『定年後。こう考えればラクになる』
[著]江坂彰
[発行]PHP研究所
よく晴れた夏の暑い日に、戦争が終わった。
京のはずれの長岡生まれの男が、小学四年のときである。お寺の境内に集まった村人たちと、陛下のお言葉に耳を傾けたが、ラジオはザアザア雑音を立て、よく聞こえない。インテリの住職が「戦争が終わった。日本が負けた」とポツンと呟いた。村人たちもうなずく。
戦争に負けたくやしさも、これで命が助かったという安堵感もなかった。みんな静かにいさぎよく、切ない事実を受けとめていたように思う。「なにをバカな」と怒鳴ったのは退役軍人だけ。大阪大空襲の翌朝、はるか西の空が真っ赤に燃えていた。もう一方的に殴られっぱなし。そのとき、大人たちはたぶん日本の敗戦を受け入れる覚悟ができていたようだ。
男の気持ちは複雑。かなり早熟だった男は、まわりの気配で戦争の行方がわかっていた。
遊び仲間に貧しい工員の子どもがいた。その子どもがうっかり「もうすぐ戦争が終わる。日本が負けて……」と口をすべらせた。この大噓つきと、一部の生徒に押し倒された。「だって、うちの父ちゃんが言っていた。