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(2021/11/26 追記)

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京都しあわせ食堂
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くらし
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第一章 京都人普段使いの「食堂」

『京都しあわせ食堂』
[著]柏井壽 [発行]PHP研究所


読了目安時間:49分
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京の食堂



 食堂の条件として、あらゆるジャンルの食を網羅していること、が挙げられる。


 和洋中の別を問わず、いろんな食が食べられる店を食堂と呼ぶのが本来の意。


 しかしながら食の専門化が進む中、この条件を満たす店は年々少なくなっている。洋食もあり、うどんや丼、カレーライスからラーメンに至るまで、およそ考え得るあらゆる食を揃えている店を見つけるのは、今の時代、とても難しい。


 僕が子どものころだから、半世紀ほど前までは、どこの町内にもこういう店が一軒か二軒は必ずあった。店で食べられるのはもちろんのこと、電話で頼めば出前をしてくれ、かつ手ごろな値段だった。


 父親はカレーライス、母親は鍋焼きうどん、姉が五目ソバ、僕がハンバーグ定食などと、てんでバラバラな注文をしても、ちゃんとどれもが熱々で届くことが不思議でならなかったのも今は昔。


 今の言葉で言えばデリバリー。それはほとんどが専門店。最も多いのがピザ屋だろうか。サイドメニューを除けばピザしか届けてくれない。


 出前はともかく、多種多様なメニューを揃えた食堂は減ることこそあれ、増えることはない。チェーン店を除けば、という但し書きが付くのではあるが。

「やよい軒」だとか「(おお)()()」などは、日本全国津々浦々に店舗網を広げ、定食を中心として、同じようなメニューで客を集めている。


 一方で、地名を冠した食堂もチェーン展開していて、共通のロゴ書体を採用しているので、容易に判別できる。


 前者も後者も、見た目にはありふれた食堂なのだが、大きな企業が運営しているという共通点があり、基本的にどこで食べても同じようなメニューだというのが、興を()ぐ。


 食堂というからには、企業ではなく家業であってほしい。できれば夫婦ふたりが主体となり、あとはアルバイトがひとりかふたり。それを理想として、仮に支店を持つような店であったとしても、それぞれにメニューが異なり、独自性を発揮できる食堂として営んでもらいたい。それでいて京都限定チェーン展開なら、食べに行く価値はあると思う。


 食堂に入って、何が(たの)しいかといって、豊富なメニューの中から、さて今日は何を食べようかと思い悩む時間である。あれも食べたい、これも食べたいと迷いつつ決断をする。これが食堂の醍醐味である。


 本書ではタイトルに食堂と(うた)ってはいるが、店名には必ず入っているわけではなく、僕のイメージとして、食堂的雰囲気を持っていれば、ご紹介することとした。


 ──うちは食堂なんかじゃない──


 そうおっしゃる店もあるやもしれぬが、ご容赦いただきたい。


 ──ここを食堂と呼ぶのはいかがなものか──


 そうおっしゃる読者もあるやもしれぬが、こちらもご容赦いただきたい。


 本章では、本来の意に近い食堂を集めてみた。是非お愉しみいただきたい。


「篠田屋」

皿盛とはなんぞや

▼▼▼MAP〓〓 



 初めてこの店に来たのは、はたしていつだっただろうか。少なくとも大学生のころには、ここに来て中華そばを食べたような記憶がある。


 僕は大阪の大学に通っていて、(さん)(じよう)(けい)(はん)駅は毎日必ず通過するターミナルで、授業が終わって自宅に戻るとき、ここで京阪電鉄から市バスに乗り換えていた。若いということは、すぐに空腹を覚えるもので、家の晩ごはんまで待つことができず、ターミナルのすぐ傍にあるこの店で、中華そばやカレーを食べていた。

(しの)()()」の店の内外は、そのころから少しも変わっていないように思える。


 入口のドアもたしかこんなふうだった。店に入っても同じ。テーブルと椅子の配置、壁に貼られた品書き。まるで映画のセットでもあるかのように、五十年ほど経っても変わらない店というのは、いかに古都京都といえども、そうそうあるものではない。




 とにかくは空腹を満たすことが先決で、じっくり味わうこともなかったが、何度も通ったのだから、そのころからきっと今と同じ味わいだったのだろうと思う。

〈皿盛〉六百五十円などというメニューは、今になってみれば、ほかの店で食べることのできない個性的な料理だが、当時は普通のカツカレーとして食べていた。〈中華そば〉五百円しかり。屋台で食べるそれに比べて、うんとあっさりした味だが、そのころのうどん屋さんでは、たいていこんな〈中華そば〉がメニューにあった。


