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二十一世紀をいかに生き抜くか 近代国際政治の潮流と日本
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政治・社会
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第六章 ウィルソン主義

『二十一世紀をいかに生き抜くか 近代国際政治の潮流と日本』
[著]岡崎久彦 [発行]PHP研究所


読了目安時間:21分
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 ヨーロッパ伝統のレアルポリティークの世界に突如現れたウィルソン主義に、二十世紀の国際社会は幻惑させられ、困惑させられ、振り回された。そして、二十世紀前半のインテレクチュアルたちは、ウィルソン主義とはいったい何であるかを解明しようと努めた。


 ウィルソンは一九二四年に没する。その年はたまたまカントの生誕二百周年に当たった。神川彦松は、「国際平和思想より観たるカントとウィルソン」という論文を書いた(発表は一九二六年)。


 当時はまさに、ウィルソン主義花盛りのころであった。日本では一九二四年、護憲三派内閣が成立して、いよいよ大正デモクラシーの時代に入る。幣原喜重郎が外相となり、国際協調外交を打ち出し、()(がき)(かず)(しげ)が陸相となり四個師団削減の軍縮に踏み切る。


 ヨーロッパでは一九二五年には、ウィルソン主義の具現ともいうべきロカルノ条約が結ばれ、そして一九二八年には、現在の日本国憲法の原型といわれ、また満州事変、東京裁判でも、日本糾弾のため引用されるケロッグ・ブリアン不戦条約の締結に至る。


 神川によれば、カントは「個人間に於て法の確定に依つて個人格の自由と尊厳を保障し相侵さざらしむる如く、国際間に於てもまた法を確定して各国家の自由と権利を保障し人間の野蛮性を杜絶し道徳の権威を国内に於ける如く国際間に於ても発揮し、以て人類の平和を樹立せねばならぬのである」(『神川彦松全集 第七巻』四四五ページ)といっている。


 これは、前に紹介した「国家にとっても、個人にとっても、存在する倫理システムはただ一つである」というジェファーソンの思想と同じである。そして神川はウィルソンが第一次大戦中各所で行なった演説の原文を引用して、ウィルソンの思想がカントと同一であることを立証している。


 たとえば、「国際連盟の目的は世界に於ける道徳的な力となることである。そして世界に生じた悪に対して道徳的な反省を求めることである……」、「我々の目的は、国際問題に道徳的な解決をもたらすだけでなく、世界の道徳的な力を結集することにある……」(『神川彦松全集 第七巻』四四三─四五九ページ)等々である。


 たしかに、ウィルソン、ジェファーソンのいっていることを突き詰めれば、カントと同じである。いまではドイツ思想の影響力の凋落もあって、もうそういう分析をする人もいないが、神川の分析は(せい)(こく)を射ているといえる。


 ウィルソンが導入した新たな概念は、集団安全保障である。この言葉は第二次大戦後は同盟を弁護するために使われているが、当初は同盟を否定するために用いられた。この点は、現在日本の安全保障の最大の課題である集団的自衛権の問題と混同されないようお願いしたい。


 キッシンジャーによれば、集団安全保障の概念と同盟の概念は一八〇度反対のものである。


 伝統的な同盟は特定の脅威に対するものであり、集団安全保障は、脅威を特定せず、どの国も差別しない。同盟は潜在的敵国を仮定しているのに対して、集団安全保障は国際法を一般的に守るものである。開戦理由は、同盟においては同盟国の国益あるいは安全に対する攻撃であるが、集団安全保障においては、紛争の平和的解決の侵害である。


 これはただキッシンジャーの学問的な分析だけではない。その後米国において、真面目に適用された原則である。


 一九四九年、第二次大戦後ソ連がヨーロッパに()いた鉄のカーテンの脅威に対抗するためにアメリカはNATO同盟を結成し、アメリカ上院はこれを支持した。


 条約の対象がソ連であることは誰が見ても明らかであったが、キッシンジャーは上院におけるコナリー委員長とアチソン国務長官のウィルソニアンのやりとりを紹介している。

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