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「情の力」で勝つ日本
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ミステリ小説
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第四章 「ヒュージネス」に立ち向かう日本精神 ──闘いに必要な気概と情

『「情の力」で勝つ日本』
[著]日下公人 [発行]PHP研究所


読了目安時間:47分
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世界との戦いでは、とどめを刺せ



 前章で述べたように、日本に奴隷は根づかなかったが、外国には奴隷時代があった。ヨーロッパの国々は、中世に奴隷制度をなくしたが、アメリカは中世を飛ばしていきなり近代になったので、近代以降もずっと奴隷時代を続けてきた。中国も、奴隷制度的なものが明確に存在していた。奴隷制度をやめたはずのいまでも、これらの国々の企業社会には、奴隷制度の残り香がある。


 たとえばアメリカの会社の場合、経営者だけが多額の給料をもらい、社員を奴隷のように扱おうとする。だから、労働者が働かなくなる。産業ごとに労働組合が強くなって、手に負えなくなる。かつてなら、そこに日本の会社が出て行くと、労働者を奴隷扱いせず大切にするので、労働者たちが働くようになった。


 ところで、日本の会社はアメリカの会社を追い詰めても、途中で手を緩めてしまうことが多い。“恩に着る”とか“心を入れ替える”とかを期待したが、それは甘かった。


 日本は提携してノウハウを教えてやるなど、相手が潰れる前に助け起こした。しかし、彼らは日本式の経営を本気で取り入れたわけではないから、再び経営が破綻した。今度は、見かねたアメリカ政府が自動車会社を助け起こした。


 例外的に、工作機械だけは、日本企業はアメリカの会社を一切助けなかった。アメリカの工作機械メーカーは全滅し、日本のメーカーの独壇場になっている。アメリカや中国が製造業で日本を追撃しようとしても、工作機械を日本から買わないと製品をつくることができない。


 戦いにおいて不要な「情」をかけるほど、バカげたことはない。「情」をかけてうまくいく場合は、そうすればよいが、そうでない局面では、しっかりととどめを刺さないと返り討ちに遭う。


 日本が日本式を打ち出していけば、世界のなかの位置づけがどんどん上がっていく。それは他国が情けないから実力どおりになるだけだが、そこからが危ない。


 役所の人は、東大出のロジカルな人だらけだから、パッションが足りない。度胸やパッションがない人は、アメリカはじめ諸外国とまともにケンカをすることなど思いもつかない。日本の外務省は、他国とケンカをしないで折り合おうとするから、最後は金を配ることになる。肚を固めてケンカをすれば、金を配らずに済むだろうに、まことにバカげたことである。


 大陸の人たちの考え方は「皆殺し」が基本である。「皆殺しにするぞ」といえば、相手は砂漠を越えて遠くに逃げていった。その考え方がビジネスにも流れている。


 日本の場合は、国内で戦争をするときには、日本列島のなかで決着をつけないといけなかった。逃げ場はなく、相手も反省をするから、皆殺しにはしなかった。行く先は「皆殺し」ではなく、「和解」だった。


 アメリカや中国には、中世がなく、古代からいきなり現代になったから、いまだに「皆殺し」の発想があり、相手を身ぐるみ〓ごうとする。金融の世界を見ればよくわかる。アメリカは金融の世界で、相手を身ぐるみ〓いでいる。


 中世があるヨーロッパ諸国には、「とどめを刺すのをやめておこう」という考え方が少しは残っているが、中世のない国は、相手に対してとどめを刺そうとする。


 国内で競う場合は「和解」でいいが、外国と戦うときにはそうはいかない。彼らはこちらを全滅させることを考えている。彼らに和解など通用しない。「敵に情けを」といっている場合ではない。


二の矢、三の矢を用意しておく



 だが、日本人はそういう戦い方が不得手である。たとえば真珠湾攻撃もそうであった。真珠湾攻撃では、湾内にいた戦艦は沈めたものの、空母は不在であったし、燃料タンクの破壊もできていなかった。第二航空戦隊司令官であった山口多聞は攻撃続行を訴えたが、結局、それをせずに日本海軍は帰ってきてしまった。


 こういう中途半端なことをしたことが、後々大きく響いた。真珠湾を攻撃するなら、全滅も覚悟してタンカーをもっと随伴させ、幸いに真珠湾攻撃に成功したなら、真珠湾を徹底的に叩いたあとで、さらにアメリカ本土に向かい、サンフランシスコの沖合にでも連合艦隊を展開させればよかった。アメリカはさらに度肝を抜かれたことだろう。


