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米中冷戦と日本
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政治・社会
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第九章 米中インテリジェンス戦争

『米中冷戦と日本』
[著]春名幹男 [発行]PHP研究所


読了目安時間:37分
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スパイ戦争で勝ち、インテリジェンスで負けて崩壊したソ連

 東西冷戦時代、アメリカはスパイ戦争でソ連に負けた。ソ連国家保安委員会(KGB)は、米中央情報局(CIA)対ソ防諜部長だったオルドリッチ・エームズ、連邦捜査局(FBI)防諜担当捜査官だったロバート・ハンセンから得た情報で、米国の対ソ情報活動を丸裸にしていた。

 エームズは、ソ連内部にCIAなどが開拓した米国スパイ一〇人以上の本名をKGBに通報した。ハンセンも、ソ連政府内の米スパイや米政府内のソ連スパイの動向に関する情報をソ連側に通報した。

 その結果、ソ連政府内の多数の米スパイは処刑されたり、虚偽情報を米側に通報する役目を負わせられたりした。レーガン政権が核軍拡を強硬に進めたのは、実際より大幅に膨らませたソ連核軍備情報を信用したためだった、とも言われる。二人とも、冷戦終結後、逮捕され、終身刑で服役中だ。

 しかし、もっと広く、秘密工作なども含めたインテリジェンス全体の戦いでは、明らかにアメリカが勝った。ソ連は一九九一年末に崩壊した。米国の民主党はソ連は「自滅した」と見ているが、レーガン政権の国家安全保障会議(NSC)の担当者らは、ソ連の外貨収入を阻むなど、秘密の経済戦争で勝利したからだ、と強調している。共和党保守派は、こうした事例を挙げて、レーガン政権がソ連崩壊を早めた、と強調している。

 もちろん、それだけではない。ソ連軍が侵攻したアフガニスタンで、CIAは約二〇億ドルを拠出して、サウジアラビアおよびパキスタンの情報機関とともに、秘密工作を実行した。世界からイスラム戦士を集め、最新鋭の携帯肩掛け式地対空ミサイルを与えて、ソ連軍を痛めつけた。共産主義と戦うイスラム原理主義を支援するため、CIAがコーランを刷って、アフガニスタンで配布したこともあった。

 ソ連軍は敗北して撤退、深い痛手を(こうむ)った。

一〇〇万人を超す中国情報機関員

 米国と中国の間でも、スパイ戦争では中国に軍配が挙げられる。過去には、米連邦捜査局(FBI)や米中央情報局(CIA)などの内部にまでスパイが侵入した事件が摘発されている。後述するが、それよりもっと重大なことに、中国はアメリカから核弾頭情報を大量に入手し、それを基に小型水爆弾頭開発を順調に進めてきたという恐るべき事実があるのだ。米国から中国への情報流出は無数にある。しかし、それで中国が米国を圧倒することはできない。

 単なるスパイ戦争ではなく、包括的なインテリジェンスの争いが最終的な帰趨(きすう)を決する。米ソ冷戦では、米国はソ連にスパイ戦争では負けたが、インテリジェンスの争いではソ連を抑え、ソ連は崩壊した。とくに経済分野などで、アメリカは工夫を凝らした策を進めているように見える。

 米国が中国の覇権拡大を抑えるため、秘密工作を進める可能性は十分ある。しかし、秘密工作を実行するには重大な条件がある。米国が実行したという証拠を残してはならない、ということだ。それが「plausible denial」(もっともらしい理由を挙げて否定すること)の原則である。秘密工作が露見しても、否定できなければならないわけで、オバマ政権が対中秘密工作に踏み切るかどうかが注目される。

 これに対して、中国は人海戦術で対応するだろう。アメリカ国内では、大使館や政府関係出先機関に情報機関員を配し、それに加えて在住の学生、ビジネスマン、米国企業社員らにも多くの情報提供者がいるとみられる。さらに、「影響力の代理人」(Agent of Influence)と呼ばれる、親中の米国人有力者たちがいる。彼らは政府や議会内にも巣食っており、オバマ政権は機密保持に苦労しているもようだ。

 さらに、東シナ海では、米中の海の情報戦が展開されているのは確実だ。何らかの想定外の偶発事故が起きる可能性にも備えておきたい。

 中国のインテリジェンス機関は、共産党、国家安全部、人民解放軍の三部門の統轄下にあり、情報機関員は情報協力者を含めて一〇〇万人を優に超える。中国共産党では対外連絡部(外交)、統一戦線工作部(台湾、香港など世界の華僑団体)が情報機関の一角を成している。

 国家安全部は第1部から第12部まである。第1部(国内部)は、出国する中国人・一時帰国する中国人をエージェントにする任務、第2部は外国情報の収集、貿易商社、銀行、保険会社、海洋輸送会社のエージェント、第3部は香港、マカオ、台湾の工作員を運用管理、第4部(技術部)は情報工作・防諜の技術開発を行うといった形。あとは第5部(地方情報部)、第6部(防諜部)、第7部(文書部)。第8部はシンクタンクの現代国際問題研究所。第9部(亡命対策など)、第10部(科学技術情報)、第11部(電子コンピューター部)などと細かく決められている。国営通信社・新華社が情報機関の一角として、これらの組織を支えている。

 中国人民解放軍は総参謀部第2部が情報を担当、在外大使館を通じたHUMINT(人的情報)と駐在武官管理などに従事、第3部(技術偵察部)でSIGINT(信号情報)、ELINT(電子情報)などを担当している。


1.ソ連崩壊を早めたサイバー工作

KGBが調達した米のソフトに巧妙な仕掛け

 ロシアの外貨収入は、今も天然資源、石油、天然ガス、各種鉱物などだ。ものづくり技術は遅れ、プーチン大統領は外資製造企業の誘致に必死になっている。もちろんソ連時代もそうだった。石油、天然ガスはシベリアの油田、ガス田からパイプラインを引いて外国に輸出する。

 まさに、ソ連の命運を握るパイプライン遮断工作が米国によって現実に実行されていた。

 一九八二年夏、シベリアのパイプラインが突然、故障を起こし、継ぎ目や溶接の強度を超える天然ガスが流れ出て発火、大爆発を起こしたのである。

 米国の秘密工作のターゲットになったのは、シベリアのパイプラインのコントロールセンターで、天然ガスの輸送量をコントロールするソフトウエアだった。このソフトは当初、順調に機能して適正な流量を維持していた。しかし、しばらくしてコントロール機能を失った。そんな巧妙な仕掛けがソフトに組み込まれていた。

 この秘密工作を実行したのは、レーガン大統領のホワイトハウスで国家安全保障会議(NSC)国際経済担当上級部長をしていたガス・ワイス氏だった。ニクソン、フォード、レーガンの三共和党政権でNSCスタッフを務めた。カーター民主党政権では宇宙政策担当国防長官補佐官兼大統領情報委員会委員だった。

 一般的には有名ではなかったが、情報関係者の間では知る人ぞ知るVIPだった。米中央情報局(CIA)の功労章、国家安全保障局(NSA)の暗号賞、さらにCFM56という最高傑作の航空エンジンの米仏共同生産に貢献したとして、フランスのレジオンドヌール勲章までもらったほどの人物である。
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