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こまってしもうた 忘れてしもうた
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ルポ・エッセイ
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施設で働く理由

『こまってしもうた 忘れてしもうた』
[著]安藤りつ [発行]PHP研究所


読了目安時間:15分
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 私が勤務して間もないころ、()()(よし)()さんはよく食堂で紙を折っていた。小さく切った広告を、丁寧に折って鳥を作る。


 色とりどりの鳥が、二羽三羽と時間をかけて増えていく。


 私も()()して折った。


 九十歳を迎えた久保さんは、ぬけるような白い肌に白髪の柔らかさが手伝って、とてもきれいなおばあさんだ。


 つんと通った鼻筋から小さな口元の結びが、お(ひな)さまが年をとったようで、私はときおり、背中に光を受けて座っている久保さんに見とれることがある。

「鳥の大家族だよ。あたしは家族がいないからね」


 手を休めずに久保さんが言った。


 久保さんの話す声をしっかりと聞いたことのなかった私は、人の少ない食堂ですらすらとよく(しやべ)ることに驚いた。

「結婚したら子供ができなくて、そんな嫁はいらないって追い出されたよ」

「それからずっと一人ですか?」

熱海(あたみ)の旅館で働いたよ。めっぽう働いたから一人でもお金の不自由はなかったね。頭に血が詰まって倒れるまでは一人で働き続けたよ。他にすることもなかったしねぇ」


 久保さんは白い髪の生え際を指して、

「ここを切って手術をしたんだよ。それからは妹夫婦の世話になった。だんだん足も利かなくなってくるだろ。居座るのは迷惑だからね。ありがたいことにさ、親の残したものもあってここに世話になってるんだよ」


 鼻の下を伸ばすようにおどけて言った。

「あんた家族は?」

「子供は二人、男と女と一人ずつです」

「そりゃめっけもんだ」


 久保さんは新しく出来上がった鳥を私の前に置いた。


 粗探しに明け暮れる()()(ふさ)()さんが食堂にいるとき、久保さんはほとんど口を開かない。

「宇野さんがここにいるときは、あたしはとぼけているからね。悪口に便乗するのは趣味じゃない。耳が遠いってことにしてあるから、宇野さんの前ではあたしに話しかけるんじゃないよ」


 久保さんは親指と人差指で丸を作り私に向けた。私も同じようにしてサインを送る。

「あんた、この近くかい?」

「山の向こう」


 サインを交わした私はすぐに打ち解けた間柄のような話しぶりになった。

「あんたの子供はもう大きいのかい?」

「中学生と高校生」

「じゃこんなものは喜ばないね」


 大きさの違う鳥を並べながら言った。

「もらっていい?」

「子供は喜ばないよ」


 私は大きな鳥を一羽、小さな鳥を二羽選んだ。


 自分と子供二人のつもりである。


 離れた場所では、(おか)(もと)ちよこさんが両手でテーブルを(たた)いていた。

「あの人もね、若い時分は料理や裁縫が得意なできた奥さんだったそうだよ。あんたが来る少し前に、ここで一緒に暮らしてたご主人が亡くなってね。子供さんを小さいうちに亡くしてずっと二人で生きてきたんだろうね。

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