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新炭素革命 地球を救うウルトラ“C”
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雑学
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第四章 想定外の罠

『新炭素革命 地球を救うウルトラ“C”』
[著]竹村真一 [発行]PHP研究所


読了目安時間:36分
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対話 その1 化学物質の落とし穴


こうして人類は、石炭や石油といった高濃縮の炭素資源を使い始めたことで、馬でいえば何百頭分ものパワーを一人一人の個人にもたらした。また人類が解明した「炭素の魔法」=化学技術を通じて、安価で万能な人工素材を必要に応じていくらでも、天然素材の制約に縛られずに作り出すことを可能にした。
化石燃料やプラスチック、化学肥料などはいまでこそ若干ネガティブなイメージもあるが、百年前の状況を考えれば、これは本当に人類的な価値創造の営みだった。

まさに、この星の風景を一変させる「エネルギー革命」であり、「物質革命」だったわけだね。

さらにそれは、自然の猛威や不確定性から逃れ、いつでもどこでも快適で安全な人工環境を用意できるという「環境革命」でもあった。冷暖房が完備した快適な都市生活は、現代の日本ではもはや常識だけど、こんな環境に人類が暮らすようになったのはごく最近のことだ。

自然の環境条件という制約からの自由も、もたらしたわけだ。

だが、人類に大きな飛躍をもたらした近代の「炭素の魔法」には、意外な落とし穴もあった。人類を救うはずの夢の技術が、かえっていま人類に新たなリスクと制約をもたらしつつある。

大気汚染やゴミ問題、地球温暖化などの課題だね。また、増えすぎた自動車や冷暖房からの熱がヒートアイランド現象をもたらし、都市はますます快適とはほど遠い環境になりつつある。自然の猛威や環境制約から自由になったはずの人類は、いまかえって大きな環境危機に直面するようになった…。

地球温暖化は20世紀末から顕在化してきた新しい環境問題であり、次の項であらためて取り上げたい。しかし、その前に人類が20世紀後半に、どんな「想定外の罠」に陥ったか? これは人類の「炭素の魔法」が次のステップに進むために、どうしても見過ごせない問題なんだ。
この本の冒頭でも紹介したある生命科学者の一文を、ここでもう一度紹介しておこう。
「炭素は生命界には欠くことのできない要素で、そのため炭素をもとに創られているものは“有機物”と呼ばれる。炭素はさまざまな形で互いに連結し、また他の元素ともつながる、ほとんど無限の力をもつ。この自由自在な炭素の働きがあればこそ、生物はバクテリアからシロナガスクジラまで、信じられないほど自由な形態の変化を見せている。脂肪、炭水化物、ビタミン、複雑なタンパク質まで、そのもとはすべて炭素である」

まさに「炭素の魔法」の賛美ともいえる文章…。

ところが実はこの文章は、いまから約半世紀前、1960年代初頭に殺虫剤の危険性に警鐘を鳴らし、20世紀後半のエコロジー・ブームに火をつけたレイチェル・カーソンの『沈黙の春』の一節なんだ。

意外だね。殺虫剤と炭素と、どう関係があるの?

殺虫剤として当時使われたDDTなどの人工化学物質は、炭素を骨格にして出来ていて、人類の炭素設計技術によって生み出されたものだ。とはいえ第一章で見たように、自然の植物の薬効成分や色素も、炭素を骨格にして出来ていたね。そもそも植物にとって薬効成分とは、虫や動物に食べられないために「毒」の成分をからだのなかに作り出したもの。いわば天然の“殺虫剤”だ。

だから、人間が作り出した殺虫剤がそれと似ていても不思議はない、と。

つまり彼女は単に農薬のリスクを告発し、近代文明を批判するだけでなく、「生命の基本となっている、同じ“炭素”を骨格に構成された人工化学物質が、なぜ生物や人間に死をもたらすのか?」という根源的な問いを、私たちに投げかけたんだ。
炭素の魔法は、使い方を誤れば、恩恵だけでなくリスクももたらしかねない“諸刃の剣”だということだ。

とても難しい問題だね。ほかにも諸刃の剣のような例はあるの?

そうだね、たとえば冷蔵庫やクーラーの冷媒として使われていた「フロン」(“ハロカーボン”の名の通り、これも炭素骨格の化学物質)も、当初は人類に多大な恩恵をもたらす「夢の技術」だった。しかし、それが大気中に廃棄された後に、成層圏でオゾン層を破壊するという想定外の作用が判明した。30年ほど前に国際条約で使用が禁止され、南極のオゾンホールはようやく縮小傾向がみられるという報告もあるが、逆に北極圏上空のオゾンホールは拡大の兆しもあり、人口の多い北半球の生物や人類の生存にとって大きなリスクとなっている。

あと化石燃料文明の副産物として、大気汚染の問題。最近ではPM2.5(微小粒子状物質)の名でよく話題になるけど。

特に中国やインドなど経済成長著しい新興国で、ますます深刻な健康被害をもたらしている。また工場からの煙や自動車の排ガスに含まれる硫黄酸化物や窒素酸化物(PMの主成分でもある)は、大気中の水分と反応して「酸性雨」の原因ともなる。それは言うまでもなく森林生態系や水棲生物にとって大きな脅威だ。

水質汚染という意味では、昔から赤潮など「富栄養化」の問題もあるね。

それは前章でみた近代化学の最大の成果の1つである、化学肥料(“空気からパンを作る”窒素固定技術)がもたらした負の側面だ。土壌中の窒素を補う人工肥料の投入は、20世紀の食糧大増産と人口爆発を支えた夢の技術だった。しかし、投入された多量の窒素は田畑から河川を通じて湖沼や海に流れ込み、その過剰な栄養で水棲プランクトンが異常増殖。海や湖は酸欠状態に陥って、多くの魚が死滅した。人為的な窒素の過剰投入が、自然界の「窒素循環」を完全に撹乱してしまったんだ。

すべてはバランスの問題なんだね。植物に必要な窒素も、多くなりすぎて生態系が危機に陥っている。

それに過剰な窒素の投入は、イネ等の作物を病害虫に弱い体質にしてしまったとも言われる。窒素が過剰に環境に流出しないよう、少しずつ窒素分が土壌中に溶け出すように工夫された「カプセル肥料」などもすでに考案され、実用化されはじめているが、いずれにしても大きく撹乱された「窒素循環」の問題は、「炭素循環」(=地球温暖化をもたらす二酸化炭素の増大)と並んで、近代の化学技術が解決を迫られている大きな人類的課題なんだ。

解説 (1)「沈黙の春」


次の図をご覧ください。これは前述の『沈黙の春』で告発された有害な殺虫剤の代表であるDDTの分子構造です。

DDTとは“ジ(2)・クロロ=ジ(2)・フェニール=トリ(3)・クロロ=エタン”の略で、わかりやすく翻訳すれば、

2個の塩素(Cl クロロ)が、
2個のフェニール(炭素の亀の子)に付き、他方では、
3個の塩素(Cl クロロ)が置換した、

エタン(炭素2個が結合した炭化水素)を骨格とする人工有機物ということです(図をよく見ると、実際そうなっていますね)。
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