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こまってしもうた 忘れてしもうた
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ルポ・エッセイ
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誕生日と死

『こまってしもうた 忘れてしもうた』
[著]安藤りつ [発行]PHP研究所


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 入居したばかりの(いの)(うえ)(すすむ)さんには、同居していた娘さんと奥さんが連れだって毎日のようにやって来る。

「何かない? 何かない?」


 井上さんは、ひたすら食べるものを求める。

「食べたばかりでしょう、おなかがすいてるの?」

「おなかがすいてる、おなかがすいてる」


 必ず二度繰り返して言う。


 入居したときに、家族はスケッチブックとクレヨンを持ってきた。


 出版社に勤務していた井上さんは絵を描くのが好きで、近所の子供を集めて絵を教えていたこともあったという。


 スケッチブックには、富士山がそびえる風景や、何枚もの似顔絵が描かれていて、それぞれのモデルの名前と、自分の名前を筆記体で書いたサインが入っている。


 どの絵もさらさらと簡単に描いたように見えるが、遠近感も線の扱いにも動きがあって修錬した者の出来栄えだ。

「裕チャン」と書かれた似顔絵は娘さんだ。

「やさしい裕子さんの素敵な絵ですね」

「素敵な絵、素敵な絵」


 何度もうなずいて、

「何かない? 何かない?」


 と、また繰り返す。

「お好きな画家は誰ですか? ピカソ? シャガール?」


 そう尋ねるスタッフの飯田さんを見上げた井上さんは、細い目がすぐさま鋭い目つきになって、込み上げてくるような深呼吸をしたかと思うと、

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