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「スマート革命」で成長する日本経済
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経済・金融
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第5章 新産業誕生の衝撃

『「スマート革命」で成長する日本経済』
[著]片山修 [発行]PHP研究所


読了目安時間:1時間11分
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「六重苦」に負けない成長戦略


「たいへん不利な状況下でも、日本の雇用を守るため、必死に頑張っています。日本のモノづくりにこだわりたいという思いは、いまも変わりません」


 これは、一一年五月十一日、トヨタ自動車社長の豊田章男氏が、同年三月期決算発表の席上で、述べた言葉である。


 豊田章男氏は、〇九年六月の社長就任以来、「日本のモノづくりを守りたい」と、再三主張してきた。震災後も、その主張を貫く姿勢を崩していない。


 ところが、隣席していた同社副社長の小澤哲氏は、その発言を引き取るようにして、こう発言したのだ。

「昨今の円高、一ドル=八〇円という為替の水準は、正直、収益を預かるCFO(最高財務責任者)としては、日本でモノづくりを続けうる限界とも感じています。いつまで日本のモノづくりにこだわるのか。すでに一企業の努力の限界を超えているのではないか。関係部署、あるいは豊田社長に、その旨を進言したい」


 正直、私は驚いた。トヨタには、公の席、ましてや社長本人を前にして「進言する」などという企業文化はないからだ。小澤氏の危機感を受けるかのように、豊田章男氏は、次のように言葉を引き継いだ。

「モノづくりを守りたいという思いだけではやっていけないことは十分理解しています。世界の強豪と同じ土俵で戦えるような環境を整備してもらうことが、歯を食いしばって雇用を守って頑張っている製造業が望んでいることです」


 これは、トヨタの悲痛の声といっていいだろう。


 実際、国内生産に固執すれば、業績の悪化は免れない。しかし、国内トップメーカーのトヨタが真正面から海外移転を宣言することはできない。ましてや、真正面からは自国産業の国際競争力を強化するための環境整備をしない政府への批判は、できない。いくらモノづくりを守りたくても、日本にとどまる限り、「六重苦」がついて回るのだ。


 第一に、一二年十二月に安倍政権が誕生するまで、最も深刻だったのが、円の独歩高だ。円は、ギリシャ発の欧州金融危機の一一年十月七日、史上最高値七五・五四円を記録した。まさに、歴史的円高である。第二に、進まない貿易自由化交渉だ。日本は、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参加の可否の最終判断を先送りし続け、安倍政権になって、ようやく道筋をつけた。第三は、高い法人実効税率だ。日本の四〇・七%に対し、ドイツは二九・四%、韓国は二四・二%だ。第四に、休日労働、残業時間などの厳しい労働規制がある。第五に、二〇年までに「一九九〇年比二五%削減」を明言した他国に比べて格段に高い温室効果ガス削減目標がある。第六に、福島第一原子力発電所の事故に端を発した電力不足だ。


 これら「六重苦」に加えて、東日本大震災で、サプライチェーン(供給網)が寸断された。追い打ちをかけるように、日本企業が多数進出するタイでの洪水による被害だ。


 危機感を抱くのは、トヨタなどの自動車メーカーだけではない。電機メーカーを含め製造業は、グローバル競争の生き残りをかけて、生産拠点の海外移転を積極的に推進した。


 実際、わが国の〇九年の輸出依存度は、一二・五%にすぎない。たとえば、トヨタの海外生産実績が国内生産を超えて逆転したのは〇七年だ。トヨタの一〇年の海外生産比率は五六・九%、ホンダのそれは七二・八%だ。ソニーの海外生産比率は、約七五%である。日本の代表的製造業は、国内の生産コストの上昇を受けて、着々と海外移転を進めてきたのだ。


 幸い、自民党の安倍新政権のアベノミクスのおかげで、円安が一気に進み、七〇円台から九〇円台半ばまで下がった。株価も、大幅に値上がりした。

「この間の『失われた二十年』において、日本が失った株式の総資産額は、約三〇〇兆円に上るといわれています。今回、株価が三割上昇しているという意味においては、八〇兆円ほど回復してきたということだと思います。その意味では、まだまだ三分の一にも満たない回復状況である、というのが日本経済の現状を正しく表わしていると思います」


