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(2021/11/26 追記)

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競争優位を実現するファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略
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ビジネス
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CHAPTER7 経験価値で市場を支配する

『競争優位を実現するファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略』
[著]フレッド・クロフォード [著] ライアン・マシューズ [監修]星野佳路 [発行]イースト・プレス


読了目安時間:1時間0分
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「楽しませさえすればいい」という誤解



 その店の狙いは実際の売上にはつながっていなかった。私たちはその日、セントルイスのとある小売業者を訪れていた。その企業は、この土地の古くからある地区の住民やアフリカ系アメリカ人のコミュニティに尽くしていると自負していたし、実際、その通りだった。


 いかにもビジネスマン、といったスーツにネクタイ姿で、私たちは、市の中心部にある同社のある店舗へ入った。ちり一つ落ちてはいない。町の購買動向をセンスよく押さえた商品の構成もさることながら、品質、清潔さ、目を引く販促のどれを取っても、すでに視察を終えた同社のいくつもの郊外店に劣らぬ配慮が感じられた。価格設定は、チェーン全体の方針に沿っているようだし、従業員の多くは、近所の住人だった。


 正直なところ、私たちはかなりの好印象を抱いていた。しかし、それは顧客の目線でなかった、と間もなく知ることになる。次に訪れたのは、郊外にある同じチェーンの店舗だった。中心部にある店舗に比べると、半分の魅力も感じられなかった。設備は古く、薄汚れている。通路をうろうろしていると、年配のアフリカ系アメリカ人の客に、声をかけられた。服装から、同社の幹部と間違えられたのだろう。


 男性は、中心部の先ほどの店から歩ける場所に住んでいるのに、40キロも車を飛ばし、この店に買いに来ていた。「どうして向こうの店で買わないんです? あの店のほうがずっと感じがいいのに」と私たちが言うと、「人種差別だよ」と男性は言った。「人種差別?」「ああ。でっかい貼り紙を見なかったかい? あそこで小切手を切るには、いろんな身分証明書を見せなきゃいけない、ってこまごま書いてあるんだよ。ここには、そんなのないだろ? あの店は黒人を信じてない、ってことさ。そういうのは人種差別だ、っておれは思うね」


 実を言うと、私たちももちろんその貼り紙を見ていたが、男性のようには受け止めていなかった。翌日、経営陣との会議の席で、私たちはその話を始めた。「あるお客さまが、あの店は、アフリカ系アメリカ人を差別している、っておっしゃるんです。理由は……」と、説明しかけると、「小切手の貼り紙、ですよね」と、幹部の1人が、代わりに答えてくれた。そして、「たしかに、あれはいけない」とうなずいた。


 素晴らしい店をオープンしたことで、同社が近隣住民を大事に思っていることは、伝わっていたかもしれないが、たった1枚の貼り紙が、「信用してないぞ! 敬意も払ってないぞ!」と大声で叫んでいたのだ。経験価値という要素で戦いたい企業にとっては、深刻な問題だ。


 深刻な問題なのに見落とされやすい理由は、しごく単純だ。経験価値とは楽しませること(エンターテインメント)だ、楽しませさえすればいい、と多くの企業が誤解しているからだ。


 サウスウエスト航空や、スーパーマーケットのスチュー・レオナードのように、エンターテインメントが、良い商品やサービスを補強し、経験価値を高めている場合もある。だが、エンターテインメントは、良い商品やサービスの代わりにはならない。いまいちな商品やサービスと顧客の間に介在するのが、エンターテインメントだけだったとしたら、消費者は間違いなく、新鮮味が薄れた頃には、飽きてしまうだろう。


 ファッション・カフェ、プラネット・ハリウッド、オールスター・カフェ、ハードロック・カフェといった「テーマ型レストラン(イータテインメント)」を思い出してほしい。実際、イータテインメント業界が険しい道のりを歩んでいる理由は、まさにこのあたりにある。


 調査の結果、私たちは、次のような結論に達した。企業としてたしかな価値を提案する代わりに、エンターテインメントを差し出すのは、価格のハイロー戦略と同じで、勝てる戦略ではない。でもみんな、楽しみたくはないのだろうか? もちろん、楽しみたい。でも、企業に楽しませてもらわなくても、みんな自分で楽しめるのだ。


 紛争地をマウンテンバイクで走る、超高層ビルからパラシュートをつけてジャンプする、シー・カヤック、高空での危険なスポーツなど、今や選択肢はあまたある。おまけに、100チャンネルのケーブルテレビやインターネット、映画、文化イベントやスポーツ大会など、エンターテインメントには事欠かない。消費者は、スーパーの駐車場でのふれあい動物園やマジシャンなど、求めてはいないのだ。

「一流の神話」の支持者たちは、でたらめに必要もない値引きをするが、同じように、何の根拠もなく商品やサービスにエンターテインメントを盛り込みたがる。そして、経験価値を重視する顧客が、本当に求めているものを見落としている。彼らは親密さがほしいのであって、消耗品売り場で踊るクマさんを見たいのではない。


 多くの企業経営者は、こう思いたがる。時間に追われる今日の消費者は、クリーニングの集配のついでに、ジャグリングも見せてくれるような企業に感謝するはずだ、と。だが、現実は違う。今日のインスタビジュアルたちは、時間のやりくりがうまく、日常生活にどの活動を加えて、何を省くべきか、絶えず判断を下しているのだ。


