『消えるコトバ・消えないコトバ』
[著]外山滋比古
[発行]PHP研究所
魚屋の庭先で、おやじさんがまくし立てている。
「このごろの奥さんにはかなわない。目で食べるんですよ。キモわるいって、手を出さないんです」
きいているサラリーマン風の男性が、感心したみたいで、
「目で食う、うーん」
と感心しているのがおもしろかった。いまの主婦は魚のことをよく知らないで育つ。魚の目がにらんでいるみたい、頭を落としてください、という客もいるらしい。すこし変わった姿の魚もお呼びではない。
「やっぱり切り身の方がいい」
となって、尾頭つきがだんだん姿を消す。
それにしても、「目で食べる」というのはおもしろい。魚屋のおやじの教養をたたえたくなるかもしれないが、おやじさんの発明ではない。