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弟子・藤井聡太の学び方
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教育
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第二章 自分で考え抜いてこそ、強くなれる

『弟子・藤井聡太の学び方』
[著]杉本昌隆 [発行]PHP研究所


読了目安時間:36分
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詰将棋という基礎トレーニング



 藤井の将棋に対するアプローチの中でも、詰将棋は現在に至るまで重要な位置を占めています。幼いころから日々熱中していました。詰将棋はまさに彼の学び方の核心でした。


 藤井がまず頭角を現したのは、詰将棋の世界でした。多くのプロ棋士や奨励会員たちが難問に挑む「詰将棋解答選手権」のチャンピオン戦に八歳で初参加し、二〇一五年には史上初の小学生による優勝を達成して以後、三連覇という偉業を成し遂げています。


 藤井はまだ字が書けなかったころから「詰将棋ノート」をつくっていました。母親に書いてもらっていたようです。私が最初に会った小学二年の初めには、彼自身が詰将棋をノートに書いている姿を見かけています。自作の詰将棋を研修会の先輩たちに見せてもいました。


 弟子入りしてからは、研究会が始まる少し前に、藤井が詰将棋雑誌を片手に現れ、詰将棋を解き出すのです。きっと電車の中で解いていた続きです。


 彼の影響でしょう、次に来た子も一緒に解き出して一心不乱に考えます。三十手を軽く超えるような難問もあります。四人くらいが将棋盤を丸く取り囲んで、「この問題は難しいね」と懸命に考え込んでいます。


 誰かが解けていないと、その解くのを待たなければなりません。みんなが解き終わると、「この手筋が気がつきにくいよね」という会話をとても楽しそうにしていました。


 長い詰将棋はプロでも気軽に解けるものではありません。「さあ、今から解くぞ」と気合いを入れる必要があります。電車の中で、パッと解けるものではないのです。


 将棋の世界で詰将棋を解くことは基礎鍛錬に当たり、スポーツにたとえれば、ウエイトトレーニングのようなものです。間違いなく役に立つのですが、効果が目に見えて現れることはなかなかなく、持続させるには大変な意志の力を要します。つらく苦しい地味な学び方です。


 詰将棋を学んだからといって、いつも勝てない相手に勝てるわけではありません。それならば、戦術書で覚えた新しい戦法を試したほうが、よほど有効です。それは今日覚えれば、明日にも使える勉強法です。


 ところが、藤井は詰将棋を解くことで無意識に学んでいました。好きだから毎日、時間の許すかぎり続けていたい。熱中の度合い、情熱の度合いがケタ違いでした。結果的に、将棋における基礎トレーニングをものすごい集中度で、しかも毎日欠かさず続けていたことになります。


 とはいえ、詰将棋はすべての人に向いている学び方ではありません。それは対局の勝負とは異なる性質があるからです。詰将棋は、目の前にはっきり答えがあるパズルを自分一人で解いていく行為、すなわち他者とかかわらなくてもできる勉強法です。なので、これだけをいくらやっても実戦で必要な「相手との駆け引き」は身につきません。


 藤井は詰将棋で培った能力が強さに直結している、棋士でも珍しいタイプです。


 詰将棋は最後に桂馬で詰ますなど、実際の将棋とは違う特殊な終わり方をすることが少なくありません。それがおそらく藤井の「読みの原動力」になっています。


 頭のどこかを刺激すると自分の将棋脳が開花する可能性はあります。藤井の影響で詰将棋を試みる人が増えるかもしれません。


詰将棋づくりをなぜ封印しなければならないのか



 藤井は詰将棋をつくるのも得意です。小学二年から創作を始め、『将棋世界』に投稿した作品が、谷川九段から高く評価され、「谷川賞」を受賞しています。


 五十五手詰めの作品を見せられたこともあります。難しくて、なかなか解けません。よくこんな問題をつくれるな、と感心していました。


 詰将棋づくりは、音楽を作曲したり絵を描いたりするようなもので、指し将棋とは別の才能を要します。だから詰将棋作者はかぎられます。


 詰将棋作家によると、藤井には類まれな才能があり、「指し将棋はほどほどにして、詰将棋に専念すれば、後世に残るすばらしい作品をつくるだろう」と言われています。


 しかし、詰将棋をつくれる才能=指し将棋の才能、とはなりません。とくに詰将棋づくりにのめり込むと、対局中にも「ここにある駒がこっちにあったら、いい詰将棋ができるのにな」などと、つい構想をめぐらせてしまう。多少大げさかもしれませんが、詰将棋作家でもある浦野真彦八段から、そんなふうに聞かされたことがあります。


 確かに詰将棋作家は私の知るかぎり、そうしたいわば芸術性と独特のこだわりを持っているように思えます。


 だから詰将棋の創作は勝負に直結しない部分があり、むしろその点においては悪影響さえ及ぼしかねません。


 藤井は詰将棋づくりをやりすぎているのではないか、と心配になって、プロの詰将棋作家たちに尋ねると、「あまりやり過ぎないほうがいい」という点では一致していました。自身も詰将棋をつくられる谷川九段にご相談すると、

「詰将棋づくりは楽しすぎて、面白そうな構想を見つけてしまうと、それを完成させるために、半日、一日がすぐに経ってしまいます。解くのはいいけれど、つくるほうは奨励会の修業時代はほどほどにしたほうがいいと思います」


 というアドバイスを頂きました。


 藤井が二十九連勝を達成した後、伊藤(はたす)八段は「タイトルを取るまでは絶対に詰将棋創作を再開してはいけない。苦しいときに詰将棋に逃げてしまうから」と私に話されていました。


 私も同じ意見だったので、先輩方の声を伝え、創作のほうは自制するように言っています。


 藤井が本格的に詰将棋創作を再開するのは、タイトルを取った後でしょうか。それともこのまま封印するのでしょうか。


研究者と勝負師と芸術家



 詰将棋における研鑽は、プロ以前の「藤井将棋」の特徴である圧倒的な終盤力の強さに表れていました。序盤と中盤は攻守のバランスを取って、相手の攻めを抑え込む。終盤は隙を逃さず、鋭い攻めで一手勝ちを読みきるスタイルです。終盤で発揮する藤井の強さは、谷川九段の「光速の寄せ」を(ほう)彿(ふつ)とさせます。


 野球にたとえれば、七回でリードしていたら、そのまま危なげなく押し切るスタイルです。七、八、九回のリリーフが完璧なうえに打線も強いので、追加点を奪って結果的に大差勝ちも多い。


 その代わり一、二、三回に当たる序盤は、オーソドックスでこだわりがありません。経験が浅いゆえのことなのですが、終盤に重きを置いて序盤は流れに任せるイメージです。一回から積極的に送りバントで点を取りにいくという攻め方ではありません。


 初心者は駒をどんどん前に進める非常にまっすぐな将棋を指します。しかし、強い相手にかかると、それでは通用しません。

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