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こまってしもうた 忘れてしもうた
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ルポ・エッセイ
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恐ろしい悪だくみ

『こまってしもうた 忘れてしもうた』
[著]安藤りつ [発行]PHP研究所


読了目安時間:7分
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「私の(はや)()(てん)ならいいんですけど」


 九十三歳の村山スズさんが近寄ってきた。二日ぶりに会ったのに、ずっと前から私がそこに立っていたかのように言う。

「おはようございます」


 腰を低くして言うが、(あい)(さつ)は返らない。


 小さな顔は、入れ歯がはずれているのでますます小さく縮まっている。


 わきにはさんでいるのはお()()みの紫色をしたちゃんちゃんこ。太い毛糸で編んだちゃんちゃんこを片時も手放さない。丸めたそれを守るように抱えて(ゆう)(うつ)そうだ。

「何か心配なことでもあるんですか?」

「心配もなにも、どうも恐ろしい悪だくみがあるようで」

「悪だくみ?」

「えぇえぇ。あそこにね、たくさんの人がいるでしょう。私が(もち)をつくように言われたんですよ。だけどお断りしたら皆さん怒ってしまって」

「きっと誰も怒ってなんかいませんよ」

「いいえ。誰もかれも怒っていて、私はどこに帰ればいいのか」


 廊下の先に見える食堂のほうを探るように眺めている。


 話題を変えるようにして、

「これ、何を持っているんですか?」


 ちゃんちゃんこを指した。


 スズさんはふっと笑って、

「これですか? これは大事なお餅を隠しているんですよ。娘に食べさせようと思って」


 ほがらかにほほえむ。

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