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世界のインテリジェンス 21世紀の情報戦争を読む
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政治・社会
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第6章 ロシア 国家統治機構としてのインテリジェンス

『世界のインテリジェンス 21世紀の情報戦争を読む』
[編著]小谷賢 [発行]PHP研究所


読了目安時間:53分
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山添博史(京都大学大学院) 


はじめに





 近年の大国間政治における、ロシアの存在感の回復はめざましい。社会的安定と経済力を回復してきたプーチン政権は、資源輸出力を主な手段として、西側的な「民主路線」から離れ、旧ソ連圏への介入や西側との対峙姿勢を強めている。とはいえ、以前のソ連ほどの軍事力や世界的プレゼンスはなく、西側との依存関係も進んでおり、国家戦略は反テロ闘争や身近な治安維持に傾いている。


 このなかで、ロシアのインテリジェンス諸機関は、ロシア帝国、ソ連と継承してきた機構や役割を担いつつ、新しい課題に向かっている。特にプーチン政権のあり方、チェチェン作戦などを理解する際には、ロシアのインテリジェンスは欠かせない要素といえる。




 現代ロシアのインテリジェンス機関は、ソ連国家保安委員会(KGB)、および軍参謀本部情報総局(GRU)の組織や機能を継承している。特にソ連KGBは、国の内外を問わずボリシェヴィキ政権の敵を探知し取り締まるという政治警察であり、純粋な国家戦略のためのインテリジェンス機関とはいいがたい性質を持っていた。ただし、半世紀以上前の残虐な大規模弾圧機関とは、すでに一線を画しており、安定した行政組織としての経験も確立している。


 ロシアについて考える際には、英米的な「インテリジェンス」の概念とは異なることを踏まえ、本章ではKGBなどの機関を「保安機関」(security services)と呼び、場合に応じて対外情報部門などに「インテリジェンス」の用語を使用する。また、西側諸国での治安維持は、政府転覆勢力の暴力から国家を守ることを目的とするのに対し、ロシアでは多くの場合、野党などを含め反対政治勢力から現政権勢力を守ることが重視される。このため、「治安維持」や「反政府」よりも「政権維持」や「反政権」などの語を多く用いることとなる。


1|ロシア連邦のインテリジェンス・コミュニティー





 ソ連時代にはKGB(国家保安委員会)として巨大な保安機関が存在しており、このなかには機能別に総局、局などの大きな傘下組織があった。対外インテリジェンスを扱う第一総局、国内保安・防諜を担当する第二総局、政府要人の警備をおこなう第九局などである。これらは、一九九一年のKGB解体の際に、別々の組織として独立させられた。


 このうち第二総局などの内務中核を引き継ぎ、国内保安機関として大きな役割を担うようになったのが連邦保安庁(FSB)で、ほかのいくつかの別組織も傘下に加えた。第一総局を引き継いだ対外諜報庁(SVR)は独立したままである。軍情報部のGRU(参謀本部情報総局)は、ソ連の頃のままの名称で残っている。


 ロシア連邦には安全保障会議があり、大統領を議長とし、安全保障会議書記、首相、第一副首相、国防相、外相、内相らとともに、FSB長官とSVR長官も常任委員である。国家戦略に関わる主要省庁の長が集まるため、ソ連共産党政治局(ポリトビューロー)にも比せられる。また、二〇〇六年に国家対テロ委員会が設置され、ここではFSB長官を議長とし、大統領府副長官やSVR長官らが参加して、各機関のテロ対策を調整する。


 なお、ロシアの治安機構の特徴の一つとして、多様な軍隊、部隊とその人的資源がある。『ミリタリー・バランス二〇〇七』によると、正規軍が約一〇〇万人(陸海空の三軍種と、戦略ロケット軍、宇宙軍、空挺軍の三独立兵科)に加え、準軍隊が約四〇万人おり、これらは内務省国内軍、国境警備軍、連邦警護庁、FSB部隊などである。軍全体の人員は大幅に削減されたが、地上軍兵力はソ連のときと異なり、内務、特にチェチェンに投入されることになり、最近は若干増加している。


連邦保安庁(FSB)



 連邦保安庁(Federal'naya Sluzhba Bezopasnosti)は、連邦国内の治安を主に担当する保安機関、および情報機関である。「近い外国」であるCIS(独立国家共同体)諸国の情報収集もFSBが担当し、また各国情報機関と協力している。


 現在のFSB長官はパトルシェフ(Nikolai Platonovich Patrushev)で、一九九九年八月にヴラジーミル・プーチンから引き継いだ。KGB出身で、プーチン側近の「シロヴィキ」(「力」省庁出身者)の有力者の一人である。ほかの閣僚が交代するなか、エリツィン政権末期からプーチン政権二期目の最終年になっても継続しているパトルシェフへの信任は、注目に値する。


