『体と心をととのえる 深呼吸のレッスン』
[著]森田愛子
[発行]PHP研究所
呼吸が乱れるのはどんなとき?
誰にとっても、その人の体に合った正しい呼吸があります。その呼吸の幅の中で日常を過ごすようにすれば、不調は起きにくく、また体調をくずすことがあっても、ダメージを最小限に抑えることができます。呼吸は24時間、休みなく行うものです。いつでも深くしっかり吸って吐くことができる体をつくり、落ち着いた息づかいでいる習慣をつけていきましょう。
呼吸が浅くなったり、止まったりしてしまうのはどんなときでしょうか。
呼吸は、動き、姿勢、心の状態と密接に関わっています。乱雑な振る舞いをしているとき、緊張してガチガチの姿勢になっているとき、イライラ、ムシャクシャしているとき、呼吸は必ず速く浅くなっているはずです。
毎日の何気ない行為で呼吸を浅く乱していると、それは体に記憶されていきます。動きと呼吸、姿勢と呼吸、感情と呼吸はより密接に結びついて、ちょっとした動きを引き金に、すぐさま呼吸が浅くなるようにインプットされていきます。
たとえば靴下を履くだけなのに呼吸が止まる。おしゃべりしているだけで、息が上がってしまう。歯みがきをしているだけで、ちょっと物を取ろうとしただけで、洗濯物を干しているだけなのに──。
運動しているときならいざ知らず、こうした日常の行為で息が上がるなんて、と首をかしげる人も多いかもしれません。ところが、実際には、本当は息を乱す必要のない些細な行為をきっかけに、呼吸が乱れてしまっている人はとても多いのです。
自分にとって、呼吸が乱れやすいポイントを知ることから始めましょう。
できれば、朝起きてから夜ベッドに入るまで、すべての動きをこまかく見ていくことができれば理想的です。
顔を洗って、タオルでふいて、歯みがきをして、うがいをして、パンをトースターに入れて、その間に卵を割ってスクランブルエッグをつくって、焼き上がったパンにバターを塗って……。こうして挙げていくと、気が遠くなりそうなほど膨大な行為を何気なく、いともたやすく行っていることに改めて気がつきます。もしその一つひとつの小さな動きが呼吸を浅くするスイッチになっているとしたら、その積み重ねはどれほど大きな結果を招くことでしょう。
朝から晩まで呼吸のことを考えながら過ごすなんて! と心配になるかもしれませんが、大丈夫。決して特別なことをするわけではないのです。ただ、息を止めること、浅くすることをやめるだけ。息が上がってきた、息を殺していると感じたら、元に戻すだけです。
浅い呼吸のクセがついてしまっている場合は、何度も何度も「あ、また上がってた……」と呼吸をととのえ直すことになるでしょう。まずは、そうやって呼吸の変化に気づけることこそ、大きな一歩。体全体がよくなっていく方向へと着実に踏み出せたことの証です。
この章では、日々の暮らしの中で呼吸が浅くなりやすい、あるいは止まりやすいシチュエーションを知り、深い呼吸をとり戻すためのワークをお伝えしていきます。
小手先の動きが体に負担をかけている
肩こりや腰痛、眼精疲労、こうした不調に悩まされるのは、ほかの動物にはない、人間特有のもののようです。
それはなぜなのかと考えると、脳の発達、そして手が巧みに動くようになったことが大きく関係しているように思えます。人間は、複雑に思考する能力を身につけ、こまやかに手を操ってさまざまなものをつくり出してきました。それは発展という大きな恩恵をもたらしましたが、動物としては不自然で無理のある動きを増やすことにもなりました。
本来、体幹を中心にして対象に近づき、手足を使って物を取ったり投げたりするべき運動を、手先足先の動きだけでまかなおうとしてしまう。理にかなった体の使い方を無視することは、体に負担をかけることでもあります。
たとえば、テーブルの端にあるリモコンを取りたいと思ったとき。手を伸ばせば届く距離だと思えば、立ち上がらずにグイッと手を伸ばしていませんか。到底届かない距離にあっても、手近なものを道具にしてたぐりよせたりすることもあるかもしれません。