『消えるコトバ・消えないコトバ』
[著]外山滋比古
[発行]PHP研究所
歴史を過去の忠実な記録と考える人が、かなりの知識、教養をもっているのにすくなくない。それが注目されることもほとんどない。
十九世紀は、歴史の時代であると言ってよい。ヨーロッパの主要国は、自国の歴史を確立することも、文化的独立のように考える傾向があった。すこし歴史を過大視したのだが、それを批判するものはなかった。自信にみちた歴史家の中には、“歴史は過去を再現する”と豪語した。それを信じるのがアカデミックだとされていたのである。
大学は、歴史的学問が並んだ。文学史、言語史、美術史……“史”のつかない学問は存在しないかのようであった(鎖国をしていてそういう歴史革命を経験しなかった日本は、わけも分からず、──史を学術の中核においた)。