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船場育ち
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ルポ・エッセイ
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大阪辯

『船場育ち』
[著]楠本憲吉 [発行]PHP研究所


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大阪弁の味・船場言葉の味




 お出ですに御免やすは家が建つ」とは、船場の商家の銘である。金持になりたければ客が「御免やす」(御免下さい)を云わないうちに「お出です」(いらっしゃいませ)といえというわけ。このことは、外客への応対のいんぎんさをよく示している。


 船場の古い商家の人々は上品で鄭重で、格式と気品を備えていた。一般に「あんた」というところを「あんさん」という。あるいは「あんたはん」である。目下を呼ぶのも「おまえ」ではなく「おまはん」という。丁稚小僧も憲吉どんまたは憲吉とんであり、女中もお竹どんである。夕方が「ゆうけい」、夜のことは「やぜん」「よさり」日暮を「ひなくれ」とゆかしくいう。東京弁の「ざあます」に当ることばが「ござります」。ミソは「おむし」でウナギが「うし」スッポンが「まる」。気楽・のんき・磊落なことを「きさんじ」という。地味が「こうと」野暮が「もっさり」半可通のことを「じゅんさい」、財産が「しんしょ」、(りん)(しよく)が「せちべん」、財産家が「えーし」、いたずらが「てんご」、ひたいが「でぼちん」、そば、近所のことを「ねき」。来る、行くの敬語が「おいなはる」、感心せぬが「どっとせん」、気取るが「よーすする」、苦しいが「ずつない」、差支えないが「だんない」、大層が「とーない」、まずいが「もむない」、時々が「あいさに」、うまく、工合よくが「あんじょー」「あんばい」、沢山が「ぎょうさん」、久保田万太郎に「ぎょうさんに猫いやはるわ春灯し」の句がある。ちっとも、まるでが「ねっから」、物を考える時に発する話が「こーつと」。祝儀が「ポチ」、滑稽、道化が「ちゃり」。


 こうした船場ことばは次第に影をひそめつつあるが、とぼけた味、ねばっこい太々しさ、ずばり切りこむ快味、相手の勘に訴える表現は、いまも大阪弁のエスプリとして広く使われているのである。


 こいさん、頼むわー」


 こんな書き出しで始まるのが谷崎潤一郎氏の『細雪』。お嬢さんがイトサン・イトハン・トーサン。小さいイトハンでコイトハン、コイトハンがコイサン。


 オヤダンサン、オエハン(御家様)、ボンボン、ボンチが成人するとダンサン、ワカダンナ。その嫁がゴリョンサン(御寮人様)。


 息子は上がアニボンサン、中がナカボン、末をコボンちゃん。御後室様がオコヒッサンである。


 大阪弁は商人言葉、東京は職人言葉、京都は堂上言菜といわれている。大阪弁は商人主義であるため、婉曲表現を好む。だから返事にもボカシが入る。


 よう考えときます」「この次には」


 などといい、東京弁のようにストレートにはいかない。どっちともとれる表現として、判断を相手にあずけてしまうのが上方の表現である。


 どちらでもよろしおま」


 とは言っているが、チャンと腹の底では自己の態度を決めている。


 さよか」


 という表現も肯定か否定か分からない。曖昧な受け答えである。あいまいにいうのは、どちらに転んでもまちがいのないための用心である。


 大阪では「いってらっしゃい」の代りに、「お早ようお帰り」という。無事に仕事を終えて帰ってきて下さいという温かい思いのこもった言葉である。


 大阪の料理屋や客商売の家では、お客の帰り際に、


 どうぞ、お近いうちに」


 という。これも心に残ることばである。


 大阪でも船場のことばは京都の貴族階級から受継がれたといわれている。古い船場言葉で


 いてさんじます」(いきます)、「ごわへん」(ありません)などと極めて上品な言葉を使う。主人が外出するのは「おでまし」であり、足のことを「おみや」、頭は「おつも」である。


 大阪弁は実に語彙が豊富で、それをしかも複雑に使いわける。


 じゅんさいな」「気さんじな」「けなるい」「ざんない」「おちょくる」「ほたえる」「いちびる」など、ほかの言葉に翻訳出来ぬ大阪弁独自のものといえよう。


 江戸の「夜鷹そば」は大阪では「夜啼きうどん」。大阪ではきつねうどんを「しのだ」といい、うどんの上にカマボコ・玉子の厚焼・しんじょうなどを並べたのを「しっぽく」、茶碗むしのグのかわりにうどんを入れたものを「おだまき」、大阪の西成郡難波村はネギの名所で、ネギのことを大阪では「ナンバ」といい、ここから「鴨ナンバ」という名が出た。


 大阪ではうどんやでは「ウーいっちえん」という。うどん一ぜんの意味である。香の物をコオコ(香々)、オコオコといった。


大阪の笑いとなにわ万才事始




 古来、「おかし」と「あわれ」は同じ語意から出たもので、「おかし」は、興趣がある、思わずおおと声が出るの意、「あわれ」はしみじみする、あゝはれの略転。「おかし」の文学が西鶴で、「あわれ」の文学が近松。ともに関西出身の作家である。

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