将、兵を語らず」できた戦後



 その帯には、「私たちは戦後を知らない」と書いてありました。私自身がそうで、この本に書かれたような知識人の言説を、私はまったく知らなかったんです。でもその私は、戦後という時代をまさに生きてきました。戦後生まれの若者なら、そういうことを知らなくて当然でしょう。でも私のような(じい)さんが知らない。こりゃいったい、どういうことなんだ。まず私はそう思いました。


 そう思って反省してみると、なんのことはない、そういう「言説」を、私は「知りたくなかった」んだとわかりました。丸山さんなら政治思想史、吉本さんなら文学論はわりあいよく知っています。それについての著書も読みます。でも過ぎた戦争について、小熊さん流に表現するなら「そうした人たちの民主と愛国に関する言説」について、私は知ろうと思わなかったし、知りたくもなかった。そのことに気がついたんです。


 なぜか。古い教育を受けた人は、思い当たるはずです。日本は戦争に負けました。負けた(けん)()について、あとになってグズグズいうんじゃない。それは私たちが子どもだったころの当然の教育です。大げさにいうなら、「敗軍の将、兵を語らず」なんです。負けたことを反省して、今度こそはなんとかしてやろう。むしろそう思うわけです。そう思って、黙って次の準備をする。


 だからこそ、戦争について、「なにもいわない」んです。小熊さんの本を読んで、「これが戦後だ」と思われても困る。なぜなら、そこには「なにもいわない」大勢がいたからです。


 小熊さんの本はまさに言説を扱ったんです。言説の歴史は「黙っていた多数」には当てはまりません。とくに日本の場合には、当てはまらないんです。黙っていること自体が、ある種の強い表現なんですから。もう古いですが、「男は黙って、サッポロビール」というコマーシャルがあったでしょ。

「でも『いわなきゃ、なにもわからない』じゃないか」。言説だけが存在するものだとすれば、もちろん「いわなきゃ、わかりません」。西洋人はとくにそう思う人たちです。なにしろ「はじめに言葉ありき」ですからね。


 でも人間は生きて動いてます。つまり言葉と同時に、「やること」を見なければならないんです。念のためですが、小熊さんの本を批判しているんじゃないんですよ。あれはあくまでも、言説を中心に置いた歴史なんですからね。

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