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養老孟司の人生論
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生き方・教養
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第八章 日本人は諸行無常

『養老孟司の人生論』
[著]養老孟司 [発行]PHP研究所


読了目安時間:23分
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 戦争や紛争の話が多くなりましたけど、そんなことばかり考えていたわけじゃありませんよ。そういうことが、人生に対する自分の考え方にどれだけ影響したか、それを説明してみただけです。


 ふつうは、そういうふうに、いわば「大げさに」は考えないかもしれません。「人生観に影響するのは、もっと個人的なことじゃないのか」。親が死んだとか、失恋したとか、どこに就職したかとか。


 でも私はそうは思わないんです。だって、親が死ぬのは、じつはあたりまえだし、恋愛で失敗するのも、あたりまえといえば、あたりまえじゃないですか。そういう事件で影響を受けるのは、いわば人生の基礎なんです。


同じ事件でも人によって経験は違う



 ところが大きな社会的事件は、一般的なようで、そうでない面を持っています。だから戦争や紛争の話をしたわけです。同じできごとが、立場によって、まったく違って見えるんですからね。同じ事件に巻き込まれても、違う経験をしちゃうわけです。


 もちろん個人的なことでも、それはじつは同じです。自分の親の死は大事件ですが、赤の他人にとっては、なんのこともない事件です。でも、他人の親の死を、その人にとっては大事件だろうと察することはできます。なぜなら自分の親の死と、置き換えることができるからです。追体験ができます。


 ところが社会的な事件では、その「置き換え」がむずかしいんです。リストラされた社員が、リストラする社長の立場を理解するか、あるいはその逆ならどうか、ということです。社員は社長じゃないし、社長は社員じゃないですからね。そのあたりから、ふつうの人の想像力の限界に近づくんじゃないでしょうか。クビになった社員が、社長も大変だろうなと同情するとは思えませんからね。それができるためには、社長に一度なってみないとダメかもしれませんね。でも社長になると、平社員時代のことなんか、すっかり忘れちゃったりしている。


 いまの人は、個性ということをいいます。他人と自分は違うというんです。だから私が紛争に影響を受けたと書くと、それは私個人の特殊な事情と思われちゃうわけです。そうではなくて、人間はじつはかなり「同じ」なんですよ。それを個人個人は大きく「違う」と思わせてきたのが、西欧近代なんです。もっと厳密にいうなら、西欧近代的自我の存在です。だからノーベル賞なんでしょ。

「人間は同じ」だということをいうには、「同じ」事件でも、「立場によって」まったく違って見えるということを、よく理解しないといけないんです。そうでないと、大学紛争に対する考え方の違いを、「個性」の違いだと思ってしまうんです。だから私にとっての紛争を、ていねいに語ったんですよ。


同じ事件でも社会によって経験は違う



 考え方という面では、社会についても、個人の人生と、話は結局は同じじゃないかと思うんです。世界にはいろいろな社会があります。そうした社会は、「同じ事件」にぶつかりますが、反応は同じじゃないし、影響はかなり違ってきます。この前の戦争に対する日本と中韓両国の態度の違いを見れば、それは明らかでしょう。でもそれは「たがいに理解不能」ということではない。


 同時に戦争や災害が、その後の社会の考え方に大きく影響します。そうした影響を考える基礎になるのが、「ある社会的な事件で、自分個人がどういう影響を受けたか」なんです。それ以外に、考えようがありませんからね。しかもそういう大きな事件は、年中起こることじゃありません。だからそれを「平常心」で理解するのは、案外むずかしいんですよ。


 いわゆる「歴史問題」に関する、日本と中韓両国の意見の食い違いでは、まだ戦争や「植民地」時代の直接の体験者が生きてますから、さらに厄介です。「直接に」体験したことは、生き生きと感じられます。それを平常まで戻すには、時間がかかるんです。本人にその気がないときは、もう平常心には戻らないのがふつうでしょうね。


 私が戦争や紛争のことを考えるのは、それもあります。私自身は中国と戦争したわけじゃなし、朝鮮の植民地時代もよくは知りません。それなら自分が体験したことから、「想像する」しかないわけです。

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