消費者は、企業からの敬意を求めている



 たしかに、消費者が小売業者をはじめとした企業に、エンターテインメント性を求めた時代もあった。ただし、それは今日のように、飽きるほどたくさんの娯楽がなかった頃の話だ。過去を振り返れば、誰もがそんな例を1つや2つ、挙げられるだろう。


 著者の1人、ライアンは、母親がいろんな店でよく楽譜を手に、ポピュラー音楽を披露していたことを覚えている。彼女がピアノの弾き語りを始めると、お客がわっと集まって耳を傾けていたものだ。エンターテインメントは間違いなく、買い物客の経験価値の重要な一部を占めていた。当時、大切なのは時間ではなく、エンターテインメントだったのだ。


 今日、たいていの人は、当時ほどの穏やかさも時間も、持ち合わせていない。楽器店で誰かが15分も歌うのを、立ったまま聴くことはまずないだろう。代わりに、CDを買って帰るか、アマゾンやCDナウで注文するか、エムピースリー・ドットコムから直接ダウンロードするはずだ。


 はっきりしているのは、エンターテインメントだけでは、何度も店に来てもらうことはできない、ということ。過去20年間にアメリカ社会はすさみ、相対的に礼儀正しさが失われ、孤独感が増している。共同体がある意味、衰退してしまったせいで、消費者は企業から敬意を払われることを、前より重視するようになった。なぜだろうか? ほかの場所では、敬意を払ってもらえないからだ。


 近年ますます、消費者と企業が、互いに敬意を払い合えなくなっている。それは、社会の著しい変化を象徴している。だからこそ、「敬意の文化」を生み出せる企業にとっては、チャンスなのである。


 そんな企業なら、商品やサービスと引き換えにお金を払う、というだけのやり取りを超えた、経験価値を提供できるだろう。そういう意味では、経験価値とは、消費者が店を訪れたり買い物をする際に抱く、感情にほかならない。それは、単なるエンターテインメントをはるかに超えた感情である。


 スターバックスのCEO、ハワード・シュルツは、この手の経験価値の重要性をよく理解している。毎日のようにスタバに立ち寄る何十万人もの人々が、1杯のコーヒーのためだけに来るのではないことをシュルツは承知している。

「コーヒーはね、何百年間も会話の中心にいるんですよ」と、シュルツは言う。「私たちは、お客さまの“第3の場所”をつくろうとしているんです。家と職場の間にあって、そこへ来れば1人で一服できて、何かの集まりに参加している気分になれる。スターバックスは、近所の人が集う玄関先のポーチのような存在になったんです。うちが体現しているものを、みなさん信頼してくださっています。お客さまが何度も足を運んでくださるのは、質の高い経験価値のおかげです」


 アクセスに、物理的アクセスと心理的アクセスがあるように、経験価値にも2種類あるということを調査が示している。1つは、外的な経験価値。店でピアノが聴ける、シェフがシシカバブを目の前で料理してくれるなど、要はエンターテインメントだ。もう1つ、内的な経験価値のほうは、ある企業とのやりとりについて、消費者が抱く感情と結びついた、はるかに個人的な経験だ。


 消費者ならその違いを、こう説明するかもしれない。「肝心なのは、店でどんな経験をするか、というより、店で私自身がどんな気分でいるか、なのよ。店では、どんなふうに感じている? 礼儀正しく敬意を払ってもらえている? 大切なお客さまとして扱われている?私の用件に、店は積極的に取り組んでくれている?」


 外的な経験価値と、内的な経験価値を、同時に提供することはできるのだろうか? もちろんできる。たとえば、高級デパート、ニーマン・マーカスの経営者であるスタンリー・マーカスは、店を劇場の舞台のように演出する一方で、消費者に「自分だけの経験」を提供する大切さも理解していた。マーカスがよく話していた、ある顧客のために「100万ドルのパフェ」をつくった話を紹介しよう。


 マーカスはまず、高価なシャンパングラスを用意して、その内側をシルクのスカーフで覆い、そこにダイヤモンドとエメラルドとルビーを、何層にも重ねていった。出来上がった作品は、アイスクリームパフェにそっくりで、誇らしげに100万ドルの値札をつけていたという。マーカスは、取引の場でのエンターテインメント──外的な経験価値──を、そのお客さまだけの劇場──内的な経験価値──に変えたのだ。


 コネティカット州に本拠を置くスーパー、スチュー・レオナードも、外的、内的な経験価値をうまく組み合わせている。スチュー・レオナードには、リアルに動くロボットや試食コーナーなど、さまざまな仕掛けがこれでもかとそろっているが、このエンターテインメントを裏で支えているのが、親切で礼儀正しく、知識豊富で丁寧なスタッフだ。彼らが、内的な経験価値を提供している。


 企業に対して一番言いたいことは何か。あらゆる企業資源をエンターテインメント──外的な経験価値──につぎ込んで、お客さまに敬意を払うことを忘れている企業は、金を失うということだ。敬意を求める消費者の思いは切実なので、本書で定義している5つの要素の中で、ビジネスに最大の宝の山を提供してくれるのは、もしかしたら経験価値かもしれない。


顧客の気分で利益が変わる



 経験価値はおそらく、正確に定義するのが最も難しい要素だ。サービスと同じように、おおむね主観的な上に、実際のところ、すべての要素に対する消費者の反応を表しているからだ。ファイブ・ウェイ・ポジショニングを知って間もないうちは、たいていサービスと経験価値を区別するのに苦労する。つまるところ、取引の経験価値を主に形づくっているのは、取引の際に受けたサービスを自分がどう感じるか、だからだ。


 では、どこまでがサービスで、どこからが経験価値なのだろう? こんなふうに考えてほしい。

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