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説得の科学
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生き方・教養
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第3章 ことばによる説得

『説得の科学』
[著]安本美典 [発行]PHP研究所


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 1 共感による説得





 パスカルの述べたふたつの方法

「説得」の「説」という字には、「(ごん)ベン」がついている。「説得」は、本来、ことばによって、相手の賛同を得ることをいう。


 しかし、人は、ことばだけによって説得されるのではない。相手のとった行為、行動や、自分のとらされた行為、行動によって説得されることも多い。


 社会心理学者のJ・アリンとフェスティンガーの実験によると、説得の内容に注意させたときよりも、説得する人の性格に注意をむけさせておいた場合の方が、説得の効果が大きいという。そして、説得する人の性格は、そのことばよりも行動の方に、むしろ、よくあらわれるものである。

「不言実行」ということばがある。

「百日の説法()ひとつ」ということばもある。


 しょっちゅう遅刻してきたり、みずからが行なうべき義務をきちんと果たさなかったりした場合には、どのようにりっぱなことを述べても、説得力をもち得ない。


 行為、行動による説得については、これまでにも、いろいろととりあげてきた。


 この章では、おもに、ことばによる説得をとりあげよう。


 フランスの哲学者パスカルは、人を説得するのには、ふたつの方法があると述べている。


 そのひとつは、人の気に入るような、もののいい方をする方法であるという。いまひとつは、理詰めに徹底的に議論して、相手を論破する方法であるという。そしてパスカルは、第一の方法は苦手なのでと断って、第二の方法、つまり論理による説得の方法について、くわしく述べている。パスカルは、ことばによる説得の方法をとりあげているといえよう。


 パスカルの述べたこのふたつの方法を、つぎのように名づけよう。


 共感による説得の方法


 論理や事実による説得の方法


 以下、ことばによる説得を、大きくこのふたつに分けて述べる。



 「あなた」の三文字


 まず、共感による説得をとりあげる。


 数年前のことである。南極観測隊の中に、新婚間もない隊員がいた。あるとき、その隊員のところに、日本にいる新妻から手紙が来た。その便(びん)(せん)の上には、たった三つの文字が、あいだをあけてやや大きめの字で、書かれていた。


 「あなた」


 たった三文字にしかすぎないけれども、この文字の裏には、新婚間もない妻の無量の想いが、秘められている。あなたに会いたい、あなたのそばにいたい、あなたがほしい、あなたの声を聞きたい、そういう想いが、三つの文字の上に躍っている。


 人間は、感情の動物ともいう。


 情に訴える方法は、説得のきわめて有力な方法のひとつである。


 共感による説得の場合、まず必要なことは、相手を思いやる心をもつこと、真情がこもっていることである。


 しかし、真情にあふれていても、表現力がつたないために、説得に失敗することがあり得る。ことばを用いて、共感による説得を行なうさい、とくにしばしば必要なものとして、「比喩」を用いる能力、すなわち、ものを適切にたとえる力があげられる。そこで、以下では「比喩」について、すこし、くわしく述べてみよう。



 比喩は、イメージと結びつく


 すでに述べた大本教の出口王仁三郎の「人、()(こう)()に落つ」の話では、たくみな(ふう)()が用いられている。


 弁護士スペンスの『議論に絶対負けない法』にあげられている「バード・ストーリー」も、たとえ話である。一種の比喩である。


 渡部昇一氏が、説得を効果的にする三つの原則の一つに、「比喩を使うこと」をあげておられることも、すでに紹介した。


 比喩は、ふたつのはたらきをもっている。そのひとつは、たとえるものをイメージと結びつけるはたらきである。たとえば、「リンゴ」ということばを聞いたとき、私たちは、赤くてまるいリンゴの格好を目の前に思いうかべる。これがリンゴのイメージ(心像)である。このイメージは、私たちの感覚と密接な関係をもっている。そして私たちは、五感のすべてについてイメージをもっている。汽車の音=聴覚、梅干しの味=味覚、彼女の手の感触=触覚、うなぎのにおい=臭覚、こういったものは、イメージとして浮かんでくるといえる。


 比喩の重要なはたらきのひとつに、イメージが希薄なもの、あるいはイメージをもちにくいものを、イメージがはっきりしたものと結びつけ、それを相手に印象づけるというはたらきがある。

