『消えるコトバ・消えないコトバ』
[著]外山滋比古
[発行]PHP研究所
大学を出て中学校の英語教師になったが、すこしもおもしろくない。早々に足を洗って大学の研究室へ戻る。中世英文学という浮世ばなれしたものにウツツを抜かした。すこしも得るところはなかった。
研究生の期限が切れても、仕事がない。家庭教師でもして生きて行くか、とぼんやり考えていた。
恩師の福原麟太郎先生から、速達が届いた。『英語青年』の編集をしている富原芳彰氏の大学転出がきまった。その後任を頼みたい。「余人をもって代えがたく、ご承知下さるよう……」とある。
先生は『英語青年』の主幹であったが、実務はすべて、編集主任にまかせておられた。富原さんは、敏腕の文学青年で、六年にわたって、雑誌を編集していたのである。その後釜が、この唐変木につとまるはずがない。
さっそく参上、辞退する。だいたい、いい加減である、と思ったが、さすがに口には出せない。