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二十一世紀をいかに生き抜くか 近代国際政治の潮流と日本
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政治・社会
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第八章 冷戦とは

『二十一世紀をいかに生き抜くか 近代国際政治の潮流と日本』
[著]岡崎久彦 [発行]PHP研究所


読了目安時間:22分
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 冷戦とは何であったか。これを総合的に把握するには、ジョージ・ケナンの「X論文」に(まさ)る文書はないとされている。


 冷戦終了直後に書かれたキッシンジャーの『外交』でも、冷戦のちょうど真ん中一九六九年に書かれたルイス・ハレーの『歴史としての冷戦』でも、「X論文」は、冷戦のアメリカにおけるバイブル的存在として扱われている。



 他方、ケナンは、アメリカでその世代の稀なロシア専門家としても尊敬されている。


 一九二〇年代末期、米国務省は若い外交官にロシア語を研修させる計画を実施した。しかしその計画は、予算の都合上四年間しか続かなかったので、ケナンはその間に研修を受けた数少ない米国外交官の一人である。(なお、日本外務省では戦後、一貫してロシア語など特殊語学については二、三年の研修期間を与えつづけ、その結果多くの専門家を輩出させている。最近論壇で名を馳せている佐藤優氏などもその一人である)


 米国では、冷戦でロシアと対決するようになるまでは、ロシア研究者などは(りよう)(りよう)たるものであった。ハーバードでロシア関係の教授といえばただ一人、ドストエフスキーの専門家だけだったという話を聞いたことがある。冷戦時代半世紀のあいだ、政治、安全保障、経済の俊秀たちが、ハーバードでロシア研究を競った時代とは隔世の感がある。



 ちなみに、最近米国における日本研究が衰退していることを(なげ)く声が聞こえるが、それは歴史の必然なのであろう。日本と戦い、そして占領する必要があった時期に、日本研究は栄えた。ライシャワーたちの時代である。また、冷戦が終わるころ、経済面で日本の脅威が大いに論じられた時期があった。エズラ・ヴォーゲルの『ジャパン・アズ・ナンバーワン』が人口に膾炙した時期である。


 しかし、それが過ぎて見ると、米国で日本語を学ぶモチベーションは少なくなって当然である。いまや二十一世紀の米国の宿命のライバルである中国研究のほうが盛んになっているのは何の不思議もないことである。



 ケナンの「X論文」の偉大なところは、まず最高の地域専門家としてソ連の分析において明晰であり、冷戦の初期にあたってのその対策提言が実際的であり、冷戦のあいだの米国の政策を主導したところにある。


 ケナンの論文が発表されたころは、アメリカは第二次大戦の戦後処理の過程で、ソ連がどうしてこう(かたくな)なのか分からなくて困っていた。ポーランドでは民主政権の成立を妨げるし、東ドイツでは分割占領線を勝手に解釈して、ドイツ住民を追い出す。アメリカが期待していた善意や妥協などまったく通じない。


 キッシンジャーによれば、ケナンの貢献はそれに対して、民主主義国に対するソ連の敵意は、ロシアの歴史的背景、共産主義思想、そしてソ連の国内的構造から発するものであり、構造的に西側の宥和的な政策を受けつけないことを解明したことにある。


 それならば、それに対してどう対抗するかの米国の戦術は、コンテインメント・ポリシー、すなわち封じ込め政策であった。


 それは、一言でいえば、ソ連というのは世界革命の理想をけっして捨てず、力関係が不利なときは時節を待って一時引っ込むことはあるが、その根本政策ではけっして妥協することはなく、スキがあればどこでもつけ込んで出てくる。したがって、自由陣営側として話し合いによる解決や妥協が達成されたというような幻想をもたず、四六時中おさおさ怠りなく見張って、ソ連が出てくればそれをたたくという、封じ込め作戦しかない、ということである。


 すなわちケナンは、「米国の対ソ政策は、ソ連の拡張傾向に対する長期的な、忍耐強い、確固として一刻の油断もない封じ込め政策」がその中心でなければならないと論じているのである。


 そして、この戦術は時のトルーマン大統領によって採択され、その後冷戦時代ほとんど半世紀を通じて西側陣営に対して一貫した政策をもたせることに成功した。

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