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『「仏」と「鬼」の謎を楽しむ本』
[編著]グループSKIT
[発行]PHP研究所
あるときは別世界の住人で、あるときは反逆者、あるときは怪物
意外とわからない鬼の正体
鬼とは不思議なものである──。『桃太郎』や『一寸法師』などの昔話によって、日本人なら誰でも鬼の姿を思い浮かべることはできるだろう。子どもでも、赤い顔に角を生やした鬼の絵を描くことはできるはずだ。
だが、「鬼とは何か?」と問われたとき、すぐに答えられる人はそう多くはないはずだ。怪物なのか、妖怪なのか、精霊なのか、それとも人間とは別の種族なのか? あるいは、獣のように野山をさまよっているのか? 社会を作り鬼の国で暮らしているのか? そういったひとつひとつのことを考えてみると、よくわからないことが多い。
このように鬼とは、外見のイメージだけは日本人のほとんどが共有しているのに、具体的なこととなると曖昧になってしまう非常に不思議な存在なのだ。
この曖昧さの原因は、鬼の多面性にあるのかもしれない。鬼にまつわる伝承は日本各地に残されているが、それぞれで鬼のあり方はずいぶんと違うものとなっている。
例えば、牛頭馬頭(後述)に代表される、地獄の獄卒としての鬼のイメージがある。いわば、人間の世界とは別世界の住人である鬼たちだ。この場合、彼らは積極的に人間社会と関係を持とうとはしない。
だが一方で、酒呑童子(後述)や悪路王(後述)に代表されるような、時の権力に逆らう反逆者としての鬼もいる。彼らは地獄のような別世界に住んでいるわけではなく、我々と同じように地上に住み、人間社会の富や権力を求めている者たちだ。
さらには、安達ヶ原の鬼婆(後述)や宇治の橋姫(後述)のように、元は普通の人間だったのに鬼と化してしまったような者もいれば、牛の体に鬼の頭をもった牛鬼(後述)のように、たんに人間を襲う獰猛な怪物でしかないような存在もいる。
このように、それぞれの伝承の中での鬼の姿が違うゆえに、「鬼とは何か?」という定義が非常に難しいのだ。本章では、そんな鬼たちの多面性に様々な角度から迫ってみた。ぜひ、謎めいた鬼たちの世界を楽しんで欲しい。