 これは、一三年二月十五日の自動車工業会の定例記者会見での、豊田章男氏の同会長としての発言である。


 製造業は、円安が進んだとはいえ、ここからが正念場といえるだろう。泣き言をいっている段階ではない。最大のポイントは新たな成長戦略が描けるかどうかである。


 前記のように、日本は、かつて、七三年の第一次石油危機、七九年の第二次石油危機の際、家電などの省エネ技術に磨きをかけ、世界に冠たる省エネルギー化を成し遂げ、経済大国の道を歩んだ。たとえば、エアコンや冷蔵庫の電力消費量は、短期間に三分の一まで減少した。


 今回の電力危機においても、また、これからの時代にふさわしいエネルギーシステムの構築が問われている。スマートシティ事業に対するインフラ企業の取り組みをマクロとすれば、製造業はミクロのそれといっていいだろう。以下、企業のスマートシティ事業への取り組みを探る。それは、日本企業の成長戦略そのものである。


スマホに四つのタイヤ



 米ラスベガスで毎年開かれる、世界最大級の家電見本市「コンシューマ・エレクトロニクス・ショー(CES)」といえば、テレビの新技術などの披露の場として知られるが、近年、自動車メーカーの出展が急増している。今年の「CES」でも、世界の大手自動車メーカーの出展が目立った。


 トヨタは、今年の「CES」で、運転手がいなくても自動で走る実験車両を公開した。また、トヨタは一二年十月、東京・お台場で開かれた、アジア最大の家電見本市「シーテック・ジャパン2012」に初めてブースを開設し、一人乗りEVの試作車「Smart INSECT(スマート・インセクト)」を展示した。


 なぜ、自動車メーカーが、このように各国を代表する家電見本市にブースを開設し、試作車を展示するのか。自動車と家電との境界は、もはやないのだろうか。そこから展望されるのは、進化を続ける自動車の未来の姿だ。


 それを象徴するようなシーンを、私は、あるイベントで体験した。

「一層のこと、スマートフォンにタイヤを四つつけたようなクルマがあれば、面白いんじゃないか」


 一一年十一月二十八日、豊田章男氏は、東京都江東区のメガウェブで開かれた「東京モーターショー前夜祭」の席上、出展するコンセプトカー「Fun-Vii(ファン・ヴィー)」を前に、そう語った。


 壇上の「Fun-Vii」は、ボディがタッチパネルディスプレイになっていた。ユーザーが車に向かってスマートフォンをフリックすると、その日の気分で、ボディカラーを変えることが可能だ。ガールフレンドの誕生日に、ボディ一面に「Happy Birthday!」の文字が躍る車で迎えにいくこともできるという。

「これがクルマ? と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、私は、こういうクルマがあってもいいと思います。


 情報端末としてのコミュニケーション機能に磨きをかければ、クルマは、もっともっと楽しく便利になります。そう考えると、クルマの可能性は、無限に広がると思います」


 豊田章男氏は、そう語りかけた。

「走る」、「曲がる」、「止まる」といった本来の三つの機能に加えて、このようにスマートフォンを介して、インターネットに「つながる」機能が搭載されれば、車は単なる乗り物ではなくなる。車は、「走る情報端末」としてメディア化するのだ。

「未来のクルマは、クルマ単体で存在するのではなく、通信技術によって、住宅を始め、私たちの暮らしや社会とつながり、社会の一員になっていくことは間違いないと思います」


 という言葉で、豊田章男氏はスピーチを締めくくった。


 車はいま、ICTの劇的な進化を取り込み、大変革を遂げようとしている。「スマートカー」の時代を迎えようとしているのだ。


車と情報通信の融合



 トヨタのIT事業は一九九六年頃、課長だった豊田章男氏が、業務改善支援室でディーラーの業務改善活動を始めたことに始まる。そのとき、求められたのは、顧客との接点を構築し、顧客一人ひとりのニーズを掘り下げることだった。

「まだ、『テレマティクス』という言葉はありませんでしたが、まず、車に通信機を積むことを考えたんです。しかし、社内で、そのコンセプトを語っても、トヨタがなぜ、通信、インターネットをしなければならないのだという反応でした。でも、車は、必ずインターネットとドッキングするときがくると思っていました」