 さらにいえば、奇襲攻撃などをしたために、「日本は卑怯」という口実を与えてしまった。そもそもアメリカ海軍は日米開戦となったらマーシャル群島、マリアナ、小笠原と艦隊で侵攻してくる作戦を立てていたのだし、日本海軍もそれを迎え撃つ作戦を練っていた。それを、そのままやればよかったのである。開戦当時の戦力と練度であれば、日本海軍が勝利を収める可能性が高かった。日本海軍もそれはわかっていたのだから、敵の弱みにつけこむような粘り強い戦いをするべきであった。


 一方、アメリカはじめ諸外国は、まことに粘り強い戦いをする。アメリカはオールドタイプの製造業で敗北すると、早々にそれをあきらめ、金融や新しいタイプの製造業を牛耳ることで日本の会社を潰そうとした。中途半端に終わらせず、再起不能にまで追い込まないと、相手にやられてしまうのである。


 たとえば彼らは、相手の会社を支配するために株を押さえる。融資をすると助けることになるから、株を買う。外国企業からすれば、日本企業の弱り目につけこんで株を買い、経営を支配すれば、永遠にうまい汁を吸うことができるようになる。


 日本企業にも、自分の責任を棚に上げて、自分が円満退社できるなら、外資に買われてしまってもいい、と考える経営者がいる。外資に買われるかどうかという局面で、それをネタに社内の派閥争いを戦うような面々さえいる。明治維新の折、新政府側も幕府側も、内戦で欧米列強につけこまれて国益を大きく減損することがないよう必死の注意を払っていた史実を、ご存じない方が多いようである。


 残念ながら、そうやって買われてしまった日本企業がいくつもある。


 本来、そういう企業の経営者は、二の矢、三の矢を用意しておくべきだった。外国人経営者をワンポイント・リリーフとして使って、日本人がすぐに経営を取り戻す手だってある。情の厚い日本人には、人を解雇するのは難しい。であるならば、もうどうにもならない、という局面になったら外国人経営者にやってもらい、それが終わったら日本人が経営を取り戻す戦略もあるはずである。


 だが、そういう準備もせず、結局、居座られてしまうのは、人がいいのか、意気地がないかどちらかである。


 大企業よりも、中小企業や個人経営の経営者のほうが、二の矢、三の矢をよく考えている。老舗旅館の女将(おかみ)さんからこんな話を聞いたことがある。


 女将は「われわれ、老舗旅館が赤字になる原因で一番大きいのは板前です」と話してくれた。板前が魚屋から賄賂をもらって、高い魚を仕入れるようになって赤字になってしまうという。


 板前をクビにすればいいのだが、板前組合というものができていて、簡単にクビにできない。賄賂をもらう板前をクビにできず、赤字が続いてしまう。

「何か対抗手段はないのですか?」と聞いたら、「あります。やっています」と教えてくれた。ワンポイント・リリーフで社長を譲るそうだ。後任の社長には「あなたの仕事はあの板前をクビにすることだ」といって、それだけやってくれたら多額のお礼をする。板前をクビにする社長を連れてくるのである。その後、社長に辞めてもらって女将は経営に復帰する。


 老舗旅館の女将は、二の矢、三の矢まで考えて経営をしていることを知って、感心した。この女将も含めて中小企業の経営者は、生き残るために二の矢、三の矢を考えて経営している。大企業はそういうことをやっていない。中小企業のほうが遥かに経営が進んでいる。大企業は、老舗旅館の経営から学んだほうがよい。


 外国人は株主になると、株主権を行使してくる。そういう人に、軽々に株を渡してしまうのは考えものである。


 私が銀行員になったばかりのころは、日本型の資本主義は、株主にはなってもらうが、株主権は渡さないというものだった。自分の友達に「迷惑はかけないから、ちょっと株を持ってくれ」といって、名前だけ貸してもらう。株主といっても有名無実の状態で、出資しているだけ。そういう仕組みを折り重ねて株主に口出しをさせずに、経営者たちは自由に経営をしていたから、会社がうまくいった。


 その代わりに、会社が傾いて株主に迷惑をかけたときには、潔く牢屋に入る経営者がたくさんいた。大正、昭和の時代に牢屋に入った経営者のことは、日本経済史には出てこない。牢屋に入ったのだから、さぞや悪い人間だろうと思われてしまって、経済史を書く研究者たちから無視されている。

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