『わが子を名門小学校に入れる法』
[著]清水克彦
[解説]和田秀樹
[発行]PHP研究所
和田秀樹
わが子にできるだけ良い教育を受けさせたい──多くのお父さん、お母さんはそう思っているのではないかと思います。たとえ自分が苦労してでも、子供に良い教育を受けさせたいと思うのが親心でしょう。
私は、教育というのは欲張りなくらいがちょうどいいと思っています。親が努力してできる範囲内なら、子供には何でもさせてあげ、できるだけ良い環境に置いてあげたいと考えています。
特に、小学校時代に子供にどんなことをさせてあげるか、子供をどんな環境に置くかということは、教育の中でも最も重要なことではないかと考えます。勉強が好きになるのも、嫌いになるのも小学校の時の教育が大きく影響します。スポーツや芸術を好きになるのも小学校の時の経験が大きいでしょう。人間関係づくりも、やはり小学校の時の集団としての経験がベースとなるはずです。子供の感性や心の豊かさを養ううえでも、小学校の時の様々な体験が生きてきます。
基礎学力をしっかりと身に付けさせ、情緒的にも人間的にも成長してもらうためには、小学校時代にできるだけ良い教育を受けさせてあげることは、とても重要なことだと思います。
しかし、残念ながら、現在の公立小学校の教育では、良い教育が期待しにくくなりました。改めて言うまでもないでしょうが、学習指導要領の改訂によって、いわゆる「ゆとり教育」が始まり、基礎科目のカリキュラムは三割も削減されてしまいました。また、公立小学校では、不適格な先生の問題も大きくなっています。
このような公教育に子供を託すのは、親として不安です。良い先生に出会えればすばらしい教育を受けられますが、当たり外れが大きいというのが公立小学校の現状です。そうした公立小学校への不安を避けるためにも、そして、一貫した教育方針での教育を受けさせるためにも、私立小学校受験を視野に入れることも、一つの道ではないかと私は考えています。
本書は、そんな私立小学校受験を考えている親御さんへの指南書です。もちろん、有名国立大学の附属小学校を目指すという選択もあります。しかし、ご存知のように国立小の受験には抽選があるなど、実力以外の要素が含まれます。ですから、多くのご家庭が、国立だけでなく私立の受験も考えていらっしゃるはずです。
著者の清水克彦さんは、つい最近、ご自身のお子さんを私立小学校に合格させた経験を持つお父さんです。と同時に、放送局で長年記者として活躍されてきたジャーナリストでもあります。本書には、清水さんご自身の体験はもとより、多くの取材を元にした受験のノウハウが満載されています。
また、ジャーナリスティックな視点での分析も加わっていますから、私立小学校の現状がどうなっているのかを知るうえでも参考となるはずです。小学校受験を考えている親御さんには最適の本ではないかと思います。
しかしながら、私は、必ずしも私立小学校へ行かせることがベストだと考えているわけではありません。私立小学校にもデメリットはあります。有名大学の系列小学校に合格したとたんに、気を抜いて勉強しなくなってしまう子供や、安心してしまう親御さんもいます。できる子ばかりの集団に入って「自分は勉強ができないんだ」と思って勉強が嫌いになってしまう子もいます。私立小学校に行くよりも、公立小学校でトップクラスになって、優越感を持ちながら勉強を好きになっていく方が性格的に向いている子もいるのです。
そのあたりのことは、お子さんの性格などをよく見ながら、私立小学校のメリット、デメリットを吟味して、どちらが良いかを選択するべきだと思います。
とはいえ、私立小学校合格を目指すこと自体は、とても有益な経験になるのではないかと私は考えています。本書を読まれれば納得していただけると思いますが、小学校受験は単に一発勝負のペーパーテストに合格すればいいというものではありません。願書や面接によって、子育ての方針や、それまでの親子の関わりなどがあらゆる角度から問われます。
意外に思われるかもしれませんが、私立小学校受験は、合格しようと思えば思うほど、親子の関わりを増やさなければならないという性質を持っているのです。特に、それは父親に関して言えることです。一般的な父親の場合は、仕事が忙しくて子供と接する機会が少なくなりがちですが、小学校受験を目指している父親たちは、忙しい日常の中で、少しでも時間を作って子供と関わろうとします。そうしなければ、願書に何も書けませんし、面接の時に立ち往生してしまうからです。おそらく、小学校受験という目標があった方が、お父さんが子供と一緒に何かをする機会が増えるのではないかと思います。
また、願書を書くためには、自分のお子さんの特徴をよく把握していなければいけませんし、どんな子供に育ってほしいかという教育方針も明確にしなければなりません。漫然と子育てをするよりも、小学校受験というものを媒介にした方が、一生懸命に子供に関わり、真剣に子供を見つめることができるのではないかと思います。
小学校受験をさせるかどうか悩んでいる方は、合否などを考える前に、まず本書をお読みいただければと思います。小学校受験に対する考え方が、少し変わってくるはずです。本書が、お子さんの教育について考える良いきっかけになってくれたらと願っています。