私の大好きな話がここにある。二人の大工が丸太を切る競争をするために同じのこぎりが与えられた。制限時間は1時間。もちろん二人の大工の丸太を切る現在の力量はまったく同等である。
まず大工Aである。彼は「スタート!」と同時に丸太を切り始めた。そして1時間かけて4本の丸太を切ることができた。一方、大工Bは最初の20分間丸太を切る作業ではなく別の作業を行なった。そして20分後、おもむろに丸太を切り始め、残り40分で8本の丸太を切ることができたのである。
それでは大工Bは、最初の20分間何をしていたのだろう? 彼はのこぎりの歯を研いでいたのである。
この話は私たちに、「目の前の仕事を漫然とするのではなく、自分の技に磨きをかけることにたっぷり時間をかけることの大切さ」をわかりやすく教えてくれる。
2014年のシーズンを締めくくるATP(男子プロテニス協会)ワールドツアー・ファイナルズから帰国した後、あるインタビューで「1年を漢字一文字で表わすなら?」という質問に、錦織は、「変化の『変』。変わることを目標にやっていたので」と答えた。
2014年の錦織の大躍進の技術面での大きな要因は、相手の打った甘いボールを見逃すことなく、積極的にウィナーにしていく積極性であると私は考える。今までただ返球していただけの甘いボールを見逃さないスキルが身についたから、トップ10と互角以上の戦いができるようになったのである。
もちろん、その変化はマイケル・チャンコーチの指摘があったことも無視できない。チャンコーチはことあるごとに錦織に、「トップ選手は、なかなか浅いボールを打ってくれない。その数少ない浅いボールをしっかり打ち込んでいけないとダメだ」(雑誌『Number』2015年1月22日号より)と語りかけたという。
このことにより、少なくともラリー戦になれば、長期間プロテニス界をリードしてきたジョコビッチ、フェデラーなどのトッププレーヤーにもまったくひけをとらない。
「自分の武器はこれしかない!」とこだわり続けて猛練習を積み重ねたから、錦織の才能の花が開いたのだ。自分の最大の武器を徹底して磨き続けよう。それこそ一流への近道である。
本田や錦織は、キャリアを通してただ漫然とプレーするのでなく、他のプレーヤーよりも自分の技を磨くことに頭と身体を目一杯使って格闘し続けたから、一流人に登り詰めたのである。
目の前に仕事があることに感謝して、自分の最大の得意技を磨き上げる。あなたはこのことを片時も忘れてはならない。
このことに関して、アメリカを代表する能力開発のエキスパートであるジョフ・コルヴァンはこう語っている。
「究極の鍛錬は苦しくつらい。しかし効果がある。究極の鍛錬を積めば、パフォーマンスが高まり、死ぬほど繰り返せば偉業につながる」
本田のゴールキックのスキルに相当するあなたの技は何だろう? あるいは、錦織の「エアーケイ(ジャンプしてヒットするフォアハンドストローク)」のスキルをあなたの仕事にあてはめたら何になるだろう?
こんなことを考えながら、ただひたすら仕事上の技を磨き上げよう。それがあなたを間違いなく一流人の仲間入りをさせてくれる。