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(2021/11/26 追記)

犬耳書店の作品をRenta!に順次移行します。
詳しくはこちらでご確認いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

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競争優位を実現するファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略
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ビジネス
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CHAPTER6 商品で市場を支配する

『競争優位を実現するファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略』
[著]フレッド・クロフォード [著] ライアン・マシューズ [監修]星野佳路 [発行]イースト・プレス


読了目安時間:47分
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消費者は、最高級品を求めていない



 何年か前、私たちは、ビールメーカーのアンハイザー・ブッシュ社の会長兼CEO、オーガスト・ブッシュ3世が主催するディナーパーティに招かれた。場所は、当時、カリフォルニア州アナハイムで、一、二を争う高級レストランだった。招待客が、通路から会場に入ると、その先には主催者が待っていた。

「バドにしますか? それともバド・ライト?」と、ブッシュがゲスト1人ひとりに尋ねていく。「バドをお願いします」と答えると、ブッシュは、左手にいるバーテンダーにうなずく。「バド・ライトを」と答えると、右手にいるバーテンダーに合図を送る。


 私たちが出迎えの人々の前に着くと、ブッシュがにこやかに言った。「こんばんは。バドにしますか? それともバド・ライト?」「(ノンアルコールビールの)オドールはありませんか?」と私たちが尋ねると、「この方々にオドールを」と、ブッシュがぼんやりしていたウェイターに言った。「置いていませんね……シャープス〔ライバルのミラー社のノンアルコールビール〕でもよろしいですか?」と、気が利かないウェイターは答えた。


 ここで、とくにメーカーに言いたいのは、商品は、メーカー側が思っているとおりに市場で扱われているわけではない、ということ。そのレストランは、人気のノンアルコールビールをそろえたつもりだったが、その品ぞろえは、アメリカ最大のビールメーカーの最低限の期待には応えられなかった。オーガスト・ブッシュがオドール・ブランドに胸を張るのは当然だが、そんなプライドはそのウェイターには通用しなかった。


 自分の名前が商品名になるわけでもない一般消費者は、店がどこのブランドのコーラを出そうが、「コカ・コーラ」か「ペプシ」と呼ぶ文化の中で育っている。ノンアルコールビールでもほかの商品でも同じだが、ティッシュペーパーなら「クリネックス」、コピー機なら「ゼロックス」と呼んで、個々のブランドというよりカテゴリーとして一くくりでとらえる人が多い。


 価格に対する消費者の見方を誤解していたのと同じように、私たちは、消費者が商品に何を望んでいるかも、取り違えていた。当然ながら、誰もが「最高」の品(「最高」とは、あくまでも相対的、主観的、個人的な感覚だとはわかっていたが)、もしくは少なくともそれに近いものを求めている、と信じ込んでいた。


 企業は、毎年何億ドルもつぎ込んで、自社のブランドが「最新」で、「進歩」しており、リニューアル後には「13・7パーセントも性能がアップ」などと広告している。こうした主張のベースにあるのは、「消費者は、効能や特徴で他社に勝る商品を求めている」という考えだ。だが、消費者は私たちに、「自宅のキッチンや洗濯室では検証できない効果を主張されても、興味が湧かない」と話していた。特殊な施設や制限速度のないドイツの高速道路(アウトバーン)でしかチェックできない性能についても、同じ反応だった。


 商品で差別化に成功できるのは、本当に画期的で、どこにもない商品で消費者に刺激(インスピレーション)や感動を与えた場合だけだ。ただし、商品レベルや価格レベルにかかわらず、消費者がどれだけすれていても、インスピレーションを与えることはできる。たとえば、アメリカ中西部のスポーツ用品会社、ギャンダーマウンテンの顧客と、REIの顧客を比べてみよう。どちらの顧客も、「アウトドア」用品を探している。


 ギャンダーマウンテンの買い物客は、ウィスコンシン州のキャンプサイトで、夏のゆるい雨風に耐える「そこそこの」テントを探しているかもしれないが、REIの買い物客は、ヒマラヤ山脈で大吹雪に耐えてくれる「そこそこの」テントを探しているだろう。ギャンダーマウンテンの顧客は、ファミリー・キャンプに持っていけそうな品ぞろえにインスピレーションを感じるが、REIの顧客は、店の品ぞろえにインスピレーションを受けて、ゴドウィン・オーステン山やエベレスト山に登頂してみたいと考える。


