読みたいトコだけ買える本。
犬耳書店
初めての方へ 記事一覧 無料登録 ログイン

12/21に全サービスをRenta!に統合します

(2021/12/6 追記)

犬耳書店は2021年12月21日に、姉妹店「Renta!(レンタ)」へ、全サービスを統合いたします。
詳しくはこちらでご確認ください。

0
-2
kiji
0
0
1214242
0
ほんとうは教えたくない京都の路地裏
2
0
0
0
0
0
0
旅行
お気に入りとは?

お気に入りボタンを押すとお気に入りリストにこのページが追加されます。興味のあるページ・気になったページを後から確認するのに便利です。

お気に入り お気に入り
第二章 花街を歩く

『ほんとうは教えたくない京都の路地裏』
[著]辰巳琢郎 [発行]PHP研究所


読了目安時間:36分
この記事が役に立った
0
| |
文字サイズ


園南

(花見小路より東の通り) 



 園は京都最大の夜の町です。一口に園と言っても、四条通を境に、北と南とではガラッと様相を変えます。北はスナック、居酒屋などが入居するテナントビルが立ち並び、どこにでもある都会の繁華街と似た姿ですが、四条通以南は一変します。由緒あるお茶屋や料理屋、都をどりの舞台である(こう)()()()(れん)(じょう)などが密集し、着物姿の(まい)()(げい)()が行き交うなど、いかにも京都らしい情緒の町並みです。二〇〇一年には石畳が整備され、電線類も地中化されました。観光客にとっては魅力たっぷりのスポットで、休日には人、人、人でごった返しています。


 今回は、花見小路通の混雑を避け、四条通から二筋南、お茶屋「(いち)(りき)」を過ぎたもう一本先の道を東へ歩くことにしましょう。この道はそのまま東へ進むと、坂を上がって東大路通に出られる一方、その間に四筋ほどの中小の路地が南へ延び、園らしい家並みが並んでいます。


 もっとも、僕がこのあたりをうろうろするのはたいてい夜。昼間だと、行きつけの店がほとんど閉まっている時間帯で、「確か、このあたりに馴染みの店があるはず」と思っても、提灯に灯が(とも)っていないために位置関係がよくつかめません。まるで知らない街を歩く感覚だった半面、夜では気づかないことをいろいろと発見できる面白さがあります。


 その一つが、丸に「飛」の字の暖簾(のれん)がかかった、真新しい和風造りの建物。その前には、ひときわ鮮やかなブルーの箱型のリヤカーが置かれています。佐川急便の園の集配所です。開業して五カ月とのことで、店内を覗くと、荷物の集配だけでなく、手ぬぐいや扇子などのグッズも販売しています。そういえば、公式ファンブック『佐川男子』(飛鳥新社)が三年ほど前に発刊され、佐川のドライバーが一躍話題になったことがあります。佐川グッズもその延長でしょうか。


昼は眠ったように静かな路地



 佐川の一筋手前を右に曲がり、焼き鳥の「万輔」の前を通りこしていくと、左手にあるのが「()()()」という和風バー。おとうさんは芸達者で、三味線で弾き語る()()(いつ)などの替え歌は爆笑に次ぐ爆笑。歌舞伎俳優や芸能人のお客も多く、その芸は人間国宝にしていただきたいくらいです。

「波木井」の少し先が、何度かお邪魔したことのある料亭「園丸山」。値段は安くありませんが、料理もトップクラスです。建仁寺の裏の八坂通にも店があり、昼食には懐石を少し手軽な値段で楽しむことができます。この近辺では、「ぎをん 今」もお気に入り。ほかにも素晴らしいお店がひしめいています。


 夜も決して人通りの多い路地ではありませんが、昼間はさらに閑散としていました。お茶屋などの建物が眠ったようにひっそりとたたずむだけで、ここが昼ではなく、夜の街であることを教えてくれます。


