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歴史のねむる里へ
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旅行
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鎌倉(四) 谷をめぐる

『歴史のねむる里へ』
[著]永井路子 [発行]PHP研究所


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山ふところの行きどまり



 (やと)──というよび名は、おそらく鎌倉特有のものではないだろうか。三方を山にかこまれ、南に海をかかえたこのちっぽけな町は、少し歩けばすぐ山にぶつかってしまう。しかもこの山裾が、海へ向って遠く近く複雑な曲線をえがいているので、こうした山ふところの行きどまりはやたらに多い。これを鎌倉の人々は「やと」とか「やつ」と呼ぶのである。


 紅葉(もみじが)(やつ)()(すけが)(やつ)(かめが)(やつ)──いまでも鎌倉では町名よりもこうした谷のよび名のほうがわかりやすいし、(おおぎが)(やつ)()(きが)(やつ)などのように史都にふさわしい歴史にゆかりの名もそのままに残っている。だから隣りの谷をたずねるにしても、トンネルもぬけ道もないので、山裾を大まわりして行かねばならない。そして、鎌倉の人々は、頼朝の開府以来数百年、辛抱づよくこのまわり道を続けてきた。


 この、のんきな辛抱づよさ! おかげで今日まで、この谷の奥はさほど荒らされずにすんだ。奈良や京都とちがって、この地が、度々兵火に焼けた酷烈な歴史をもつにもかかわらず、谷の奥に、鎌倉の歴史は残ったのだ。


 もちろん、それは昔のままの姿ではない。法隆寺や平等院のような当時の遺構は、ほとんど鎌倉には残っていない。それにしても谷の奥には、古い鎌倉の(かお)がある。少なくとも文永、弘安、建武の、いや寿永、文治のころの鎌倉を思わせる静かさが名残りを止めている。


 だから、鎌倉をたずねるときは、せっかちに車などを飛ばさず、のんきな鎌倉人になったつもりで、足にまかせて谷の奥を訪ねるべきだ。そこには必ず古い鎌倉の歴史が待っているはずだから。


 谷にはいろいろの表情がある。明るいのどかな日だまりをかかえた、おだやかな谷。杉や檜の丈高い木立に蔽われた昼なお暗い谷。しかもそれらの谷の行きどまりには、たいてい古い寺や神社がある。


 深い樹々の緑にかこまれた閑寂な谷の典型は妙本寺のある()(きが)(やつ)であろう。駅から程近い、市街地の中心なのに、総門をくぐると、急に冷えびえと空気が澄んでくる。

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