 同じことが、ホームデポにいる客と、最高級の家具・インテリアを扱うドメイン社の通路を歩く客にも言える。どちらも、インスピレーションを求めて店に来たのだろうが、ホームデポの顧客はそれを玄関用の網戸に見出すかもしれないし、ドメインの顧客は、ベルベットのソファに見出すかもしれない。


 改めて言うが、心に留めておきたいのは、今挙げたどの店も、商品で市場を支配していることである。しかも、その支配が、非常に限られた品ぞろえに基づいているのだ。どの店の品ぞろえも、客層に「マッチ」しているから、顧客の心に最高レベルのインスピレーションをもたらす。


 すでに話したように、今日の消費者は、時間に追われ、ストレスにまみれている。だから、ほとんどの人が、認識し検証することなどできないようなちょっとした質の高さなどは、買い物がスムーズにできることや短時間ですむことに比べると重視されない。商品に関わる本当のビジネスチャンスがほしいなら、研究開発や広告、マーケティングの予算を、ほとんどわからないようなわずかな品質改善を追求することにつぎ込むのをやめて、消費者にとって本当に画期的でユニークなメリットを持つ商品の開発に充てるべきだ。


 それが実現するまで、消費者は、メーカーの主張になど耳を貸さないだろうし、ばか高いブランドを買う気にもならないだろう。メーカーや店へのメッセージは明快だ。ほとんどの消費者がこう言っている。「商品がインスピレーションをくれない限り、いくら性能がいいと主張したって、耳を貸さないからね」。プライベートブランドが台頭してきたこと、お気に入りのブランドが品切れすれば、あっさり別ブランドに乗り換えてしまう消費者が多いことは、そういう理由だろう。


ブランドが問われない時代のビジネス



 ブランドの垣根があいまいになっていることで、市場に新たなチャンスが生まれている。プライスラインに目を向けてみよう。同社のビジネスモデルは、航空券であれホテルの部屋であれ、ブランドに対する柔軟性をベースにしている。つまり、大幅値引きが期待できるなら、消費者はメーカーが望むほどブランドにはこだわらない、という考えに基づいている。

「プライスラインがしているのは、消費者が商品にこだわりを見せる前に、需要を獲得してしまうことです。だから、一体いくらなら、お客さまが値引きと引き換えに、そのこだわりを快く手放すのか、知ることもできるんです」と、同社の創設者であるジェイ・ウォーカーは言う。「うちのサイトで買い物することは、お客さまにとって、何かを勝ち得た感覚なんですよ。多くの場合、ブランドへのちょっとしたこだわりを捨てることで、節約できたわけですから。みなさん、勝ったんですよ」


 プライスラインのビジネスモデルは、航空券については明らかに成功したが、「一流の神話」の誘惑に勝てず、食品やガソリンといった幅広い商品カテゴリーに手を広げようとして、つまずいた。航空券の場合、プライスラインは、空席を埋めたい航空会社と、航空券を安く手に入れたい消費者のキューピッド役を果たした。しかし、食料品の場合、このやり方が裏目に出てしまった。


 ただ、プライスラインの読み自体は正しかった。食品という消費者に最も身近なジャンルなら、当然、「最高」の品ばかりよりも、そこそこの品が受けるだろう、そして、消費者が買おうと決めている商品を値引きすれば、好評を博すだろう、と読んでいた。


 だが、問題はここからだった。プライスラインのために値引きした食料品店は、普段わざと値段をつり上げているのでは、と疑われるリスクを負う羽目になった。公正で適正な価格設定の原則に反する、というわけだ(第3章参照)。おまけに、食料品店もメーカーも、永久に値引き分の費用を負担するつもりはなかったから、ビジネスの利潤モデル自体にも、致命的な欠陥があったのだ。


 ここで学ぶべき教訓は何だろう? 消費者のニーズに合った商品やサービスでも、もうからなければ話にならないし、バリューチェーン〔商品が消費者に届くまでのそれぞれの工程で、付加価値を生み出していく連鎖のこと〕においては、すべての関係者が潤うビジネスモデルでなくてはならない、ということだ。


 消費者が毎日のように買う商品を値引きすれば、一時的に売上を伸ばす効果はあるだろう。しかし、実は、現実の世界にもオンラインの世界にも、もうけが期待できるユニークな市場があるのだ。それは、価格にこだわらず、最高級品をほしがる人たちの市場である。

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