 歌舞練場(園甲部歌舞練場)の裏通りへ出ました。ここの歌舞練場は一八七三(明治六)年に建仁寺の(たっ)(ちゅう)を改築したのが始まりで、現在地へ新築・移転したのは一九一三(大正二)年、小林(いち)(ぞう)氏が宝塚音楽学校の前身である宝塚唱歌隊を設立した年です。「歌舞練場」の名のとおり、舞妓・芸妓が京舞や三味線など技芸を磨くところであると同時に、春には都をどり、秋には温習会といった発表会が催されます。なかでも、「都をどりはよ~いやさー」の掛け声とともに始まる都をどりは、京都に春を告げる風物詩。僕も舞台人として何度か観にきたことがありますが、()(がい)を象徴するような芸・舞妓の華やかな舞は、しばし世俗を忘れさせてくれます。


『黄昏流星群』で知った縁切り石



 歌舞練場裏通りをさらに南へ歩くと、安井北門通の向こうに安井(こん)()()(ぐう)の鳥居が見えてきます。正面は東大路通に面したほうで、こちらは北門です。


 安井金比羅宮は、金比羅絵馬館があるほど絵馬の奉納で有名で、境内の絵馬台にはさまざまな願い事を記した絵馬が重なりあうようにぶらさげられていました。その絵馬以上に、最近とみに若い女性の人気を集めているのが、縁切り石です。社務所の斜め前に、人が通り抜けられるぐらいの五十センチほどの丸い穴の開いた石が境内にあり、表から抜けると悪縁を切り、裏から抜けると良縁を結ぶとされます。



 この縁切り石は、(ひろ)(かね)(けん)()さんの名作『黄昏(たそがれ)流星群』(小学館『ビッグコミックオリジナル』に連載中)で知りました。『黄昏流星群』は一話一話が文学的薫りの高い短編小説のような素晴らしいマンガです。その一話に、ある女性がつきあっていた男性ともう縁を切ろうと金比羅宮までやってくるシーンがあります。それを覚えていて、京都に住み、今もたびたび来ているのに、知らなかったとは……と、ちょっと恥ずかしい思いでやってきました。


 休日とあって、石の周りには若い女性が多く、とても、『黄昏流星群』の物語のようなしっとりとした大人の雰囲気ではありません。石の表面には、願文の札がベタベタと貼られており、雪をかぶったかのように真っ白です。世の中には縁を切りたいと願っている人がこれだけたくさんいるのか、と寂しく感じます。


 再び北門を出たところで、道端に赤紫色の花をつけた草が生えているのに気づきました。「何の花だろう?」。かつて園芸番組に出ていた僕としては気になり、スマートフォンですぐに調べたところ、「紫御殿」という美しい名前のようです。別名「パープルハート」。恋愛を連想させる花と、縁切り神社。できすぎですかね。


西花見小路できなこのアイスクリームにぞっこん



 園南の中でも、特に気に入っている道の一つが西花見小路です。低い軒下に、丹念に空拭きされた(べん)(がら)格子、二階にはよしずを垂らしたお茶屋の建物が連なり、昔ながらの花街の雰囲気を残していて、そぞろ歩くのに最高です。


 花見小路通からたった一筋西というだけなのに、観光客は西花見小路までやってきません。(いち)(げん)さんの入れる店が少ないからでしょうか。その中で一軒、行列のできる店がありました。「園きなな」というアイスクリームの店です。


 店の人の説明では、丹波産の黒大豆きなこなど天然素材をベースに、着色料、保存料をいっさい使わず、脂肪分も極力抑えて製造しているという話でした。

この記事は役に立ちましたか?

役に立った
0
残り:14956文字/本文:17608文字
この記事を買った人はこれも買っています
      この記事を収録している本
      この本で最も売れている記事
      レビューを書くレビューを書く

      レビューを書いてポイントゲット!【詳細はこちら】

      この本の目次