読みたいトコだけ買える本。
犬耳書店
初めての方へ 記事一覧 無料登録 ログイン
0
-2
kiji
0
0
1223886
0
こまってしもうた 忘れてしもうた
2
0
0
0
0
0
0
ルポ・エッセイ
お気に入りとは?

お気に入りボタンを押すとお気に入りリストにこのページが追加されます。興味のあるページ・気になったページを後から確認するのに便利です。

お気に入り お気に入り
残された生きる時間

『こまってしもうた 忘れてしもうた』
[著]安藤りつ [発行]PHP研究所


読了目安時間:10分
この記事が役に立った
0
| |
文字サイズ


 日曜日は診察に出掛けることもない。往診や、個人的に依頼しているマッサージやリハビリの訪問もない。曜日の感覚を失わないために体操もお休みだ。


 十時のお茶をすませた石塚完治さんが、

「あと五分で十時半です。早く体操の準備を整えて下さい」


 ()()ごと体の向きを変えながら静かにつぶやく。静かになっても石塚さんのルールは変わらない。

「今日は日曜日だから体操はありませんよ」


 石塚さんは、黙って椅子を元どおりに戻す。


 クラシックの音楽が広い食堂に流れて、日曜日は穏やかに過ぎていく。


 週刊誌を抱えてきたのは村山スズさんだ。

「この悪そうな顔をごらんなさい」


 スズさんの差し出した表紙には、(せい)(かん)な顔つきの若手俳優が鋭い目つきで写っている。

「この人は職業が泥棒なの」


 こっそりと言って、雑誌を隠すように抱えて歩きだした。


 (はい)(かい)の激しい神保治子さんが、ふらりとうしろをついていく。


 廊下の()()りを使ってようやく歩いている(おか)(もと)ちよこさんは、歩き始めの子供のように両手を伸ばしながら近づいてくる。その手をとって、あてもなく食堂を回って歩く。


 野村シゲ子(シャッポ)さんがするするするっとすり足で、テーブルの間を縫って歩く。

「どうしたもんか、チョロ松がたくさんいるねぇ」


 大平喜志子さんは徘徊する人をチョロ松と呼ぶ。

「今日は日曜日だから、チョロ松さんたちはお散歩を楽しみたいんでしょう」


 私が言うと、

「良いお天気だものね」


 ぬり絵の手を止めて庭に目をやった岩崎ふみさんに、

「ハナミズキが見事ね」


 女学生さんが答える。

「ちっとは落ち着いて座ったらどうだい」


 歩き回っているシャッポさんと神保治子さんを眺めた宇野房栄さんがあきれて言う。

この記事は役に立ちましたか?

役に立った
0
残り:3929文字/本文:4668文字
この記事を買った人はこれも買っています
      この記事を収録している本
      この本で最も売れている記事
      レビューを書くレビューを書く

      レビューを書いてポイントゲット!【詳細はこちら】

      この本の目次