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世界のインテリジェンス 21世紀の情報戦争を読む
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政治・社会
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第1章 アメリカ インテリジェンス一流国への挑戦

『世界のインテリジェンス 21世紀の情報戦争を読む』
[編著]小谷賢 [発行]PHP研究所


読了目安時間:50分
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落合浩太郎(東京工科大学准教授) 


はじめに





 アメリカのインテリジェンス・コミュニティーは、国家情報長官の下に一六もの機関が存在し、総人員は一〇万人、予算は四四〇億ドルとされている。この人員数は(おおやけ)に発表されているものだが、退職者を中心に近年急増し、かなりの割合を占めて問題視される契約職員が含まれるかは不明である。




 各機関は予算も人員数(FBIを除く)も公表しない。氏名が公表されるのも長官と副長官のみが原則で、CIAに関しては副長官と四人の本部長級までである。


 予算は、総額も非公表である。先に述べた四四〇億ドルというのは、二〇〇五年に国家情報副長官が公開のセミナーで()らしてしまった数字である。ところが〇七年には、DIA(国防情報局)の職員の外注企業向けプレゼンテーション資料が流出し、六〇〇億ドルとの数字も飛び出している。


 各機関はホームページを持ち、イメージアップに努めている。しかし、情報公開はブッシュ政権で後退している。現在でも予算は国防予算内に組み込まれ、軍事・諜報委員会といった関係する議員だけしか知らされない(例外的に一九九六、九七年だけは訴訟の結果として公表された)。予算に関しては、9・11独立調査委員会をはじめ、公表すべきとの声が強いが、CIAなどのインテリジェンス機関は公開に反対している。


 一六の機関は三つに大別できる。第一に、国家情報長官に直属し、どの省庁にも属さない半独立機関のCIA(中央情報局)。第二に、国防総省傘下のNSA(国家安全保障局)、NRO(国家偵察局)、NGA(国家地球空間情報局)、DIA(国防情報局)、陸海空海兵隊のインテリジェンス部門。NSA、NRO、NGAは、タテマエは軍のものではないが、発足の経緯や人事を見ると、事実上は国防総省の傘下にある。第三に、その他の省庁傘下のFBI(連邦捜査局)、国土安全保障省、国務省、沿岸警備隊、財務省、エネルギー省、麻薬取締局のインテリジェンス部門である。


1|米国のインテリジェンス・コミュニティー


国家情報長官(DNI)



 国家情報長官のオフィスはワシントンに分散しているが、長官はポトマック川沿いのDIA(国防情報局)ビルにいる。現在の長官は二代目のマコネル中将、元NSA(国家安全保障局)長官である。この組織の根拠となっているのは、二〇〇四年(ちょう)(ほう)改革法である。


 一九四七年に成立した国家安全保障法の規定は全般的にあいまいであった。CIA長官が中央情報長官(Director of Central Intelligence)を兼務して、インテリジェンス・コミュニティーのまとめ役を務めていた。しかし中央情報長官は、CIA以外の情報機関への影響力はかなり限定的であった。それは、二〇〇〇年にテネットCIA長官(当時)が「アルカイダへの宣戦布告」をおこなった際に、NSA長官が「CIAの話であって我々には適用されないと思っていた」と述べた事実にも象徴されている。中央情報長官は有名無実であり、他の機関の人事権や予算権もなかった。


 二〇〇四年に諜報改革法が成立し、ここで「中央情報長官」に代わって、「国家情報長官」が新設される。国家情報長官はCIA長官を兼務せず、インテリジェンス・コミュニティーの運営に専念することとなった。CIA長官という激務との兼務は物理的に不可能だったことの反省だ。


 PDB(大統領日次報告、Presidential Daily Brief)も国家情報長官の任務となった。毎朝迎えの車中でPDBについての説明を受け、本部で再検討してからホワイトハウスに同行して正副大統領とともに再度説明を聞くのである。このように毎朝(月─土)大統領にアクセスすることで権威を持てるようになった(一方で、これによって午前中がつぶれるのは時間の無駄との意見も聞かれる)。


 しかし真の権力を持つかは未知数である。確かに国家情報長官は、中央情報長官にはなかったFBIのインテリジェンス部門の長を任命する権利を得、各機関に割り当てられた予算も五%(一五〇億円)以内ではあるが、他に振り替えることが認められた。人員も二年以内なら他の機関に異動できる。国家情報長官オフィスに属する監察官(Inspector General)も、コミュニティー全体の調査や監査の権限を持つ。