「針のように鋭い神経」といういい方を考えてみる。私たちは、「神経」のイメージを思いうかべにくい。「鋭い神経」といっても、もうひとつはっきりしない。そこで、「針」というイメージのはっきりしていることばをもってくる。それによって、神経の鋭さを、目でみるように説明することができる。


 また、「氷のように冷たい心」という比喩について考えてみよう。私たちは、氷の冷たさを触覚的にイメージすることができる。そのため、「氷」をもってくることにより、心の冷たさを、いわば手にとるように実感できるのである。


 前に述べた出口王仁三郎の諷喩にしても、イメージのはっきりしないものに、イメージを与えるという比喩のはたらきが十分に活用されている。国家権力という具体的なイメージのとぼしいものを「虎」にたとえ、大本教を「虎の前の人間」にたとえ、大本教のおかれた立場を、目にみえるように表現することに成功している。



 比喩は、()()の不足を補う


 比喩にはいまひとつ、語彙の不足を補うというはたらきがある。幼児がときどき、ハッとするような新鮮な表現をして、大人を驚かせることがある。


 これまで雪をみたことがなかった女の子がいた。その女の子が、窓のそばにすわっていたら、空からチラチラと白いものが落ちてくるのがみえた。そのとき、女の子は、


 「アッ、空からご飯が降ってきた」


 といった。「雪」を、「ご飯」という自分の知っていることばであらわしている。これは、暗喩と呼ばれる比喩にはいる。この女の子は、ことばの不足を比喩で補っているのである。


 いまひとつ例をあげよう。ある男の子が、長いあいだすわっていたあと立ち上がった。すると、足がしびれていた。ところが、その男の子は、「しびれる」ということばを知らなかった。そこで、男の子はいった。


 「アッ、あんよがサイダー飲んでいる」


 サイダーがのどもとを通るときのジンジン沸騰するような感じと、足がしびれたときのジンジンする感じとでは、感覚的な類似性がある。いい得て妙である。これも一種の暗喩といえる。

「あんよが、サイダーを飲んでいる」。これは、けっして、論理による思考ではない。しかし、私たちに、「なるほど」という感じをおこさせる。一種の説得力をもつ。


 柿の中から、種子が出てきたのをみて、


 「アッ、柿の骨が出てきた」


 といった男の子もいる。



 比喩の種類


 比喩には、いろいろな種類がある。ここで、その主なものをあげておこう。


 第一に、「直喩」といわれるものがある。これは「明喩」ともいわれる。


 第二に、「暗喩」がある。「隠喩」ともいわれる。


 第三に、「声喩」がある。これは「擬音語」、「擬声語」、「擬態語」のようなものを指す。


 その他、「諷喩」、「換喩」などといわれる比喩がある。



 直喩――直接的にたとえる


 第一の「直喩」は、比喩の中でもっともよく用いられるものである。「……のような」とか、「……のごとし」というようなことばを使い、直接的にたとえるものである。


 「女は剣のような瞳を輝かせた」(谷崎潤一郎『刺青』)


 「森の柏の静まった葉波は、一斉にぬれた銀の鱗のように輝きだした」(横光利一『日輪』)


 これは月の光が、森の柏の葉にあたったときの描写である。

「……のような」とか、「……のごとし」といった表現をあまりたくさん用いると、文章がくどくなる。そこで、これを避けるために、すこしちがった表現を用いることがある。


 「死に瀕している貴い女王の頰の色を想い出させるほど崇高に森厳に見える」(谷崎潤一郎『金と銀』)


 ここでは「頰の色のような」ということばの代わりに、「想い出させるほど」ということばが使われている。


 「江の島の海辺で採れる貝にも劣らぬ爪の色あい……」(谷崎潤一郎『刺青』)


 ここでは「ような」の代わりに、「劣らぬ」ということばが使われている。このように他のことばを使うことによって、直喩のもっているくどさを避けることができる。


 相手の共感を得るのに効果的な比喩も、なん回も使われていると、くたびれてくる。新鮮さが失われてくる。「天にも昇るような」とか、「砂を()むような」といった表現は、いまや日常語になってしまい、ふつうのことばと変わらなくなってしまっている。

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