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日本の未来の大問題 少子高齢化、ロボット社会は恐れるに足らず
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人文・科学
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第一章 老人は支配、権力の座から降りよ

『日本の未来の大問題 少子高齢化、ロボット社会は恐れるに足らず』
[著]丹羽宇一郎 [発行]PHP研究所


読了目安時間:35分
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「十年日記」を読んで驚いた



 私は「十年日記」を二十年にわたり毎日つけてきました。一ページに同じ日の十年間の出来事を記す日記です。二〇一七年は二冊目の十年日記がちょうど終わる年でした。


 つまり私はこの十年日記を二〇〇八年からつけ始めたわけです。二〇〇八年というと、まだ伊藤忠商事の会長をしていた時期に当たります。それから日本・トルコ協会会長、中国大使、日本中国友好協会会長に就いて今に至ります。


 ようやくこの日記帳も終わりだと思って、パラパラと過去の日記を拾い読みしてみました。十年日記の特徴は、同じ月日の出来事を十年にわたって一望できるところにあります。昨年の同じ月日に何を記したか、五年前の同じ月日に何を記したか、十年前の同じ月日に何を記したか──。


 読むこともなく眺めていると、わが目を疑いました。十年前と今の自分の生活がほとんど同じではありませんか。同じぐらいの時間に起きて散歩をし、同じようなものを食べ、同じような時刻に帰宅しています。


 会っている相手の顔ぶれも毎年ほとんど変わりません。相も変わらず同じような人と食事をし、ゴルフをしています。会合に参加しても、年代はだいたい同じ。どおりで私のもとに年寄りが繁く訪れるわけです。お互いそろそろお迎えの来るころだから、相手が鬼籍に入れば、お墓参りに行ってまで「会って」います。


 十年一日のごとくと言いますが、まさに何から何まで同じことの繰り返し。自分は日々生活を変え、新しいことに挑んできたつもりでも、振り返ってみると何も変わっていません。


 これは私だけのことではないはずです。私と毎年会っている相手にしても、きっと事情は同じでしょう。


 考えてみれば、思想・信条・思考方法にしても、私が伊藤忠商事で構造改革を手がけたときと、今考えていることは基本的な部分で変わっていません。次の十年日記も結局、同じことを書き連ねることになると思うと、二の足を踏んでしまいます。


 加齢に伴い人間は思考スタイルが固まり、柔軟性を欠いていきます。人間の頭などたかが知れています。姿かたちも生活も変わらず、頭の中だけ時代に応じてアップデートしていくなんて土台不可能です。


 本田宗一郎と共に本田技研を興した藤沢武夫の著書を読んでいたら、「日本の教育は三十年前と何も変わってない。こんなことをしていたら日本はだめになる」と嘆いていました。なんだ、今の自分と同じことを言っているじゃないか。


 私から見ても、今の教育は三十年前と変わっていません。その本が書かれたのが一九八〇年代半ばで、三十年前と変わっていないということは、とどのつまり都合六十年間、教育は変わっていないということです。私のこの文章を三十年後に読んだ読者が「やっぱり何も変わっていない」と思ったら、九十年間変わっていないことになります。


 事ほどさように人間は進歩もないし、変わりばえもしません。皆さんも自分の胸に手を当てて考えてみてください。


歴史を繰り返す共謀罪



 たとえば人間は昔に比べて賢くなったでしょうか。人権について理解を深め、民主主義の精神を体得してきましたか。残念ながら人間はほとんど同じ愚かなことを繰り返しています。


 近いところで言えば、二〇一七年六月に強行採決で成立した“共謀罪”法です。もう皆さん、お忘れかもしれませんが、正しくは「テロ等準備罪」の新設を柱とする「改正組織的犯罪処罰法」です。


 殺人などの重大犯罪のために、メンバーが現場の下見や資金調達の準備に取りかかった計画段階で処罰の対象とするわけです。


 戦前生まれの私は、この共謀罪法案を見たとき、直接被害を受けた体験はありませんが、関連本を読む機会が多いため、すぐさま戦前・戦中の悪名高き「治安維持法」を想起して(あん)(たん)たる思いに駆られました。(こう)(かん)指摘されたように、両者がはらむ本質的な問題は共通しています。


 歴史を振り返ると、一九二五年に成立した治安維持法は当初、「国体の変革」「私有財産制度の否認」を目的とする結社を禁じました。ところが、その後の改正で取り締まり対象が拡大した結果、日本が戦争へと突き進む中で思想の取り締まりに利用されたのです。


 今回の共謀罪も、その気になれば権力側の恣意的な運用を許し、政府の意向に反する者を取り締まる危険性があります。


 政府は国会で「一般人には適用しない」「濫用はしない」としきりに答弁していましたが、治安維持法ができたときも同様でした。共謀罪の処罰対象はテロ集団や暴力団など犯罪を目的とする「組織的犯罪集団」としていますが、対象犯罪があまりに広く、中身も漠然としているため濫用の危険性があります。


 権力を持った側は、決して自らの権力を弱めることをしません。権力を行使できるのに行使しないようにしようなどとは考えず、むしろ積極的に行使しようとするものです。


 それは官僚組織の体質に関わります。おそらく法律の作り手は当初から思想弾圧への利用や逮捕・監禁の濫用を想定はしていないでしょう。「そんなことをやるはずがありません」との答弁は本心だと思います。


 しかし、それが現場の運用段階になると、官僚の習いとして現場に裁量権を任せる「丸投げ主義」で進むことになります。現場の部下は上司の考えを(そん)(たく)して、その権限をできるだけ行使しようとします。上司に「よくやった」と褒められると、忖度の幅が時とともにどんどん広がります。


 それが治安維持法のたどった道でした。結果的に、治安維持法によって最大で年間約一万四千人が検挙されたのです。


 市民は目をつけられたくないばかりに自由にものを言わなくなります。いったん逮捕されれば、「やっていない」と否認しても「やっていないことを証明しろ」と言われます。自白するまでは釈放してくれません。それもまた、過去に何度も繰り返された(えん)(ざい)の構造です。今になって捜査機関が心を入れ替えた、なんていうことはありえないでしょう。


 それが人間の変わらぬ性向であり、歴史上の事実として繰り返されてきたことでもあります。社会構造を、あるいは人間の行動様式そのものを変えていかない限り、人間は過去に犯した過ちを(しよう)()りもなく重ねていきます。


過去の教訓は役に立たない



 ある雑誌の編集者から、取材の申し込みがありました。

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