 と、今の「篠田屋」では、〈皿盛〉と〈中華そば〉が二大人気メニューとなっていて、遠来の観光客は、たいていがこのふたつのうちのどちらか、(ある)いは両方を食べている。


 しかしながら、この店はその専門店というわけではなく、四百円の素うどんから、四百五十円のきつねうどん、五百五十円の天ぷらそばなどの麺類全般から、六百円の親子丼、六百五十円のかつ丼などの丼ものまで豊富にメニューの揃う、しごく普通の食堂なのである。




 古くからある、こうした京都の食堂に人気が集まるのは、悪いことではないのだが、ネット情報が偏りすぎた結果、ごく一部のメニューにオーダーが集中するというのは、良い傾向とは言えない。


 少し前だと(しも)河原(がわら)の店。にしんそばをはじめとして、麺類丼もの全般を(あきな)う店なのだが、親子丼に人気が集中し、それを目当てに長い行列までできる店となってしまった。店側がそれを良しとしているのかどうか、僕には分からないが、他のメニューに見向きもせず、他の客と同じものしか食べないというのは、なんとももったいない気がする。


 本書の趣旨のひとつとして、行列ができるような人気集中店は紹介しない、がある。一過性のブームになるような店は、わざわざ紹介しなくてもいいわけで、かねてから僕が主張しているのは、せっかくの京都に来て、ただそれを食べるためだけに長時間を費やすのは無駄だということ。店によっては一時間以上も待つことがあるようだが、その一時間があれば、どれほど多くの京都を観ることができるか。


 限られたメニューに人気が集中すると、行列店になる恐れがあり、この「篠田屋」も危険水域に入った気がする。是非とも、ふつうの親子丼やきつねうどんも食べてほしいところだが、それでもこの店ならでは、というなら〈デラックス丼〉をお奨めしたい。


 天ぷらと落とし卵、そして牛肉、たっぷりの青ネギが載った丼。一見すると、ただいろんなものを寄せ集めただけに見えるが、食べてみると、これが実によくできた丼だと分かる。天ぷらだけ、牛肉だけ、卵を絡めた天ぷら、卵を絡めた牛肉、と味に変化を付けながら食べると、たしかにこれはデラックスだと思うに至る。薄くなく、濃くもなく、丼つゆの味も絶妙で、これで七百円というのもありがたい。朝十時半の開店から十一時くらいまでがねらい目。待たずに入れる。


「キッチンりゅうかい」と「常盤」

寺町三条の二軒の食堂

▼▼▼キッチンりゅうかい:MAP〓〓 


         /常盤:MAP〓〓 



 (さん)(じよう)(てら)(まち)。修学旅行生をはじめ、多くの観光客が行き交う界隈には不似合いなような、しかし間違いなく美味しい食堂が二軒向かい合っていて、どちらも個性にあふれ、それぞれ地元客のファンが付いているのか、いつも(にぎ)わっている。


 多くの観光客は他にお目当てがあると見え、二軒の食堂には目もくれず素通りしてしまうので、昼の時分どきでも、さほど混み合うことなく、ゆっくりとランチを愉しめるのがありがたい。


 いつも不思議に思うのは、どちらか一方の店が混んでいると、もう一方の店は空いているという現象。


 ある日のお昼前、「常盤(ときわ)」は満席だったが、「キッチンりゅうかい」はがらがらだった。


 すべてがテーブル席で、赤いチェックのクロスがかわいい。だが客の多くは近所のオジサンたちというミスマッチが、この店の特徴のひとつ。




 さてメニュー。軽食、麺類、丼、定食と四つのジャンルに分かれている。


 まずは軽食の部。〈カレーライス〉六百円から始まり、〈チキンライス〉と〈焼きめし〉が六百五十円で続き、〈焼きそば〉七百円、〈カツカレー〉、〈オムライス〉の七百五十円まで。


 麺類にうどん蕎麦はなく、中華系のみ。〈ラーメン〉は六百円、〈ちゃんぽん〉七百円、〈五目ソバ〉が八百円という設定。


 麺類は中華系オンリーだが、丼ものは六百円の〈たまご丼〉、七百五十円の〈カツ丼〉などの和風メニューもある。


 そして定食。酢豚、焼肉、トンカツ、ハンバーグ、エビフライの、中華と洋風の五種。すべて九百円。どれもかなりのボリュームなので覚悟が要る。

「キッチンりゅうかい」での僕のお奨めは〈ラーメン〉である。


 〓(しよう)()ベースのスープ、ほどよく脂身の付いた焼豚、ピンクの縁のかまぼこ、モヤシ、そして中細のストレート麺。ラーメン通ならもっと細かく語り尽くすのだろうが、これでも充分伝わるだろうと思う。

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