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現代活学講話選集5 酔古堂剣掃 「人間至宝の生き方」への箴言集
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生き方・教養
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文庫版のまえがき

『現代活学講話選集5 酔古堂剣掃 「人間至宝の生き方」への箴言集』
[著]安岡正篤 [発行]PHP研究所


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 このたび、PHP研究所より『十八史略(上・下)』、『孟子』、『人生の五計』に引き続いて『(すい)()(どう)(けん)(すい)』が文庫版として新装刊行された。

『酔古堂剣掃』とは、あまり聞き慣れない書名と首を傾けられる読者も多いのではないかと思う。原著者は、中国・明末の教養人・(りく)(しよう)〓(こう)で、彼が長年にわたって愛読した「史記」や「漢書」などを始め、およそ五十種にも及ぶ古典の中から会心の名言、嘉言を収録した読書録である。大変興味深い分類構成になっており、全十二巻からできている。全体を通して自然、田園、山水などを楽しみ、世の中の名利など全く眼中にない悠々たる人間の生き方を見事に活写した風雅の書であるといえる。


 書名の「酔古堂」は、陸紹〓の雅号で、古人先哲の学問、文章、見識に酔う。そして「剣掃」は、その剣(心)で世俗の邪気を(はら)うという意味である。


 父は、本書の第一章で「この本は意外なほど広く普及して、いろいろの文人・墨客が愛読したものとしては『菜根譚』などよりずっと内容が豊富でかつおもしろい。(しかし本書は、)明治・大正でついに終わったというか、昭和になってほとんど見かけなくなりました。昭和の初めのころであった。私は本書が大変おもしろいものだから、その中から会心の文章を選んで講じたことがある。それに対して、私の心友であった作家の吉川英治君が非常に共鳴して、吉川君が装丁をしてくれた私の著書『童心残筆』の付録としたことがあります」と語っている。多分に父は、若かりしときから天地間の好風月、好山水、好書籍を楽しむ自在な生活をおくった陸紹〓の心情に共感し、埋もれかかっていた絶学ともいうべき本書を是非多くの人に再普及させたかったのであろう。


 読み進むうちに、陸紹〓の風雅を極めた境地に深い感銘を憶えさせられるが、とくに心に残る文章を二、三紹介してみたい。


()を投じて空しく労するは()と生計にあらず。(すそ)()いて自ら屈するは()()れ交游ならんや。



 この現代活学講話選集4『人生の五計』の中で「生計」について詳しく説明されているが、単に毎日の生活を立てる生計でなく、われらいかに生くべきやという人間の根源的生き方を問うているもので、究極人間の生は、自然の理に則した生計でなければならないと諭している。


 この文章を読むと、七十歳近くまで名刺社会で右往左往してきた身には、まことに愕然として言うべき言葉もない。人生を振りかえって厳しくも真実の人間とはかくあらねばと深省しきりである。


吾が斎の中は虚礼を(とうと)ばず。(およ)()の斎に入れば(ひと)しく知己と()し、分に(したが)いて〓(かん)(りゆう)し、形を忘れて笑語し、是非を言わず、営利を(おご)らず、(しず)かに古今を談じ、静かに山水を(もてあそ)び、清茶好香、以て幽趣に適す。臭味の交、()くの如きのみ。



 書斎での修業法を教えられる好文章だ。しかし現今の住宅事情からいえば、かりに親父の書斎があったとしても一人っ子のお受験のためにあてがわれ、親父は茶の間でテレビというところか。とかく忙しい現代生活の中で、親父にとっては一人で心を休め、己を省みる書斎はどうしても必要であろう。


歳行(さいこう)尽きぬ。風雨凄然(せいぜん)たり。紙〓竹屋(ちくおく)、灯火(せい)〓(けい)。時に此の間に()いて小趣を()



 毎年暮れを迎えると私はこの文章を読むことにしている。「歳行尽きぬ。風雨凄然たり」という短い言葉が、この一年の出来事、情景を実によく表わしており、一抹の悔恨を残しながらしみじみとした気持ちで年を送ることができる。


 子供のころから見てきた父の姿は、極めて無為自然であり、すべてに余裕があり、なおかつなんともいえぬ(かな)しさが漂っていた。難しくいえばよい意味で東洋的虚無観を持っていた。それは世俗でいう名誉、地位などにいささかも恋々とせず、まことに恬澹(てんたん)とした人生をおくったことからもわかる。だからこそ本書の特色である風雅の人生観を平生(ひそ)かに自分のものとして、いかなるときにも精神的空虚に陥らないよう心がけていたからであろう。


 ()(こく)(あく)()とも呻吟する時代ともいわれる現代──難しいことではあるが、こういう好文書を読んで機に応じて自省し、精神的呆けを防いで真実の自己と生活を保全する心がけが必要であることを痛感する。



 平成十七年五月

(財)郷学研修所・安岡正篤記念館 

理事長 安 岡 正 泰 

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