『第一子を伸びる子に育てる本 思いやりと個性をはぐくむお母さん』
[著]平井信義
[発行]PHP研究所
どのように子どもとつき合ってきたか
体験を通して学ぶ──という教育上の重要な課題を考えるとき、まず頭に浮かぶことは、幼児教育について語る人の体験です。幼児教育について語っている研究者や実践家が、どのように幼児とつき合う経験をしているかが、その人の言っていることや書いていることに反映されているからです。
研究者の中に、内外の文献を広く読み、それを巧みに理論的に構成して論述している人がいますが、その論述からはその人の頭のよさはわかっても、感動に値するものはほとんどないといってもよいでしょう。
また、実践家の中に、幼児とのつき合いの体験を書いている人もおりますが、それが表面的なつき合いであるときには、子どものいきいきしたイメージが伝わってきません。町で売られている保育雑誌に書かれたものには、そうしたものが多く、とくに研究者の書いたものは理論的に構成されてはいますが、理論に押し流され、子どもの本当の心とは程遠いもののように思われてなりません。
それに比べて、子どもと深くかかわってつき合っている研究者や実践家の論文は、ともすると理論的な構成が弱かったり、あるときには直観的・情緒的な表現が多いのですが、しばしば感動的であり、子どものイメージがいきいきと伝わってきます。
私が幼児の研究を始めたのは、昭和二十年代の前半ですが、そのころは、研究ということにこだわって、子どもとの深いかかわりのないままに、かなり手際のよい総括をしたり、統計的な処理にもとづく結果を出して満足していました。
それに鉄槌を下してくれたのが、あるすぐれた保育所の女性の園長でした。その園に協力してもらった研究の結果をその園長に見せると、それを一読したあと、その先生は、
「これ、本当に子どもかしら。もっと子どもと遊んでみてよ」