読みたいトコだけ買える本。
犬耳書店
初めての方へ 記事一覧 無料登録 ログイン
0
-1
kiji
0
1
1215418
0
闇のファイル 戦火の陰に潜む人間像
2
0
0
0
0
0
0
歴史
お気に入りとは?

お気に入りボタンを押すとお気に入りリストにこのページが追加されます。興味のあるページ・気になったページを後から確認するのに便利です。

お気に入り お気に入り
はじめに

『闇のファイル 戦火の陰に潜む人間像』
[著]吉田一彦 [発行]PHP研究所


読了目安時間:6分
この記事が役に立った
0
| |
文字サイズ


 平和を願う気持ちは誰しも同じであろうが、ただ口で平和を叫んでも、それだけで目的が達成されるわけではない。歴史の教科書を(ひもと)けばわかることであるが、人類の歴史は戦争の歴史と言っても過言ではない。戦争が歴史を創り、科学技術がそれに伴って発展した例も決して少なくはない。ちなみにコンピュータもインターネットも戦争の産物である。


 古代ギリシャの哲学者であるトゥキディデスが著した『戦史』は今なお広く読まれているが、その中で彼は戦争の原因として「利益」「恐怖」「名誉」の三つを挙げている。いずれも人間の本性に根ざしたものだけに、戦争を根絶するのは至難の(わざ)となる。


 古代ローマには「平和を欲すれば戦争に備えよ」という(ことわざ)があったが、この矛盾とも思える忠告は人間の真実を鋭く突いていた。さらに言えば平和を保持するには戦争の研究が欠かせないということにもなってくる。ロンドン大学を構成するカレッジの一つにキングズカレッジがあり、そこには戦争研究学部(Department of War Studies)が存在する。


 つまり「平和」と「戦争」はパラレルの関係にあるのであって、それは「上」があれば「下」があり、「左」には「右」が付いてくるのと()(いつ)にする。したがって、「平和」だけが独立して、それだけで存在するというわけにはならないのである。言ってみれば戦争あっての平和ということである。


 先の大戦で悲惨な敗北を喫したこともあって、戦後のわが国では戦争に関連する事柄をなべて()()する傾向が強かった。一方では街に「平和」が(あふ)れることになった。「平和食堂」「平和通り」「平和市場」「パチンコパーラー平和」「平和憲法」等々である。平和を希求する気持ちはわからないでもないが、これだけで平和が舞い降りてくるものではない。

「敗戦は教訓の宝庫である」と言われるが、その点からすれば、わが国はこの宝庫を放置して粗略に扱っているのではないだろうか。第二次大戦の敗戦からは、今日のわが国に生かして活用できる教訓が決して少なくはないはずである。しかしわが国の大学に「戦争論」や「国際紛争論」などの講座が設けられたということは()(ぶん)にして知るところではない。実に(もっ)(たい)ない宝の持ち腐れである。負けるには負けるだけの理由があってのことであるから、それを知り改善すれば大いに国益に資するところとなるはずである。


 戦争では人間の多様な側面が()(てい)する。賞賛すべき人間性の(はつ)()もあれば、醜悪な(しょ)(ぎょう)が平然と横行することもある。


 前の大戦に日本が参戦して間もない一九四二年二月二十七日から三月一日にかけて、ジャワ島北方海域で日本艦隊と連合国艦隊の間でスラバヤ沖海戦が発生した。この戦いは日本側の圧勝に終わり、日本艦隊は、連合国艦隊一五隻の内一一隻を撃沈し、残余の四隻を(とん)(そう)させた。


 撃沈されたイギリス巡洋艦エクゼターと駆逐艦エンカウンターの乗組員は海上に投げ出され、生存の限界点が迫りつつあった。このとき、偶然にもこの海域を通りかかったのが日本駆逐艦「(いかづち)」で、同艦は(ただ)ちに「救助活動中」の国際信号旗を掲げて四二二人の漂流者全員を救助した。そして全員を丁重に遇したのである。


 戦闘行動中の軍艦が敵潜水艦の危険を(かえり)みず、自艦の乗組員に倍する敵軍将兵を救ったのである。艦長工藤俊作海軍中佐の人間味溢れる英断であった。詳しくは恵隆之介著『敵兵を救助せよ!』(草思社、二〇〇六年)をお薦めする。


 これと関連して想起されるのは、一九四三年三月に起きた「ダンピール海峡の悲劇」(アメリカ側の呼称はビスマルク海戦)である。この戦いは日本が苦戦のニューギニア戦線に増援部隊を送り込もうとして発生したもので、日本側は八一号作戦と称していた。


 陸軍七〇〇〇人に海軍四〇〇人が八隻の輸送船と八隻の駆逐艦に分乗してラバウルを出港したが、途中アメリカ軍機の攻撃を受けて船団のすべてが沈められるという悲運に遭遇した。そしてアメリカ軍の航空機と魚雷艇は、その後数日間洋上を捜索して、救命艇や(いかだ)で漂流している日本軍生存者を機関銃で掃射した。無抵抗の人間を標的代わりにしたのである。しかしこれが戦争の実態である。それを思うと工藤艦長の人間味溢れる行動は感動的である。


 なお、この「悲劇」の原因は日本軍司令部に日系二世のアメリカ側スパイがいたからである。彼の通報によってマッカーサーは、日本軍増援部隊の進発を事前に知って待ち構えていたのであった。


 第二次大戦に従軍した哲学者のJ・グレン・グレイには『戦士たち』(The Warriors, 1987)(邦訳は『戦場の哲学者』PHP研究所)という、戦争に関して深い洞察をしている著書がある。その中で彼はこの人間行動の両極端を的確に見極めているのである。すなわち、「戦場における悪名高い結びつきである。最も高貴な行動と最も卑しい行動、最も忌まわしい悪徳と至高の美徳、これらがリンクしているのである」。


 お断りしておくが、本書は月刊誌『歴史街道』に連載した記事に加筆したものが主体となっている。それに加えて新たに書き加えた項目もある。大戦の通史は他の研究に譲ることにして、意図として印象的な個々の事件に光を当てて詳しく取り上げることにしたのである。一冊の本に(まと)めるにあたって読み返してみると、戦場における人間に焦点を当てたものが多いことに気づかされた。取り扱った時代は第一次世界大戦から東西冷戦にまで及んでいるが、主たる戦場は第二次世界大戦である。


 半世紀以上の年月を経て「あの戦争」も忘れ去られつつある。日本を変えたあの戦争を、今、思い返してみるのも意味のないことではない。歴史は繰り返すのである。


 大久保龍也氏は著者を『歴史街道』に引き合わせ、本書を纏めるにあたっても大いに尽力された。適切な励ましの言葉に元気づけられること再三であった。『歴史街道』編集長の辰本清隆氏には、執筆に際して寛大な自由をいただいた。また毎号の初めに勘所を押さえた適切なリード(記事を要約する冒頭のパラグラフ)も頂戴した。とくに記してお二人に深甚の謝意を表したい。


 なお、原稿の編集には白石泰稔氏のご協力を得た。妻雅子は原稿を読んで文体の改良に努力した。謹んでお礼を申し上げる。


著者 

この記事は役に立ちましたか?

役に立った
0
残り:0文字/本文:2657文字
この記事を買った人はこれも買っています
      この記事を収録している本
      この本で最も売れている記事
      レビューを書くレビューを書く

      レビューを書いてポイントゲット!【詳細はこちら】

      この本の目次