『陽明学 生き方の極意』
[著]守屋洋
[発行]PHP研究所
陽明学といえば、すぐに思い出されるのが「知行合一」ということばです。知ることと行なうことは一体のものでなければならないというこのことばこそ陽明学の核心であり、とかく無責任な口舌に流されやすい私どもに、きびしい反省を促してやみません。
そこに今なお衰えない陽明学の魅力があると言ってよいでしょう。
しかし、いざ陽明学に参入しようとしますと、途中でつまずいてしまう人が少なくありません。そのいちばん大きな理由は、わかりやすい入門書がないからだと思います。
むろん、陽明学についてはこれまでたくさんの解説書や入門書が書かれてきました。しかし、いずれも“帯に短し、襷に長し”と言いますか、初学者にもよく理解できるようなものが少なかったように思われてなりません。
その結果、せっかく陽明学に関心をもって参入しようとする人々を逆に遠ざけてしまうことにもなりかねませんでした。こんな残念なことはありません。
むかしから陽明学の入門書として親しまれてきた本に、『伝習録』という古典があります。王陽明が弟子たちに語ったことを、のちに弟子たちが記録にまとめたものですが、陽明学の成り立ちがさまざまな角度から説き明かされています。
本書では、もっぱらこの『伝習録』のなかから陽明学の核心の部分を取り出し、私なりの解説を試みてみました。
どの程度お役にたてるか心もとないのですが、本書をとおして陽明学に対する理解を深められるとともに、現代を生きる指針のようなものを汲み取っていただければ幸いです。
一九九六年二月
守屋 洋
王陽明
一四七二〜一五二八年。名は守仁。中国、明代の思想家、政治家。淅江省の人。形骸化した朱子学を批判し、陽明学を唱えた。
陽明学
王陽明が唱えた儒学。知行合一説、心即理説、致良知説を唱え、人間が本来もっているすぐれた素質(良知)をはたらかせることの重要性を説いた。
『伝習録』
王陽明と門弟たちとの問答を記録したもので、上中下巻から成る。陽明学の入門書として、現代もなお、広く読み継がれている。語録、書簡集という体裁をとり、王陽明の肉声を記録しているという点が、大きな魅力になっている。