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やなせたかし 明日をひらく言葉
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生き方・教養
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まえがき

『やなせたかし 明日をひらく言葉』
[編]PHP研究所 [発行]PHP研究所


読了目安時間:3分
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やなせたかし 


「なんのために生まれて なにをして生きるのか」というのは、ぼくの作詞した「アンパンマンのマーチ」の一節だが、実はこの言葉は自分自身への問いかけであった。


 ぼくは五歳のときに父と死別した。生まれたときは未熟児であった。この未熟児コンプレックスは、ぼくの生涯にわたってつきまとうことになる。


 体力においても、才能についても、容姿についても劣等感があった。


 ぼくのまわりの人々はみんな温和で善良であったから、ぼくはなんとか逆風の中で生きのびることができた。


 それでも小学生のころに自殺したくなって、線路をさまよったこともある。原因は忘れてしまった。ちいさな蟻にとっては小石も越えがたい巨岩に見え、水たまりも大海のようで絶望してしまう。兵隊にとられて中国の山野で銃をかついでいたときは、もう二度と故国の土を踏むことはないとあきらめていた。


 焦土となった敗戦の祖国へ引きあげてきたときも、希望は何ひとつなかった。


 それでもシドロモドロにぼくは生きのびてきた。「今日いちにち生きられたから、明日もなんとか生きてみよう」と思った。


 漫画家としてやっとフリーになったが、まわりは天才、鬼才、異才がひしめいていて、とてもかなわない。


 おまけにぼくは多病で、病気ばかりしていたので前途は真っ暗。それでもあきらめはしなかった。今までもなんとかなったのだから、辛酸なめているうちになんとかなると信じていた。心の奥底の部分が妙に楽天的でノンキなのである。困ったものだが、なんとなくピンチを脱出して、なんとか生きのびることができた。


 売り出したい、流行児になりたい、異性にももてたいと思ったが、まるでダメだった。

「なんのために自分は生きているのか」と考えるのだが、よくわからない。C級の漫画家として、わけのわからない人生が終わるのだと思うと情けなかった。


 ところが、大変に遅まきながら六十歳を過ぎたあたりから、あまり欲がなくなった。「漫画は芸術である」なんてえらそうなことは言わなくなった。


 人生の最大のよろこびは何か?


 それはつまるところ、人をよろこばせることだと思った。「人生はよろこばせごっこ」だと気づいたとき、とても気が楽になった。


 ぼくの歌の中で代表作のように言われている「てのひらを太陽に」の一節は、「生きているからかなしいんだ」である。よく「なぜ悲しいんですか」と聞かれる。悲しみがなければよろこびはない。不幸にならなければ幸福はわからない。空腹のときに食べるラーメンがどんなにおいしくて、幸福なのかは実感できない。ぼくらはこのさびしげな人生の中で悲喜こもごもに生きるのだ。そして一番うれしいのはひとをよろこばせることだ。


 この本はPHPのスタッフが、ぼくの書いたものの中から編集して制作されている。


 思えばPHPとのえにしは深い。アンパンマンも、やさしいライオンも、その原型は雑誌『PHP』からはじまっている。


 この本もどこかで皆さんの心の琴線に触れることができれば、それがぼくのしあわせである。いつもよろこんでいただきたいと思って仕事をしているが、これがなかなかむつかしい。むつかしいから面白いともいえますが、さて、どうなんでしょうか。

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