 だが、予算の決定に関しては依然としてあいまいな権限しか与えられていない。インテリジェンス・プログラムは「国家情報活動プログラム(National Intelligence Program)」と「軍事情報活動プログラム(Military Intelligence Program)」からなるのだが、CIAなどを対象とする前者については国家情報長官が大統領に予算案を提出できる。しかし、国防関連の後者については、国家情報長官と国防長官が協議して決まることになっているとはいえ、依然として事実上、後者が決めるだろうと見られている。結局は従来どおり、予算の八〇%を握る国防長官が障害となるとの見方が有力だ。


 人事についても、NSAやNROなどの国防総省傘下の機関の長官は国防長官が任命する。国家情報長官は拒否権を与えられたが、任命や罷免はできない。


 国家情報長官と(筆頭)副長官の分担は、前者がupward、outward、つまり、対外的な顔として大統領、閣僚、安全保障担当補佐官、議会への説明や折衝を担う。筆頭副長官は対内的な共同体のまとめ役である。四人の副長官はカスタマー・アウトカム(ユーザー対応)、分析、収集、マネジメントを担当する。


■国家情報会議(NIC)


 一九七九年に発足したNICは、インテリジェンス・コミュニティーのシンクタンクというべき存在である。ここでコミュニティーの意見が総合・調整されて総意が形成される。議長は分析担当の国家情報副長官で、副議長が二名、その一名は評価担当である。事務局長(ディレクター)二名がおり、戦略的計画と分析を担当する。


 中心スタッフ(NIO:National Intelligence Officer)は一二名で、地域と機能担当に分かれている。地域はアフリカ、ヨーロッパ、ロシア・ユーラシア、近東、東アジア、南アジア、西半球、機能は経済・グローバルな課題、超国家的脅威、大量破壊兵器拡散、軍事、警告である。CIA、国務省、軍の出身者が多い。


 NIE(「国家情報見通し」)の作成もNICの任務である。NIEは、政府の要請やNICの発意で作成されることが多い。作成はNIOが中心となって、インテリジェンス・コミュニティーだけでなく、民間人を含めて幅広い意見を集める。このように、民間の意見や分析を取り入れるのがNICの特徴でありセールス・ポイントである。


 NIEは後に公開される。最近ではユーゴスラビアに関する一九四八─九〇年のNIEやメモが公開された。近年最も注目されたのはイラクの大量破壊兵器に関するものである。これは開戦を認めるかを判断する材料として、議会の求めで二〇〇二年十月に数週間でつくられた。しかし、生物・化学兵器を保持し核も開発中、と大量破壊兵器の存在を肯定する分析をおこない、戦後に間違いが明らかになった。「移動式生物兵器製造施設を見た」という虚偽の亡命者の証言しか根拠がないのに、情報源を隠したり複数に見せかけたりしていたのである。


 NICの分析でよく知られるのが、世界に関する長期予測である。最近発表されたものは二〇〇〇年の「グローバル・トレンド二〇一五」、二〇〇四年の「二〇二〇年の世界(Mapping the Global Future)」がある。この種の長期予測の必要性には論議がある。「アメリカには優れたシンクタンクがあるので、外注で足りる」「NICをはじめインテリジェンス機関は機密情報だけの分析に専念すべきだ」というのである。


 しかし、長期予想は分析官のトレーニングとしての意義がある。近年の分析官は、いわゆる「子供のサッカー」と呼ばれる、ボールに全員が集まるように、日々の業務に(ぼう)(さつ)され、長期・戦略的視点を欠いている。また、分析のスペシャリストの昇進には限度があるため、出世のために管理職ポストに動く者が多く、熟練分析官が育たない。さらにレビューが多すぎて、分析に時間がかかり、結果が政策担当者に届いたときには役に立たない場合もある。


 今後は分析官の資質の向上に向けて、日常業務から解放して長期・戦略的視点を持たせ、海外経験を積ませ、民間との交流を増やす方向である。分析官としての昇進の可能性を増やし、レビューを減らすことも検討されている。


■国家対テロセンター(NCTC)


 二〇〇四年八月に「行政命令13354」によって発足し、同年の諜報改革法によってTTIC(Terrorist Threat Integration Center)から格上げされた。本部はバージニア州マクリーンで職員数は三〇〇人。自慢は二十四時間体制で動くオペレーション・センターで、一〇人以上の警戒チームが常駐する。一日三回の会議で、各機関からの分析官が情報を交換する。

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