『The KUMON HEART 子どもの“自学”する力を育むKUMON』
[著]多賀幹子
[発行]PHP研究所
子どものしつけや教育はいつの時代も簡単ではないけれど、今は特にとてつもなく難しく感じられる。
それは、世界が急速に変化している中で、日本もまた激動の時代を迎えているからだろう。少子高齢化などで社会構造が揺らぎ、グローバル化のうねりを受け、あらゆる分野でテクノロジーが発達する中、私たちを取り巻く環境は以前とは大きく異なる。
したがって、親たちが育ったときの経験が、今の子どもたちにそのまま使えることは多くない。しかも情報だけは次々に入ってくるので、親たちの「子どもの可能性を伸ばしてやりたい」「自立できる子に育てたい」というささやかな願いは、今では大きな挑戦となってしまった。
「公文」と私の出合いは、かなり前のことになる。NHKのテレビ番組「すくすく子育て」のテキストの連載で、仕事と家庭を両立するお手本として公文式の先生(指導者)への取材をお願いした。すると、「この仕事は私の天職」と明言する熱心な方をご紹介くださった。
その後は、私がイギリスに出張すると知ると、たちまちロンドンの公文式教室見学の機会をつくってくださった。そこでは、日本と同じ教材を使用して、日本と同じ真剣な表情で学習に没頭する子どもたちに目を見張った。イギリス人指導者は、公文式の子どもたちへの絶大な効果を繰り返した。シンガポールでも、香港でも、同じ光景を見て同じ言葉を聞いた。公文式学習は世界に通じる普遍性を持っていた。
公文の教室には黒板がない。先生が前に立って教えるわけでもない。子どもたちは思い思いの時間に教室にやって来て、その日の“自分”の学習を始める。さまざまな年齢の子どもたちが肩を並べてプリントに向かうが、取り組む課題は、一人ひとり違っている。
つまり、公文式は、年齢や学年の枠にとらわれずに、子どもが自分にとっての「ちょうどの学習」を行う個人別学習法である。
それは、「自学自習」の学習法ということができるだろう。
誰かからつきっきりで教えてもらうのではなく、教材の例題などをヒントに、次のステップへと進んでいくやり方だ。教材には、「自学自習」を可能にする仕掛けが随所に施されているのである。
公文式学習では、週2回の教室日だけでなく、毎日の家庭学習が重要である。さらに、その継続には保護者の協力が不可欠だ。指導者と保護者が、教室と家庭とで共に子どもを見守る。それが子どもの意欲や学力の伸びを促し、「自学自習」する姿勢を育み、ひいては「自立」へと導いていく。
詳しくは後で述べるが、公文式学習は、公文公創始者が計算問題を手作りして、わが子に与えたことから始まった。この原点は、世界の50に近い国と地域に広がった今でも、脈々と受け継がれている。
いくつもの教室を見学させていただいて気がついたのは、日本と海外の指導者が共に、「子どもを伸ばす」経験を豊富にお持ちであることだった。幼児で入会すると高校生まで指導を続ける。その後、大学生や社会人になっても教室に顔を見せる教え子たちも少なくない。
一人の人間の成長にこれだけ長く伴走を続けて得た知見は、まさに宝の山に違いない。
教育に関して混乱を極める時代だからこそ、この膨大な蓄積は私たちにさまざまな気づきをもたらすだろう。人間にとって本当に必要な力をいかに養うか、自立するための基礎をいかに固めるか、学び続ける習慣をどう育むか。さらに、どのような言葉が子どもを伸ばし、どのような言葉を慎むべきか。それを無数の子どもを見守ってきた指導者に伺おう。
私の質問に指導者の方は丁寧に答えてくださった。
共に強調されたのは、「子どもがほめてもらいたいところを外さずほめ、自己肯定感を育てる」「宿題など勉強の責任は子どもに持たせる」「親が“待つ”ことを学ぶと粘り強く頑張れる子になる」「先走らず放任せず、子どもに“健全な”関心を持つ」「受験や検定などの近い目標と、将来の職業まで見通した大きな目標を同時に持たせる」「自学自習ができる学習習慣を身につけさせる」……などだった。
目まぐるしく変わる世の中にあって、これらの言葉は変わらぬ力を持っている。日本国内ばかりでなく、広く海外から熱く支持される公文式メソッド。そこから得た知恵の数々は、親にとって貴重なヒントになると確信している。