『消えるコトバ・消えないコトバ』
[著]外山滋比古
[発行]PHP研究所
夏、八月、お盆、というと、みんなが浮き足立って、混雑する乗り物をものともしないでふるさとへ帰る。
どうして帰省したくなるのか、などというのは野暮のいうこと、ふるさとの霊が呼びよせるのである。
帰ってみれば、なんということもない。数日もいればうんざりして、早く帰りたくなるのである。
遠くはなれて住んでいるからこそ、郷里はなつかしいのである。ずっと、その土地に住む人が、負けおしみのように、“住めば都”などと言ってみたりするが、こんどの連休はどこへ遊びに行こうか、などと考える。
ふるさとは土地を離れた人にしか存在しない。