 FSB本部はモスクワ中心部(クレムリンの北)のルビャンカであり、ルビャンカはKGBやFSBの代名詞となっている。


 FSBは大統領直属で、FSB地方支部も地方政府ではなくFSB中央の指揮を受ける。長官は連邦安全保障会議の常任委員で、長官と次官が反テロ委員会を主導する。


 一九九五年四月三日の「ロシア連邦における連邦保安庁の機関に関する法律」によると、FSBは連邦本部、各地方の支部、および軍隊内の支部からなる。主な任務はカウンター・インテリジェンス(kontrrazvedka:外国情報機関の調査、情報保全)と犯罪対策であるが、連邦保安に必要な範囲でSVRなどと協力して外国から情報を得る。行動原則は、合法性、権利と自由の尊重、人道主義、機関の統一と集権、公然と非公然活動の組み合わせ、である。


 FSBは、もともとKGBにあった複数の総局、局の集合であり、いくつかはいったん独立したものの、そっくりFSBの傘下に入った。以下はその主なものである。


■国境警備軍


 もともとKGBの国境警備総局で、ロシア連邦になって独立組織となったのち、FSBに付属することになった。モスクワにとっての脅威のタイプが変化したのにともなって、民族主義過激派の動きや密輸の規制など、役割の重みを増した。いくつかの部隊は、地上軍から国境警備軍に引き渡された。


 ソ連崩壊後も、しばらくは各共和国の新国境ごとの警備拠点や配置が進まず、国境警備軍はCIS周縁に配置されたまま残った。たとえばタジキスタンにおいては、アフガニスタンや中華人民共和国との国境で、ロシア連邦の国境警備軍が活動している。ただしGUAM(グルジア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドヴァ)などロシアから距離をおく国々との間では、新国境に部隊が配置されている。それに加えてチェチェンなど深刻な問題を抱える北カフカス国境地域には国境警備軍が多数配属されている。


■通信情報部門


 政府通信情報庁(FAPSI)は二〇〇三年にいくつかの組織に分割・合併されたが、FSBは、大規模部隊とともに、重要な通信傍受、暗号解読機能を継承した。インターネットの監視もおこなっている。


■特殊部隊「アルファ」「ヴィンペル」


 現在FSBに所属する特殊部隊のなかでは、「アルファ(Al'fa)」と「ヴィンペル(Vympel)」が有名である。なお、「スペツナズ(SPETSial'nogo NAZnacheniya)」は、GRU傘下の特殊部隊の名称であったり、転じて特殊部隊一般の総称としても用いられる。また、「OSNAZ(OSobogo NAZnacheniya)」という語も用いられる。双方とも「特殊任務の」というほどの意味である。


 特殊部隊「グループA」は、KGB議長直属の少数精鋭部隊として創設され、西側では「アルファ」と呼ばれた。一九七九年のアフガニスタン作戦におけるアミン大統領殺害で有名である。ソ連崩壊後はいったん警護総局の下に置かれたが、現在はFSBに移管された。二〇〇二年のモスクワのドゥブロフカ(Dubrovka)劇場人質事件、〇四年のベスラン小学校人質事件で突入作戦をおこない、民間人に多数の犠牲が出た。


対外諜報庁(SVR)



 KGBの頃に対外情報収集を担当した第一総局は、ロシア連邦では対外諜報庁(Sluzhba Vneshnei Razvedki)に継承された。本部も、モスクワの南西郊外のヤセネヴォにある建物を引き継いでいる。FSBと同様に大統領直属であり、長官は連邦安全保障会議の常任委員で、反テロ委員会にも出席する。


 二〇〇〇年から〇七年までSVR長官はセルゲイ・レベジェフ(Sergei Nikolaevich Lebedev)が務めてきた。彼はかつてKGB第一総局に勤務し、ドイツ滞在時代にプーチンと知り合い、二〇〇〇年にプーチンは「よく知っていて信頼できる」という根拠でレベジェフをSVR長官に任命した。レベジェフはコムソモール(共産主義青年同盟)からKGBに派遣されており、防諜、諜報の教育を受け、のちに外交アカデミーを卒業したという経歴を持つ。


 二〇〇七年十月に、ミハイル・フラトコフ(Mikhail Efimovich Fradkov)前首相が、SVR長官に就任した。彼は対外通商政策のキャリアを積んできており、一九九九年には通商大臣に任じられた。〇一年から〇三年には、連邦税務警察庁の長官として保安業務の一端を担った。〇四年からは首相を務め、〇七年九月に辞任したばかりだった。


 SVRの活動や機構の内幕については、根拠をもって書かれているものは多くないが、基本的にKGB第一総局のものを継承していると考えてよい。すなわち、本部には積極工作のA機関などがあり、世界の担当地域ごとの局があって、各国に在外レジデンス組織と工作部隊が配置されている。


 現在のロシア連邦の対外政策は、ソ連時代ほどの世界的規模と激しさは持たないが、特定の諸国に対するインテリジェンス活動は、(すた)れることなく継続している。相手国の政治的・軍事的意図のほか、特に西側先進国においては軍事や一般の技術情報も、ロシアの対外インテリジェンスの重要な対象である。

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