読みたいトコだけ買える本。
犬耳書店
初めての方へ 記事一覧 無料登録 ログイン

犬耳書店はRenta!へ統合いたします

(2021/9/29 UP)

犬耳書店は、姉妹店のRenta!(レンタ)へ統合いたします。
詳しくはこちらでご確認いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

0
-1
kiji
0
1
1218497
0
弟子・藤井聡太の学び方
2
0
0
0
0
0
0
教育
お気に入りとは?

お気に入りボタンを押すとお気に入りリストにこのページが追加されます。興味のあるページ・気になったページを後から確認するのに便利です。

お気に入り お気に入り
はじめに

『弟子・藤井聡太の学び方』
[著]杉本昌隆 [発行]PHP研究所


読了目安時間:5分
この記事が役に立った
0
| |
文字サイズ


 私が藤井聡太に初めて会ったのは、二〇〇九年三月、彼が小学一年から二年に上がる直前でした。場所は名古屋市の繁華街・栄にあるビルの三階、「東海研修会」の会場です。そこは私の師匠である故・板谷進九段の足跡と記録を残した「板谷将棋記念室」でもあります。


 研修会は日本将棋連盟の管轄で、将棋を本格的に指したい子どもが集まる場です。


 私は東海研修会が立ち上がった一九九九年から、幹事として月二回ほどの研修会に顔を出していました。


 今も鮮明にその光景を覚えています。ふすまを開けたら、対局者のほとんどを小学校高学年から中高生が占めている中で、ひときわ小さく、かわいらしい男の子が将棋盤を前に対局後の感想戦(対局後に互いの指し手を振り返って感想を述べ合うこと)をしていました。


 何気なく眺めていると、ある局面について、その子が対戦相手の中学生に話していました。

「この局面では、ここに歩を打たないと、こちらに勝ちがないから」

「勝ちがないから」という表現は、いかにもプロが使いそうな、信念に基づいた言葉です。それを小さな子が自然に口にしている。ちょっとませた言葉遣いです。それが幼き藤井聡太でした。


 局面を見ると、藤井から見て相手の歩が自陣に攻め入ろうとしている。地味ですが、守りが大事な場面です。普通は穏やかに一マス空けて歩で受ける。ただ、それでは一時しのぎ。数十手後に必ず負けてしまいます。彼はそれを早々と察知して、相手の歩に歩をぶつけて勝負しなければと主張していたのです。


 先を見通す目と自信。この子はセンスがあるな。それが第一印象でした。


 はじめのうちは研修会でチラチラと藤井の対局を見ていましたが、彼が小学三年生のとき、中学生との対局後の感想戦で腹案として示していた読み筋を見て、私は身震いしました。


 相手にこちらの飛車と金の両取りを狙う角を打たせ、その数手先に派手な切り返しの手を仕込んでいる。まさに肉を切らせて骨を砕く一手。それは選ばれた才能の持ち主にしか指せない一着でした。


 実際の対局では堅実な手を指して勝利する。対局後の感想戦では、その堅実な手の裏に隠しておいたアクロバティックな手順を披露する。


 一局の指し手の背後に、ゾクゾクするような深い読みが秘められていたのです。「この子の才能は恐ろしい」とはっきり感じました。


 このときから、私は藤井の将棋を欠かさず見るようになります。


 そして、藤井は小学四年生のとき、私のもとに弟子入りしてきました。私は将棋界にもたらされた類まれなる才能を、師としていかに開花させていくかを委ねられることになるのです。



 藤井聡太は二〇一六年十月、史上最年少の十四歳二カ月でプロ棋士となり、史上五人目の「中学生棋士」となりました。二〇一七年六月には将棋界の連勝記録を更新する二十九連勝を達成します。その間、列島を席巻する「藤井フィーバー」については、ご存じの通りです。


 本書は、師匠から見た弟子・藤井聡太の「学び方」をつづったものです。


 天才と呼ばれる藤井聡太はどんな学び方をして強くなったのか。そのために母親はどんなふうに見守り、師匠たる私はどのように学びの環境を整えたのか。さらに強くなるために、いかなる学びが必要なのか。


 このときの「学び方」とは、具体的な将棋の指し手や戦法を指しているのではありません。師匠や兄弟弟子との関係、対局への臨み方、詰将棋やインターネット将棋とのつき合い方……それら将棋にまつわることはもちろんですが、ここでは、もっと広い意味として捉えています。


 大好きなものや熱中できるものを見つける、思考力・集中力・忍耐力・想像力を養う、闘争心・冒険心・自立心・平常心を身につける、気持ちを切り替えたり発想を転換したりする──。


 将棋に強くなるために要するこれらはすべて、私たちが人生をより豊かに生きていくうえで必要な学びともいえるでしょう。それは、この時代を生きるための学び方であり、人材育成法といえるかもしれません。その意味で、私たちは藤井聡太から何をどう学ぶかという問いを立てることもできるでしょう。


 本書では、それらについて、藤井聡太という才能、私の弟子との交流を含む人生体験を通して考えていきたいと思います。また私と藤井との師弟関係の源流ともいえる、私と師匠・板谷進との師弟関係にも紙幅を費やしました。


 肩書、呼称についてひと言、記しておきます。本書には師匠や諸先輩をはじめ、私が本来ならば「先生」と呼ぶべき棋士の方々が数多く登場します。本書では場合に応じて、段位や将棋のタイトル名(二〇一八年一月現在)などを使わせていただきました。


 また、藤井を含めて私の弟子、元弟子については、親愛の情も込めて、あえて敬称を付けずに記しました。どうかご了承いただければと思います。


 私たちの人生は一生勉強だともいえます。いかに自らの才能を生かして人生を切り拓いていくか。あるいは身近な才能をいかに育て開花させるか。本書が、そうした問いについて考える手がかりとなれば幸いです。そして、将棋という世界が持つ豊かさ、深さが少しでも伝われば、これほどうれしいことはありません。



 二〇一八年一月

杉本 昌隆 

この記事は役に立ちましたか?

役に立った
0
残り:0文字/本文:2122文字
この記事を買った人はこれも買っています
      この記事を収録している本
      この本で最も売れている記事
      レビューを書くレビューを書く

      レビューを書いてポイントゲット!【詳細はこちら】

      この本の目次