 と、トヨタ自動車常務役員の友山茂樹氏は振り返る。

「テレマティクス」とは、テレコミュニケーションとインフォマティクスを組み合わせた造語である。自動車などの移動体に通信システムを組み合わせて、リアルタイムに情報サービスを提供することをいう。いわゆる車のIT化だ。トヨタは、九〇年代半ば、車と情報通信の融合に向けた取り組みをスタートさせた。


 このころから、トヨタ社内では、「インテリジェントな車」、「スマートな車」という言葉が聞かれるようになった。


 〇〇年、「トヨタメディアサービス」というテレマティクスの事業会社が設立された。〇二年夏、トヨタの顧客向けインターネットのリード役として、テレマティクスサービス「G―BOOK」が誕生した。

「ただし、当時のテレマティクスは、たとえば、エアバッグが開いたら、自動通報して救護隊を手配したり、五〇〇〇キロ走行したら、点検のメールを届けるといったように、お客さまに安心、安全を提供することに主眼を置いていました」


 と、友山氏はいう。


 〇〇年代初頭、テレマティクスはまだ、第一世代にとどまっていた。車と情報センターは、必要なときだけつながり、ユーザーに提供されるのは、要求して初めて情報が得られる「プル型」のサービスだった。ユーザーのニーズを先回りして提供するサービスは、まだなかった。車という閉じられた空間内だけの限られたサービスを提供していたにすぎなかった。


 テレマティクスが第二世代に突入するのは、次世代環境車のPHVとEVの誕生以降である。


エコカーで家電を動かす


「PHVやEVを広めるうえで、考えなければならなかったのは、ある一定の地域でEVがいっせいに充電を始めたらどうなるか。その間、社会の電力負荷の上限を一気に押し上げかねません。また、家庭内でも、電気の使用状況を見ながら、充電のタイミングを考えなければいけない」


 と、友山氏は、口火を切った。


 求められたのは、エネルギー管理である。家庭では、いつ、どれだけ電気を使っているのか、家のなかのエネルギーの使用状況を把握し、エネルギーを効率よく使うことが求められる。そのために欠かせないのが、HEMSを備えたスマートハウスである。


 HEMSのタイマー機能を使って、電力需要の低い深夜電力を蓄電池に蓄え、電力需要の高い時間帯に車に充電する。あるいは、深夜に充電する仕組みを考えなければいけない。


 トヨタは、PHVへの充電を自動でコントロールするために、「H2Vマネジャー」を開発した。

「H2Vマネジャー」を使えば、家庭の使用電力の状況をパソコンやスマートフォンで見ることができるほか、パソコンやスマートフォンで充電予約をすることもできる。また、電気の使用量をオーバーしそうになったとき、ブレーカー遮断を避けるため、契約電流を超える前に充電を自動停止し、上限を超えない電流量に戻った時点で、充電を自動再開することが可能だ。

「現在、PHVの保有者の一〇%が、家の分電盤の横に、このH2Vをつけています。経済産業省の補助金の対象になっていることから、ほぼお客さまの負担なしでつけることができるんです。


 スマートフォンを使って電気の使用量をモニターすることができますし、家庭の電力を三〇アンペアまでと設定しておくと、三〇アンペアを超えた場合、自動的に充電をカットする仕組みです」


 と、友山氏はいう。


 トヨタはまた、グループにトヨタホームを持つ強みを活かし、車に限らず、「スマートハウス」同士を結び、コミュニティ間でエネルギーの最適利用を実現するための独自のEDMSを開発した。


 トヨタが参画する豊田市の実証実験では、このEDMSを導入して、各家庭のエネルギー管理システムと連動した地域全体の電気消費量の収集・分析、太陽光発電量の予測などを行ないながら、電力需要のピークシフトを図る実験が行なわれている。


 それから、注目すべきは、「3・11」後、PHVやEVの潜在的可能性が見直されたことだ。


 被災地で深刻なガソリン不足が起き、物資の輸送に混乱をきたしたことは記憶に新しいが、家庭のコンセントから充電したEVは、走行することができた。また、PHVやEVの車載バッテリーは、被災地における非常用電源としても活用された。


 トヨタの外部電源供給システムは、一五〇〇ワットの最大出力で電力を供給できるため、テレビやパソコン、炊飯器やドライヤーなど、家庭内のほぼすべての電化製品を動かすことが可能だ。


 また、バッテリー容量が減ると、HVは自動的にエンジンが始動して発電するため、ガソリン満タンの状態から二日間程度は、最大出力での継続使用が可能だという。

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