読みたいトコだけ買える本。
犬耳書店
初めての方へ 記事一覧 無料登録 ログイン
0
-2
kiji
0
0
1205672
0
小村寿太郎とその時代
2
0
0
0
0
0
0
歴史
お気に入りとは?

お気に入りボタンを押すとお気に入りリストにこのページが追加されます。興味のあるページ・気になったページを後から確認するのに便利です。

お気に入り お気に入り
第二章 水を得た魚

『小村寿太郎とその時代』
[著]岡崎久彦 [発行]PHP研究所


読了目安時間:26分
この記事が役に立った
0
| |
文字サイズ

──小村は時代が(よう)(せい)する「(きよう)(しや)」であり「(けん)(じや)」であった


(きよう)(しや)」と「(けん)(じや)


 いったん(ほん)(やく)(きよく)から(とう)(よう)されて外交の(さい)(ぜん)(せん)に立たされてからの小村は、まさに魚が水を()たごとく、たちまち(とう)(かく)を現わして日本外交の中心的人物となる。


 一八九三年(明治二十六)(ちゆう)(しん)(だい)()(こう)使()、一八九四年(につ)(しん)(せん)(そう)(ぼつ)(ぱつ)後は(まん)(しゆう)(せん)(りよう)()(いき)(みん)(せい)(ちよう)(かん)、同年(がい)()(しよう)(せい)()(きよく)(ちよう)、九五年(ちゆう)(ちよう)(せん)公使、九六年(がい)()()(かん)、九八年(ちゆう)(べい)公使、一九〇〇年(ちゆう)()公使、同年(ちゆう)(しん)公使、一九〇一年(がい)()(だい)(じん)となり、一九〇六年まで外務大臣として(にち)()(せん)(そう)(ぜん)(きよく)に当ることとなる。


 それまで十年間の()かず()ばずの時代を思うと、まるで別人の感がある。


 (ひつ)(きよう)は小村の実力と()(きよう)(どう)(りよう)のなかで(たく)(えつ)していたからである。実力はもともとあった。翻訳局時代も、小村の書く英語の(りゆう)(れい)さは他の(つい)(ずい)を許さないといわれた。(だい)(たん)()(てき)さも、周囲が(へき)(えき)するほどのものがあった。しかし、その二つの点を(だれ)も結びつけて考えようとはしなかった。むしろ(しよ)(せい)(つたな)く、バランスを欠く人物と思われていたのであろう。

バランスのとれた人物」という表現は、戦前の日本にはなかった。それよりも度胸とか腹とかいうことのほうが重視された。しかし、戦後の日本では「バランスのとれた」はすでに日本語として(てい)(ちやく)し、社会人の評価としては最高のほめ言葉の一つとなっている。



 (そう)の人、()(とう)()はいっている。

天下がまだ(たい)(へい)でないときは、人々は(あい)(あらそ)って自らの能力を(はつ)()しようとする。しかし天下が治まると、(ごう)(けん)(こう)(みよう)を求める人を遠ざけ、(じゆう)()(きん)()の人(かしこまってばかりいる人)を用いるようになる。そうして数十年も過ぎないうちに、能力のある者は能力を発揮する場もなく、能力のない者はますます何もしなくなる。


 さて、そうなったときに(こう)(てい)が何かしようとして前後左右を見渡しても、使える人間が誰もいない。……上の人はつとめて(かん)(じん)()(そく)(りよう)をなし()(りよう)が大きく、しかも中身が計り知れない大人物の(かつ)(こう)ばかりして)、下の人は口を開けば(ちゆう)(よう)の道(バランスがとれている、というのが(てき)(やく)であろう)ばかりいい、……もってその無能を解説するのみなり」


 そして蘇東坡は、「中庸」のもとの意味はこれとはまったく異なることを(ろん)(しよう)している。そして、右のような人々を(こう)(もう)は「(とく)(ぞく)」と呼び、むしろ「狂者」(こころざし)の大にして言行の足らない人)を得ようとし、それが得られない場合は、「(けん)(じや)(たとえ知は足りなくとも何か守るところのある人)を得ようとしたという。狂者は皆のしないことをやる人であり、獧者は皆がするからといってもこれだけは自分はしないというものをもっている人、つまり土佐の「いごっそう」である。蘇東坡はいま天下をその(たい)()から(ふる)いたたせるには、狂者、獧者であってしかも(かしこ)い人間を使うに()くはない、というのである。



 明治の人はよく自らを「狂」と呼んだ。(やま)(がた)(あり)(とも)は「(きよう)(すけ)」と名乗り、()()(むね)(みつ)()(ごう)を「六石(きよう)()」とした。まさに身に過ぎた志をもつ狂者と自らを呼んでいるのである。


 小村は、まさに狂者であり獧者であった。とても「バランスのとれた人物」という(はん)(ちゆう)には入りようがない人物であった。

この記事は役に立ちましたか?

役に立った
0
残り:10888文字/本文:12842文字
この記事を買った人はこれも買っています
      この記事を収録している本
      この本で最も売れている記事
      レビューを書くレビューを書く

      レビューを書いてポイントゲット!【詳細はこちら】

      この本の目次